今回から2回にわたって創造性のシステムモデルについてお話していきます。

みなさんは「クリエイティビティ」といったら、どんなことを想像しますか。私はチクセントミハイ博士の本や論文を読む前は、「すごい才能を持った人の特殊な話」であり、自分には全く関係のない話だと思っていました。実際、心理学者の研究ではクリエイティビティはもっぱら心理的なプロセスだという考え方が一般的です。

それに対して、チクセントミハイ博士は、社会や文化におよぶような大きなクリエイティビティ(Big Cとよんでいました)は個人一人の力ではなく、個人と社会と文化の相乗効果から生まれくるとしています。つまりクリエイティビティは誰か一人の成果物ではなく、それを「確かに独創的で価値がある!」と判断した社会システムの成果物と見ることができると言うのです。
このことを博士は創造性のシステムモデルとよんでいます。

自分の育った文化が「独創的なアイディア」を作る

人はみんな文化の影響を受けています。
自分の育った環境で音楽が盛んだった、技術者が多かった、自由に議論する雰囲気があったなどの一つ一つの文化を、博士はドメイン(活動範囲)とよんでいます。文化は沢山のドメインで構成されているということです。
文化の影響を受け、感謝しつつ、そしてそれに変化を起こしたい個人が努力を重ね、これまでにない価値のある「すごく独創的なアイディア」を思いついたとしましょう。

その「独創的なアイディア」とは、「これまでにないおいしい料理のレシピを編み出したこと」かもしれません。「誰も考えたこともない物理の方程式を考えたこと」かもしれません。

アイディアを浸透させるたった1つのポイント

でも、たいていの「すごく独創的なアイディア」はすぐに忘れ去られてしまいます。
これを防ぐためには、「お墨付き」が必要なのです。
そのアイディアが長期に渡り、つまり文化にとって価値のある「すごく独創的なアイディア」として定着するためには、それを「すごく独創的で価値がある」と認定してくれる人のお墨付きをもらわなくてはなりません。このお墨付きを与えるのがそれぞれの分野(フィールド)におけるゲートキーパーと呼ばれる人です。有名な料理評論家がテレビ番組でおいしいといった、有名な専門誌の査読プロセスを経て「先進的な研究」として取り上げられた、などがこれにあたります。社会はたくさんのフィールドでできています。

社会のお墨付きを得た「すごく独創的で価値のあるアイディア」は、文化の一部になります。
すると、今度は一人一人の個人ではそれが本当に「すごく独創的で価値のあるアイディア」なのかはわからなくても、文化として受け入れるようになります。
有名な料理評論家が「おいしい」といった新しいタイプの料理の店には、まだそれを食べたことがない人たちで行列ができるでしょう。一つ一つの方程式はよくわからないけれど「アインシュタインのアイディアは画期的だ」ということは、なぜか私でも知っているのです。
文化はこういった「料理」「科学」といったたくさんのドメインでできています。この文化は個人に影響を与えて行き、それを前提として、さらに変化を起こしたい個人が「すごく独創的なアイディア」を考案して行くということです。

創造性のシステムモデルを前提に個人の立場から考えると、クリエイティビティを起こして行くには、個人の独創性はもちろん、今変えたいと思っている文化をよく理解し、社会の意見をよく理解することが必要ということになります。つまり、広い意味でのコミュニケーション能力が必要になるということです。

クリエイティビティとイノベーション、2つの言葉の意味

最後になりますが、博士がここでいう「クリエイティビティ」は、多少の解釈の違いがあるにせよ、「イノベーション」と、大きな意味ではほぼ同じであると考えて読み進めて頂いても問題はありません。
まず、この2つの「一般的な解釈の違い」を見ていきましょう。

クリエイティビティにもイノベーションの定義にも諸説あり、様々な意味に解釈することができます。そのなかでも最近の多くの論文などでは、「新しい」と「価値がある」の2つの要素がそろったアイディアをクリエイティビティといっているように思います。新しく、価値があるアイディアを生み出す人のあり方、考え方に焦点を当てた研究、新しく、価値があるアイディアを生み出すプロセスや、それをサポートする環境の研究なども盛んです。

一方、イノベーションは「新しく」「価値がある」アイディアを「社会で実現すること」という定義に落ち着きつつあります。

一般的な解釈では、このような違いがあります。しかしながら、博士は文化への定着までを含めて「クリエイティビティ」と考えているので、一般的な意味でのイノベーションまでを視野に入れてシステムモデルを展開していると言えるのです。

「クリエイティビティよりイノベーションが大事!」と思われる方、安心してこの先も読み進めて頂いて、みなさんのイノベーションのためのヒントを見つけて頂けたらと思います。

次回はこのシステムモデルを組織に置き換えた場合について考えて行きましょう。

チクセントミハイ博士の講演をグラフィックファシリテーションで紹介

  1. クリエイティブな人の特性
  2. チャレンジとスキルのバランス
  3. 「フロー理論」の8つの精神状態
  4. 指示を与えるのは逆効果?チクセントミハイ博士に聞く「フローと集団」
  5. クリエイティビティを起こすために必要なもの
  6. 組織文化が独創性を育て、独創性が新たな組織文化を育てる

「フロー理論」の第一人者、チクセントミハイ博士の初来日講演の一部を、グラフィックファシリテーションの技法を使って6つの章にまとめています。本記事では5章のみお伝えしましたが、いかがでしたでしょうか?「クリエイティビティが生まれる条件」についてより詳しくご覧になりたい方は、下記より1冊のebookとしてダウンロード頂けます。貴社での組織づくりに、是非お役立てください。

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牧原 ゆりえ
一般社団法人サステナビリティ・ダイアログ代表理事/Art of Hosting Japan 世話人 国際基督教大学を卒業後、大手監査法人に公認会計士として勤務。出産を機にサステナビリティに強い関心を持つようになり、家族とともにスウェーデンで4年に渡り生活。持続可能な社会のための戦略的なリーダーシップ等2つの修士課程で学ぶ。留学中に出会った北欧発の参加型リーダーシップトレーニングArt of Hosting、グラフィック・ファシリテーションを軸に、スウェーデンのサステナビリティ戦略フレームワークを伝えるための活動を展開。