前回のブログでお伝えしたように、ATDの参加者の多くは、「最新の人材育成のトレンドを学ぶため」「未来の教育・学習に備えたい」という動機を持っていました。

いま世界の人材育成業界では何が起こっているのか?何か新しい知見や手法があるのか?などのトピックは、人事や人材育成に関わる方にとっては気になるところではないでしょうか。

今回はATDの概観から人材開発の潮流を探りたいと思います。

セッションカテゴリーの概要より全体感をつかむ

今年のカンファレンスでは、3つの基調講演のほか、10カテゴリー、4業界の枠組みに分かれて363コマのセッションが開催されました。
(*363セッションはATD専用アプリから確認した数です。展示企業のプロモーションイベントは除きます)

カテゴリー セッションの数
Leadership Development リーダーシップ開発 54
Learning Technologies ラーニングテクノロジー 52
Human capital 人的資源 40
Training Delivery トレーニングの提供 36
Career Development キャリア開発 33
Instructional Design 教育設計 32
Global HR development グローバル人材開発 25
Learning Measurement & Analytics ラーニングの測定と分析 23
Science of Learning ラーニングの科学 22
Management マネジメント 10
Sales Enablement セールスイネーブルメント
/営業支援
16
Government 政府関係 8
Healthcare ヘルスケア 8
Higher Education 高等教育 4

昨年と比べて、大幅にセッション数を増やした分野は「ラーニングテクノロジー」と「教育設計」および「トレーニング提供」のカテゴリーです。

神経科学の知見を学習デザインに活かす

近年、注目を集めている「ニューロサイエンス(神経科学)」単体でのカテゴリーはないものの、タイトルや説明文のなかに「ニューロ」の単語を盛り込んだセッションは、私が確認しただけでも16もありました。

経験則や概念的な主義主張ではなく、科学的な裏付け・実験をもとに学習効果を高める、エビデンスベースドの研修デザインの実践へ流れが向いていると感じます。
セッションを通じて研修設計をどのように行うと良いのかたくさんのヒントが得られました。

例えば、「The Neuroscience of Learning Design」というセッションのなかでは、脳の中のデータドライブを司る海馬のキャパシティ上、人間が1つの事に集中できるのは最大20分という知見が紹介されました。60分のレクチャーであればビデオ視聴20分、ディスカッション20分、実習20分といったように、1つのまとまりを20分以内にすると参加者が情報を受け取りやすくなります。

また、記憶の定着という観点でいえば、一度にすべての問題を与えて解いたグループよりも、日数を空けて問題も小分けにして取り組んだグループの方が、効果が高いことも紹介されています。これらは明日からでも活用できそうです。

展示ブースにみるラーニングテクノロジー会社の勢い

1208_pic_02L展示ホールはさながら見本市といった様相です。くじ引きやアメリカンコミックのコスチューム、いれたてのコーヒーやキャンディーを配って参加者を呼び込みます。特に目立ったのは、テクノロジーを前面に押し出した展示ブースでした。オンライン学習管理のツールやゲームを活用した学習支援ソフト、相互学習を促進するためのポータルサイト構築、スマートフォンを使ったモバイルラーニングなどでした。400超ある展示業者の中50近くは、「モバイルラーニング」に関するブースでした。生まれたときからSNSやインターネットが身近にあった世代が教育や企業の現場に入ってくる時代、学習のあり方は変わっていくと考えられます。例えば、参加者各々がいる場所が教室となり、タブレットやスマートフォンを経由して短時間でコンパクトなコンテンツを届けるという状況です。

さらにその先に目を向けると、ウェアラブル装置や仮想現実の技術を使い、遠くにいる人とも対面で話しているかのようにディスカッションできる未来が語られていました。まるでSF映画のようですが、大切なのは「テクノロジーが主役ではない」ということです。

ソーシャルネットワークの広まりと共に、情報格差はどんどん小さくなっています。そうなると、必要な能力とは「コミュニティの中で学び合い、成長を続けることを通じて困難で複雑な状況に対処する力を自分たちで作り出すこと」なのではないかと感じました。

ますますダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の時代へ

1208_pic_03L参加者1万人のうち4分の1はアメリカ国外からの参加者です。1位は韓国、続いてカナダ、日本、中国、ブラジル、クウェート、サウジアラビア、オランダ、イギリス、10位がメキシコです。特にこの数年、アラビア語圏からの参加者が増えたのでしょうか。今年から同時通訳に日本語、中国語、韓国語のほか、アラビア語が追加されました。また、会場には祈祷ルームが用意されており、中は男性、女性、中東と分かれています。ATDが行った人材育成担当者を対象にした調査によると、今後のインストラクショナルデザインにおけるトレンドの1つは、「様々な地域や文化背景を考慮して学習コンテンツをデザインする」ことでした。人材育成担当者の94%が「学習者の背景を考慮し研修を設計する」と答え、62%が「学習者の文化的背景」を、また、53%が「潜在的な学習者の文化的背景をも考慮する」と答えました。日本でも今や、新卒/中途で組織に加わる社員が異なる文化背景を持つことは珍しくありません。モノカルチャーの時代に作られた学習コンテンツや伝達手法を見直すことは急務なのではないでしょうか。

*ダイバーシティ&インクルージョン=Diversity&Inclusion
インクルージョンには、包含や内包をはじめいくつかの日本語訳が当てられますが、ここでは、ダイバーシティ&インクルージョンを「多様性および多様な価値観を包み込み、一体であること」と説明したいと思います。

ATD全体から感じた潮流

今回のカンファレンスに参加して感じた潮流をまとめると、以下の3つです。

  • 脳や神経の働きが解明されたことにより、一層効果的で効率的な学習方法が開発されている
  • クラスルーム学習は1つの学び方だが、それに加えて、モバイルやテクノロジーを駆使した学びあいの学習コミュニティが生み出されていく
  • 既に世の中はグローバル社会を迎えて久しく、異なる文化・価値観を前提に人材育成計画を進める企業が増えていく

これらの事柄は実践段階に移ってきているものの、数年前から言われていることで、ことさらに目新しいことではありません。

しかし、改めて世界の潮流に触れて未来に視点を向けると、現在取り組んでいる人材育成施策が果たしてどの辺りの位置取りなのか、セルフチェックできるのではないでしょうか。

世界最大の人材育成会議 ATD2015より

  1. 問いを持つことが会話を生産的なものにします~ATDからの学び~
  2. 人材開発の潮流は?ATDの概観から探る
  3. ATDにみる未来の学習のかたちとは?
  4. 「新しいリーダーシップ開発」に必要な3要素~今年のATDからの考察~

いかがでしたでしょうか? 新たな人材開発施策のあり方をご検討されるうえで、本記事の内容が少しでも課題解決のヒントになりましたら幸いです。 そこでもう一つお勧めしたい手法に、「クリエイティブタイプ」診断があります。 「クリエイティブとは何か」に関する視点は人それぞれですが、ここでは6つのクリエイティビティを定義し、あなたの思考プロセスを分析します。 ご興味のある方は下記よりダウンロードし、ご自身の「クリエイティブタイプ」をぜひ診断してみてください。

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