「ブループラネット賞」は、環境分野のノーベル賞をめざし、1992年に公益財団法人 旭硝子財団が創設した賞です。20年以上に渡って毎年、地球環境問題の解決に向けて著しい貢献をした個人、組織を顕彰してきたことには変わりはないのですが、年を経るうちに受賞理由の傾向は変化してきていると、旭硝子財団の安田哲朗事務局長は指摘します。具体的には、初期に多かった地球環境問題についての科学的な調査研究から、経済、社会学的な観点からの研究や、具体的な実践を行う団体などへシフトしてきているとのこと。

それは、世界中で地球環境の危機を共有しながらも、その解決に向けての取り組みが、遅々として進まず、停滞を繰り返してきた経緯と関係しているようです。安田事務局長にその経緯と共に、経済学的なアプローチにより昨年受賞したハーマン・デイリー教授の研究についてお話をうかがいました。

警鐘を鳴らすだけでは何も変わらない!?

ブループラネット賞トロフィー

 

「ブループラネット賞」が創設された1992年の地球サミットでは、世界各国が協力して地球温暖化対策に取り組むことに合意しました。当時は、「地球環境は大きな危機にさらされている」という科学的事実を世界中の人々に示して警鐘を鳴らし、危機感を共有しさえすれば、ポリシーメーカーが問題解決の方向に動き出し、改善の方向に向かうはずだと考えられていたのです。

さらに1997年には先進国による温室効果ガス削減目標を定める京都議定書が採択されました。しかし、いざ削減に向けて議論が活発になるにつれ、先進国と発展途上国との立場の違い、いわゆる「環境の南北問題」や先進国間での意見の違いが表面化。192ヶ国が参加した2009年のCOP15(第15回気候変動枠組条約締約国会議)でも、拘束力のある数値目標など新たな枠組みを決定する合意には至りませんでした。

このように、国際会議などで、地球環境問題の原因とその解決につながる様々な施策が提案されても、なかなか合意、実行につながっていかなかったのは、最終局面では、どうしても自国の経済的な利益が優先されてしまいがちだからです。そのため、特に2000年代以降、環境専門家の間では「危機的状況であることをポリシーメーカーに伝えても、それだけでは具体的な行動につながらない。結局、経済がドライブにならなければ動かないのだ」という認識が広がりました。その結果、環境的な視点を取り入れた経済学、社会学や、実際に地球環境解決につながる実践にスポットが当たるようになってきたのです。

環境、資源は人類共通のストック

たとえば、2014年受賞者の1人、ハーマン・デイリー教授は、経済学に、環境、地域社会、生活の質、倫理性といった要素を盛り込み、エコロジカル経済学の礎を築いた人物です。地球上の資源は無限ではなく、人類全体にとっての資本であり、経済成長が人類の幸せにつながっていくためには、経済の要素として考えられる人口資本、人的資本の他に自然資本という考え方を取り入れていくべきだと説きました。

経済学には、フローとストックという考え方があります。この場合のストックはあくまでも会社や国の資産、資本という意味ですが、広い意味で、自然資源、自然環境などの社会資源も、ストックです。そしてこれらのストックは無限ではありません。自然資源の限界は、諸説がありますが、このままいくと2050年あるいは2070年頃には尽きてしまうという試算もされています。こうした人類共通の自然資源を使い果たしてしまえば、経済成長もそこで止まります。自社だけのフローとストックだけを見て、また短期的利益だけを見て経営判断をしても、自然資源、自然環境という足元のストックを見ない、ということは子ども、孫世代にそのツケを押し付けているだけであり、全世界規模でフローとストックを見ていかないと破滅する、というのがデイリー教授の考えです。

また、環境問題を考える上では、単に経済成長という観点だけでなく、経済成長の先に何を目指すかという価値観、倫理観も重要です。デイリー教授は経済成長の究極の目的を“人間の幸福”と定義しています。たとえば、公害防止用排気フィルターのスイッチをオフにしてコスト削減をしている海外の工場で製造された商品を販売すれば、日本の消費者はより安く商品を入手することができます。

しかし、それがもし、結果的に中国でPM2.5などの大気汚染を引き起こす一因になっているとすれば、日本の消費者は中国に環境コストを支払わない代わりにより安い商品を手にしていいのか、という倫理的な問題が生じます。しかも、最近では中国での大気汚染の影響が日本にも及んでいますし、このまま大気汚染が拡大すれば、将来、中国、日本ともにそこに暮らす人々の健康、生活の質が悪化していきます。安価な商品を生産するために環境を犠牲にすることは、短期的な利益にはつながっても、“人間の幸福”にはつながらず、長期的には企業にとって経営の土台となる人の暮らしを脅かすことにもなりかねません。

結局、この先の50年、100年といった長期的なスパンで企業の持続可能性を考える上では、地球規模で自然資本という考え方を取り入れて考えざるを得ません。しかし、実際にそこまで視野に入れた経営を行っている企業はそれほど多くはありません。また、変化に対するレジリエンスという観点を持つことも重要です。今はグローバル経済で、世界全体でコスト最適化を図っていくのが普通ですが、実は役割が分散しすぎると、変化に弱くなります。

東日本大震災の際も、部品を供給していた一部品工場が被災し、部品が欠品したために、自動車工場の製造ラインがストップする、といった例がありました。効率を多少犠牲にしても、ローカル単位で自立し、ネットワークを形成する方が変化には強いという側面があり、企業の持続可能性を考える上では、ローカルベースのレジリエンスを高めていくことも、考えていかなければなりません。日本はこれから人口減、経済縮小の時代に向かっていくことはほぼ間違いないわけで、そうした中では、消費者の価値観もただ「安いから買う」ではなく、「少し高くても環境に配慮した企業の製品を買う」「自分で作ってみる」など持続可能性を意識した選択をするように変わっていく必要があります。

―――>(3)進みつつある「環境危機時計®」が教えてくれること へつづく

安田 哲朗(旭硝子財団 事務局長、顕彰部長)

1951年 京都府生まれ。神戸大学理学部卒。MBS(マンチェスター大学MBA)卒、製造会社経営企画部長等を経て、2009年に公益財団法人旭硝子財団 事務局長に就任。世界的な環境賞であるブループラネット事業、地球環境問題のアウェアネス促進のための環境危機時計®などの事業を手がけ、国内外の環境機関、研究者、活動家と連携し同事業の認知度の向上を図っている。

 

【サスティナブル事例】ブループラネット賞顕彰を通して~旭硝子財団の活動

  1. 環境問題のノーベル賞!?「ブループラネット賞」を知っていますか?
  2. どれほど環境危機を伝えてもなにも変わらない理由とは
  3. 進みつつある「環境危機時計®」が教えてくれること
  4. 100年後も生き残るために我々が今やるべきこと

いかがでしたでしょうか?地球環境問題の解決がなぜ進まず、今後どうすれば良いのか、公益財団法人旭硝子財団の安田哲朗事務局長にお話を伺い、4章にまとめました。本記事では2章のみお伝えしましたが、以下より4章すべてをご覧いただけます。是非ダウンロードして、貴社の取り組みにお役立てください。

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