前回に引き続き創造性のシステムモデルについて、今度は組織にクリエイティビティを起こすケースについて考えて行きましょう。

創造性のシステムモデルには3つのサブシステムがありました。
個人と社会と文化です。

組織という文脈ではそれぞれ、従業員、管理職、組織文化と組織の知識、と考えることができます。
従業員の方は「フロー」状態を繰り返し、「すごく独創的なアイディア」を生み出します。管理職の方が、それに対し、「いいね。やってみよう」というお墨付きを与えることで組織文化として認められていきます。その組織文化の影響を受けた従業員が……という具合です。今回も博士のいうクリエイティビティと、みなさんのイメージするイノベーションは、「だいたい同じ意味である」くらいに理解して読んでいただいて構いません。

組織でクリエイティビティが多く起きるために、それぞれのシステムで必要なこととは何でしょうか。

従業員の立場から~「門番」を攻略する

まず従業員について見て行きましょう。従業員の場合、「すごく独創的な価値あるアイディアであるというお墨付き」をくれる管理職に対して、うまくコミュニケーションをとり、行動することが必要になります。「いいアイディアだから、分かってもらって当たり前」ではなく、管理職という名前の門番(ゲートキーパー)を突破すれば自分のアイディアが実現に大きく一歩近づく、と考える必要があるのです。自分のアイディアを実現するための初めの一歩だと思って心を込めて話してみましょう。

そしてこれは私の意見ですが、ゲートキーパーは1人じゃない、どこにいるかわからない、と思っておくことが大切だと思っています。
「すごく独創的なアイディア」は、直属の上司でなくても、誰かがみていて応援してくれるかもしれません。もしかしたら組織の外の個人的なネットワークのなかに、小さな門を開けてくれる人がいて、その人に認められたことがきっかけであなたの上司の見方が変わるかもしれません。

目の前にみえるゲートキーパーとうまくコミュニケーションがとれないからといって、みなさんの「すごく独創的なアイディア」をあきらめてしまわないことが大切だと思います。

管理職の立場から~管理職の「本当の仕事」とは?

次に、管理職について。
チクセントミハイ博士は、「組織が停滞するのは、クリエイティブな潜在能力をもつ個人がいないせい、というわけではない。管理職の働きが効果的でないこともその原因だ」としています。

独創的な従業員がどれだけ組織文化を変えようと試みたのか、というだけでなく、管理職がどのぐらいクリエイティビティを受容し、導く力があるのかが鍵だというのです。
クリエイティビティをより形にしていくためには、個人のモチベーションを上げるといったことだけに焦点を当てすぎず、管理職に働きかけていくことが有効と言えそうです。

「すごく独創的なアイディア」は、それまでの組織の価値観や常識にそぐわない側面もあるでしょう。それに「価値がある」という意思を表明し、実現のための道を開く管理職のスキルなのです。みなさんの会社では、この「管理職のスキル」は、どのようにトレーニングをしていますか?

「細分化&団結」で、会社の改善を狙え

また博士は、クリエイティビティがおこる理想的な社会の条件は、「社会が専門的なフィールドに非常に分化し、かつそれらが有機的に団結しているような社会」としています。
管理職同士が自身の専門性を高め合うことが大切です。「すごく独創的なアイディア」の実現を支援するスキルを切磋琢磨して磨き合い、必要な知識は円滑に共有されている状況を作ることが重要だということです。
A部門とB部門の席はお隣同士なのに、お互いが何をしているかに全く関心がなかったり、ほとんど口もきかなかったりという状況は、この視点からみると、もったいないのです。

「必要は発明の母」の常識を疑え!

最後に組織文化(カルチャー)と組織の知識(ドメインとナレッジ)です。
博士は、ルールを破る傾向がある人、自分自身の好奇心や興味が奨励されている環境にいる人の方が、クリエイティブな従業員になると考えています。

博士は「必要は発明の母」という言葉に疑問を投げかけてもいます。明日生きていられるかも分からない時、自分が属しているはずのドメインへのアクセスが著しく制限されている時、新しいことを学び、やってみようという意欲を持つことは普通の人には難しいだろうということです。
これを組織に当てはめて考えてみると、例えばいつ自分がリストラをされるかわからない状態、組織の大切な情報にアクセスできずに拒絶されていると感じている状態では「すごく独創的なアイディア」を思いつくのがそもそも難しいということになるでしょう。

また、「すごく独創的なアイディア」が認められ、組織文化の一部となるためには時間がかかります。ゴッホの絵が認められたのは、彼が亡くなってしばらくしてからという話は有名です。また、クリエイティブなことをする人の約半分は、平凡な子供時代を送り、大人になるまで目立たないという調査もあります。

短期的な利益のみを追求する組織文化の中にあっても、本当にごく一部の人は自身の信念で「すごく独創的なアイディア」に挑戦すると思います。でも、今は、そういう一部の人のクリエイティビティを待っていれば組織が生き残って行ける時代ではありません。だからこそ組織でのイノベーション・クリエイティビティを起こして行くことが盛んに議論されているのです。

みなさんの組織は、従業員の方がクリエイティブになれる仕組みや環境を作っていますか。そしてもちろん、従業員の方が「フロー」を感じられる仕組みや環境はありますか。

6回に渡りチクセントミハイ博士の講演をひもときながら、博士のメッセージを振り返る機会をいただけてよかったなと思います。イノベーションやクリエイティビティといったカタカナの根本には、私たちの人間らしさを信じ、行動し、つなげ合う環境の重要性があるのだと改めて感じました。

参考文献
Csikszentmihalyi, M. (2006). A system perspective on creativity. In J. Henry (Ed.), Creative management and development (pp. 3–17). London: Sage Publications Ltd.

チクセントミハイ博士の講演をグラフィックファシリテーションで紹介

  1. クリエイティブな人の特性
  2. チャレンジとスキルのバランス
  3. 「フロー理論」の8つの精神状態
  4. 指示を与えるのは逆効果?チクセントミハイ博士に聞く「フローと集団」
  5. クリエイティビティを起こすために必要なもの
  6. 組織文化が独創性を育て、独創性が新たな組織文化を育てる

「フロー理論」の第一人者、チクセントミハイ博士の初来日講演の一部を、グラフィックファシリテーションの技法を使って6つの章にまとめています。本記事では6章のみお伝えしましたが、いかがでしたでしょうか?「クリエイティビティが生まれる条件」についてより詳しくご覧になりたい方は、下記より1冊のebookとしてダウンロード頂けます。貴社での組織づくりに、是非お役立てください。

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