前回の記事では、ウェルビーイングがビジネスや経営のキーワードとして注目される理由、そして主観的ウェルビーイングに着目すべき理由をご紹介しました。
それぞれの業界や企業を取り巻く環境や、それぞれが持っている人的資源の状況、組織の風土や戦略などによって、何がその組織にとってのウェルビーイングなのかは違ってくるはずです。今、私たちが探求するべきなのは、自分たちの組織で働く人々の主観的ウェルビーイングはいったいどんな項目で構成されるのか、そして、それを向上させるためにどんな働きかけができるのかということではないでしょうか。
ウェルビーイングとは?注目される理由、組織における測定とマネジメントのポイント
このような問題意識のもと、2021年10月、わたしたち株式会社ビジネスコンサルタントは、宮崎産業経営大学出山実准教授(この記事の最後にプロフィールをご紹介しています)にサポートのをお願いし、「ウェルビーイング指標づくりワークショップ」を社内で実施しました。この記事では自分たちで指標を作る理由、検討に役立つ考え方やワークショップの実施方法、取り組みがもたらす効果についてお届けします。
まずは、わたしたちが作った指標の一部をご覧ください。
・あなたは、自分の人生や生き方を自己選択していると思えますか?
・あなたは、1日1回は味わって食事をしていますか?
・あなたは、縦横関係なく、おかしいと思ったことは率直に言えていますか?
これらの質問文を見て、ピンと来る方も、イマイチ響かない質問だなあ~と首をかしげる方もいらっしゃるかもしれません。
それもそのはず。
なぜならこれらの質問文はビジネスコンサルタントの社員が、ビジネスコンサルタントという組織やそこで働く個人のウェルビーイングを測るために考えたものだからです。違う組織でワークショップをすればこれらとは違う質問文になることでしょう。
なぜ自分たちで作るの?
さて、世の中には豊かさや幸せ具合を測る指標は、すでにたくさんあります。
良く知られているものはGDP(国内総生産)やROE(自己資本利益率)、所得額のランキングなどの他、世界幸福度調査(*1)、OECDより良い暮らし指標(*2)、「レガタム繁栄指数」(*3)など
大学や民間の調査団体が大規模に調査してレポートが発表されることもあります。たくさんあるのなら、わざわざ作らずあるものを使えば良いし、横で比較ができるから便利なのではとも思えます。
ワークショップのなかで、出山さんから指標について考えるべきポイントが2つあることを教えていただきました。
「指標の設計主体」・・一体だれが作成した指標なのか。合意されているのか。
自分たちの指標を作成するには、その組織のなかにいる人自身が設計の主人公になることが大切です。
「操作性」・・指標が活かされるような使いやすさはあるか。
作って報告して終わりではなく、指標が実践したくなるような内容になっているか。自分たちの日々の生活や仕事と結びついているか、ということも重要ポイント
国や地域、文化が違うのであれば、何が自分たちの豊かさ、幸せの具合に影響するのか、どのような質問にすればそれらを測ることができそうか。といった中身も違ってきます。
「ほら、これが満たされていれば幸せでしょ?」
と人から渡された指標を使うのも便利だけれど
「自分たちにとってはこれが幸せ」「だよねぇ~」「うんうん」
みんなでそう思えること、自分たちらしいと感じられることを反映した指標は、しっくりくる感じがします。何より自分たちで作ったので愛着もありますよね。
GDPを始めとした数字で測れるもの、組織でいえば売上高、利益率、従業員数、株価、などいわゆる「客観的な」データをつかって組織の豊かさを測る時代が長く続いてきました。これらの数字はもちろん大切。そしてこれからは自分たちがそうだと思えるか、という「主観的な」視点も大切にしていきたい。
そのような思いで幸せ指標をつくることにしました。
ワークショップの準備をする
最初の準備は大きく3つです。
1.コアチームでワークショップの流れを確認
2.参加者募集
3.当日までのご案内
1.コアチームでワークショップの流れを確認
わたしの所属するチームのメンバーに加え、取り組みに可能性を感じていたコンサルタントがコアチーム(ワークショップを中心的に企画・運営するチーム)になりました。出山さんと打ち合わせをして、ワークショップは毎月1回オンライン開催 18:00-21:00 合計3日間の構成です。
詳しくは後の記事でご紹介しますが、今回は幸せを9つの領域から検討しました。しかし、一つ一つの分野をじっくり話し合おうとすると3時間×3回では収まりきりません。そこで、初回に作り方を全員で一通り体験したあとは、いくつかの分野は各チームで宿題として考えてきてもらう設計にしました。
仕事の後の3時間はちょっときついなあと感じられるでしょうか?準備のときには、3時間は参加者の人たちが疲れちゃうかな、、と思わないでもなかったのですが、実際やってみるとあっという間に時間が過ぎることに驚きました。
会の中でも「時間が足りない~」「チームですぐ集まって続きをやろう!」「楽しいね」という声が次々と。
2.参加者募集
今回はプロトタイプとして自部門+関心のありそうな人、有志を、メールや直接の声掛けで募りました。集まったのは全員で16人。営業部門、管理部門、コンサルティング部門、企画部門、中国オフィスからの参加、20代から50代までと職種や年代も多様な顔ぶれです。16人を4人一組の4チームに分けました。
3.当日までのご案内
必須とはしませんでしたが、事前の読み物として以下の資料を案内しました。
『“ていねいな発展”のために私たちが今できること』
(著マックス・ニーフ 監訳:牧原ゆりえ)
このワークショップの出発点となったブックレットです。こちらより無料でダウンロードできますので読者の皆様もぜひお手に取ってみてください。
ZoomのURLを発行して、参加者にメールを送り準備は完了
あとは当日を楽しみに待ちます。(次に続きます)
スペシャルサポーター
出山実(いでやまみのる)
千葉県出身。宮崎産業経営大学経営学部准教授。
専門は、財務会計、持続可能性に資する経営と会計。近年は、組織の代替可視性として「測られてこなかったもの」に注目し、参加型による持続可能性や幸福度の見える化に取り組んでいる。
また、上記の課題に参加型で取り組むために、Art of Hosting(対話と実践)等の知恵をベースとしたワークを実施(宮崎県高鍋町、社会福祉法人スマイリングパーク等)。
【組織のウェルビーイング向上のための指標づくり実践事例シリーズ】
①なぜ自分たちでつくるのか
②ウェルビーイングを満たす要素の見つけ方
③ワークショップの進め方と成果
*1 世界幸福度調査
国連の「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(Sustainable Development Solutions Network:SDSN)の支援を受けて、コロンビア大学地球研究所が2013年9月に発表した指標。富裕度、健康度、人生の選択における自由度、困ったときに頼れる人の有無、汚職に関するクリーン度や同じ国に住む人々の寛大さなどの要素が含まれている。
*2 OECDより良い暮らし指標(OECD Better Life Index:BLI)
暮らしの11の分野(住宅、所得、雇用、社会的つながり、教育、環境、市民参画、健康、主観的幸福、安全、ワークライフバランス)について測る
*3「レガタム繁栄指数」Legatum prosperity index
英国のシンクタンクが作っている。安全と安全保障、個人の自由、権力のガバナンス、社会関係資本、投資環境、企業環境、市場へのアクセスとインフラ、経済体制の質、住環境、健康、教育、自然環境をカバーし、国の豊かさを示す指標
西南学院大学にて文化人類学を学ぶ。外資系人材ビジネスに13年勤務した後、カリフォルニア大学アーバイン校留学を経て2013年株式会社ビジネスコンサルタントに中途入社。プログラム開発のための探索活動や、サステナビリティコンテンツや診断ツールの翻訳プロジェクトマネジメントを担当。プロセスワークを学び、アート・オブ・ホスティング&ハーベスティング実践者としてオンライン・オフラインでの対話の場のサポートを行っている。