20年以上にわたり、地球環境問題の解決に大きく貢献した個人や組織を顕彰する国際賞である「ブループラネット賞」による顕彰事業や、世界がどれほどの環境危機に直面しているかを示す「環境危機時計®」を毎年発表するなどの地球環境問題解決に関わる事業を行っている公益社団法人 旭硝子財団。
これらの活動を行う中で、どれほど地球環境が危機に直面していることを科学的なデータもって示しても、それだけではポリシーメーカーは動かず、国同士が環境問題について話し合おうとしても、重視している課題は国や地域によってバラバラ、長期的視野で持続可能性を考えた経営を行っているまだまだ企業は少ない…など、地球環境問題解決の難しさ、課題が浮かび上がってきました。では今後、我々はこれからどのようにこの課題に取り組んでいけばよいのでしょうか。地球環境旭硝子財団の安田哲朗事務局長にお話をうかがいました。
「今変われるかどうか」が生き残るための鍵に
2014年度の「環境危機時計®」のアンケート調査には、「地球環境のために我々が今やらなくてはいけないことはなんでしょうか」という自由記述の設問があります。この欄の回答をまとめてみると、世界中の環境問題に関わる専門家、活動家らが、今後、どうすべきだと考えているかを読み取ることができます。
自由記述傾向分析 | 述べ総計 |
政府、世界的機関 政策決定者、世界的行動 | 940 |
環境問題の認識、理解の向上 教育 | 569 |
世界経済の変換 生産産業/消費 | 439 |
ライフスタイルの変更 個人の価値観 | 396 |
温暖化ガス抑制 化石燃料削減者など装置効率化/稼働削減 | 360 |
社会的対応 含むNGO | 346 |
法政・税制の適正化 | 344 |
緩和策 | 153 |
技術 研究、開発、移転 | 152 |
適応策 | 149 |
再生可能エネルギーの導入 | 141 |
一番多い回答は「政府、世界的機関の活躍」ですが、その次に「環境問題の認識、理解の向上」、そして「世界経済の変換」、「ライフスタイルの変更」と続きます。やはり、政府、世界的機関が連携し、リーダーシップを取って環境を大切にする経済への転換を推進する、といった公的な動きは重要だが、それ共に、1人1人が環境問題についてもっとよく理解し、価値観を改め、ライフスタイルを変化させるといった草の根の動きの重要性も見直さなくてはならない、というのが環境専門家たちの見方です。
「環境問題の認識、理解の向上」のための環境教育の重要性が見直されるようになってきたこともあり、財団では2013年からは若年層向けに新たにキャラクターを作り、そのキャラクターが登場するマンガ絵本を作成しました。絵本の内容は、環境問題について分かりやすく解説したもの。若年層向けの絵本ですが、子どもも分かれば大人も分かるので、大人の人にも読んでいただきたいです。日本語版と英語版があり、イベントなどを通じて配布しています。
子どもたちの未来のために、個人がもっと環境に対する意識を高めていくこと、環境教育に取り組むことももちろん大切ですが、企業は持続可能性についてどのように考え、取り組んでいけばよいのでしょうか。
「環境危機時計®」は1992年から地球が危機に瀕していることを示しており、様々な取り組みが行われてきましたが、地球環境は悪化の一途を辿っています。企業はやはり、できるだけ早く、自社の経営の基盤となっている“広い意味でのストック”(有限である自然資源や自然環境)を意識して現状を把握し、一刻も早く持続可能性を高めるための取り組みを始めることが、差別化を生み、生き残るための鍵となるように思います。たとえばトヨタは、原油が枯渇するであろう100年後も企業として生き残るために、燃料電池分野などへ積極的な開発、投資を行っています。
こうした取り組みを始めるために、企業は目の前の決算数字ばかりを追うのではなく、長いスパンで遠くを見ようとする意識を持つことが重要です。それは、大企業だけでなく、地方のローカルな企業であっても重要で、生き残りを考える上では生産量の増大だけを目指す“規模の経済”からは離れた考え方を持つべきです。たとえば、送電ロスが大きい大規模発電所での発電に頼るよりは、地元の小川で小規模な電力発電を行うことの方が、無駄なくコンパクトに自立した経営ができ、変化にも強く生き残ることができるかもしれません。
今、世界はまさにこうした産業構造の大きな変わり目にあるように思います。そして、今そのことを認識して変われるかどうかが、100年後も生き残れる企業かどうかのカギとなってくるように思います。
【サスティナブル事例】ブループラネット賞顕彰を通して~旭硝子財団の活動
- 環境問題のノーベル賞!?「ブループラネット賞」を知っていますか?
- どれほど環境危機を伝えてもなにも変わらない理由とは
- 進みつつある「環境危機時計®」が教えてくれること
- 100年後も生き残るために我々が今やるべきこと
いかがでしたでしょうか?地球環境問題の解決がなぜ進まず、今後どうすれば良いのか、公益財団法人旭硝子財団の安田哲朗事務局長にお話を伺い、4章にまとめました。本記事では4章のみお伝えしましたが、以下より4章すべてをご覧いただけます。是非ダウンロードして、貴社の取り組みにお役立てください。
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1972年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒。通信社、出版社勤務を経て、2006年にフリーランスライターとして独立。ビジネス誌、専門誌を中心に、企業の人材育成、人材マネジメント、キャリアなどをテーマとして、企業事例、インタビュー記事などを多数執筆。人事・人材育成分野の書籍ライティングも手がけている。