イノベーションは、「これを変えたい!」という個人が持つ「強い意志」から始まることが大半です。個人が「強い意志」を持つからこそ、想像を超えた多くの困難を乗り越えることができます。夢物語に思えるようなことが現実になっていくというのは、これまでの歴史を見ても確かなことのように思えます。
しかし、イノベーションは1人ではなかなか起こせません。他者と力を合わせる方が合理的です。そこで今回は、他者と一緒になってイノベーションを起こすために、大切にしたい考え方についてご案内します。
人と人との絆がもたらす資産
イノベーションを起こすために大切にしたい考え方は、大きく分けて2つあります。まず1つめの考え方は、「社会関係資本」を充実させるということです。
資本というと、株式などの金融資本、人材の能力・資質などの人的資本といったものをイメージされる方が多いと思いますが、社会関係資本とは、「人と人が関係性を持つことそのものが資本」という考えです。
実際に、多くの研究で人の結びつきが人や組織の活動成果を高めることが実証されています。特に企業組織では、人についた知識である暗黙知(※1)を伝播させることに役立つといわれています。暗黙知は他社にマネされにくく、うまく活用できればイノベーションにつながる貴重なリソースとなります。
つまり、「言葉にできない、しかし有用である知識(暗黙知)を伝えるためには、人とのつながり(社会関係資本)の充実が必須」というわけです。
※1 暗黙知……その人の「感覚」や「経験則」に基づいて得られる、言葉では表しにくい知識のこと。これは、車の運転によく例えられる。教習所にいたときはぎこちなく運転していたのに、慣れてくると特に意識をしなくても運転ができるようになり、かつしばらく離れていても忘れないのは、この暗黙知のおかげだと考えられている。
組織の学習で重要なことは「何を知っているか(What)」ではなく、「誰が何を知っているか(Who knows what)」をみんなが知っていることと、人についた暗黙知を効果的に引き出せることです。これは人と人との密なつながりを築くことによって、実現可能となります。
私自身もうっかりすると、社内へ発信したい情報をメールだけでとどめてしまったり、情報共有サイトへ投稿するだけで満足したりしてしまいます。
これでは、「(受信した情報が)自分のことである、
これでは、「誰がどこまで何を知っているか」というのが、
このように、「共有したつもりが、誰にも伝わっていなかった」
このため、デジタルを使っての情報共有に終始するのは危険です。情報共有の際には、なるべく顔を合わせて話をするようにします。
また、個人が意識して、他の部署の人の業務に関心を持ち、関係性を深めていくことが大切です。これによって、業務の範囲以上のつながりができ、知識を共有しやすくなります。
自分自身が専門知識を持つ努力をすることはもちろんですが、さらに社会関係資本を意識して、他の部署の業務内容に興味と疑問を持つことが、イノベーションの足がかりの1つになるのではないでしょうか。
この人となら乗り越えられる!という感覚
もう1つの大切にしたい考え方は、「How can We do it?」という思考です。がんばろうと真面目に考えれば考えるほど、志が大きければ大きいほど、自分の能力不足を実感してしまいます。
もっとこのスキルがあれば……。もっとこの知識があれば……。
と、ついつい今の自分でがんばることを考えてしまい、現在のスキル・知識の足りなさばかりに目がいってしまいます。皆様もいろいろ考えていたけれども、今の自分には難しいと思い込んで、結局行動に移せなかったことはありませんか?
そんな自分にうんざりしていたときに、同志社女子大の上田信行教授から教えて頂いた言葉があります。
合い言葉は、“Can I do it?(私にできるかな?)”ではなく、
“How can We do it?(どうやったら私たちにできるかな?)”です。
心理学の研究で、「個人がひとりでできること」と「他者の助けを借りればできること」の間には心理的な距離があることが知られています。
上田教授はこれを、人の動機の大切な要素だと解釈しています。人は「現時点の能力」ではなく、「近い将来どのようなことができるようになるのか?」という未来につながる発展の可能性に目を向けることでモチベートされるということです。
何かをしようと思ったとき、ひとりの力では難しいものであったとしても、誰かと協力しあって経験していくことで、目標を「夢物語」で終わらせず「目標」に近づいていける。自分で意識しながら他者と協働すれば、自分の可能性がどんどん広がっていく。人の可能性というのは「他者の存在」で変えていけるということです。
「あなたがいるからがんばれる」「君と一緒だからもっと上を目指せる」
自分がそう思える人は周りにいるでしょうか?そして、自分はそう思われる人になるように努力しているでしょうか?
イノベーションの第一歩は、今の自分に目を向けすぎて限界を意識してしまうことではなく、この人となら!と思える仲間と共に挑戦することから始まります。
「この人となら乗り越えられる!」という自信を持つ仲間がいれば、プロジェクトが成功する確率は大きく上がります。みなさんの組織ではイノベーションを起こすために、どのような取り組みをされていますか?
BConでは、さまざまな人と一緒に、イノベーションの第一歩を踏み出すためのプログラムの提供を始めました。「I-Lab」は、新しい視点を切り開くために必要な「自信」のつけ方を学ぶものです。また、管理者向きのマネジメントプログラム「I-Lead」も用意しました。
ご興味のある方はこちらをご覧下さい。
http://www.bcon.jp/service/innovation/propulsion/i_innovation/
[hs_action id=”514″]
東京工業大学大学院 社会理工学研究科 修士課程修了/ 一般社団法人日本ポジティブ心理学協会 理事。
株式会社ビジネスコンサルタントにて営業マネジャー職を担当。その後、同社における顧客組織の組織開発と人材開発への投資効果と投資効率を最大限に高めるための会員制サービスの商品戦略を担当。現在は同社の研究開発マネジャーとして、サステナブル社会の実現のため、ポジティブ心理学やイノベーション理論、自然科学ベースの戦略策定フレームワークに基づく商品開発およびその実践を担当。