十勝バスの経営再生、そして新たな取り組みへの挑戦から、サスティナブル経営実践のヒントを学ぶシリーズをお届けしています。
 十勝バスの経営姿勢は、三方ならぬ「四方よし」です。売り手、買い手、世間に加え、4つ目の要素は「競合よし」。この考えこそ、同社の野村社長が描く十勝、東北海道の未来を実現する上で要となるものです。

サスティナブル経営は、成功する未来のビジョンを持つことから始まる

「日本人は、遠いハワイやグアムにもどんどん出掛けて行っています。現地でもさまざまなオプショナルツアーが提供されていて、自分がどんなふうに観光を楽しめるかが、行く前からイメージできるからです。つまり、目的地(観光スポット)まで行けることが先入観でお分かりいただいているからです。いま、外国人観光客が北海道でもとても増えてはいます。しかしまだまだ札幌周辺にしか、訪れていません。北海道は『ヨーロッパみたいだ』と言われる美しい景色があり、東北海道にも旅行者が憧れるコンテンツはたくさんあります。僕は、2度目、3度目の北海道観光はぜひ東北海道に来てくださいと言っているんです。」(十勝バス株式会社 代表取締役社長 野村文吾氏)

野村社長はこれを「十勝グアム・東北海道ハワイ・北海道ヨーロッパ化計画」と名付けています。十勝をグアムのように気軽に旅できるところ、東北海道をハワイのようにさまざまな体験ができるところ、北海道をヨーロッパのような憧れの旅行地と思ってもらえるようアピールし、体制を整えよう、ということなのだそうです。仲間を作り、競合相手と協創して観光を盛り上げ、地域の活性化につなげようという取り組みの背景を伺いました。

十勝バス

東北海道の観光インフラの現状

野村社長によると、現在はまだ、海外からの観光客が飛行機で帯広空港に着いて、そこから先の旅の目的地(観光スポット)まで、どうやって移動できるかのイメージが具体的に持てる状態ではありません。
「よくレンタカーを使ってもらえばよいと考えられていますが、外国人観光客の方々が慣れない右ハンドルで運転するのには抵抗があります。日本の方でも、車を運転しない方が増えています。いま雪が見たいということで、東南アジアなどからたくさんの方が来られていますが、雪道を運転するのは難しいでしょう。また中国の方も国際免許証が取得できないので、基本的にはレンタカーを借りることはできません。」(野村社長)
ですから、バスやタクシーといった空港や駅からの交通手段(二次交通)を「見える化」して、目的地までシームレスに提供できる体制作りがとても重要になってくるのだそうです。
具体的に必要となる取り組みは非常にさまざまで

・高速道路網の整備
・バス・タクシー内でのwifi利用環境の整備
・外国語対応
・移動方法をスマホ検索できる・事前にインターネットで見ることができる
・バスやタクシーを組み合わせて利用できる
・複数の観光スポットが組み合わせで提案されていて、どんなルートで旅を楽しめるかが分かる

いずれも、自社だけでは対応できないことばかりです。
十勝バスは観光客・利用者を増やすため、先の記事でご紹介したように様々に取り組んではいます。

・以前はつながりの無かった異分野のIT企業と共同で路線を調べられるアプリを開発
・観光スポット(飲食店、温泉施設、庭園などさまざま)と仲間になって、新たな観光ツアー商品を提案

これらは、まだ、自社が中心になって動けば実現できることでした。

競合よし、で叶える自社と地域のサスティナブルな未来

しかし最近の野村社長らの取り組みは、もはや自社が活動の中心になることは目指していません。「競合相手よし」で交通を持続可能にし、地域を持続可能にすることが狙いになっています。

①地域連携をスムーズにするために、国政へ働きかけ

当時の太田国土交通大臣に地方の実情を訴え、提案をする機会を得る。その後すぐ、全国9つの運輸局に観光部と交通政策部の設置につながる。

②競合相手であるバス・タクシー会社との協創

十勝圏二次交通活性化推進協議会を、十勝管内のバス・タクシー会社15社で2013年に立ち上げる。行政や観光に関連する団体・企業の協力も得ている。目的は、十勝が「誰でもいつでもどこへでも安心していける」イメージを創造して、十勝圏への流入人口を増やすこと。バスとタクシーが連携した観光商品を数多く提案。
http://www.travel-tokachi.jp/

野村社長が自社のみならず、地域の活性化を真剣に考え、多くの仲間を作って「競合相手よし」にまで至った背景には、社長自身の学生自身のある悔しい経験がありました。

「誇りを持たせる」から「強みを見いだす」へ

「会社に注目が集まり、社員の活性化の事例が紹介されるようになりました。僕は、これこそが、若い人たちがいったんは地域を離れて広い世界を見に行っても、将来地域のために戻ってきて働くことにつながるだろうと考えているんです。」

「僕、実は、書籍には書かれていませんが、学生の頃はプロテニスプレーヤーになろうと思っていました。北海道チャンピオンになりました。僕は、地方の試合でポイントをためて全国一けた番台まで行けると思っていた。でも実際に戦うと1回戦しか勝てない、10番どころか100番に入るのもやっとで、プロになるのは無理だなと、正直に言うと諦めちゃいました。その時の簡単に諦めてしまった後悔が、あとになって出てきて。」「若い時は我が強くて、本当にピンチにならないと意見を求めなかったし。とにかくそうやって諦めてしまったことが残念だったので、もう諦めない。そして諦めないために何が必要かと言うと、誇りが必要。誇りがあるか、持てるかが境目になると考えています。当社の社員、地域の子供や青年たちにこの地域のことを誇りに思ってもらいたい。誇りを持たせるってどういうことなのかとずっと考えて、こうやったら、というのをいろいろ試してみました。」

「そのひとつとして、マスコミの取材や視察にいらしていただけるようになった時、自分で受けるのではなく、光の当たるところに出ると人は輝くんじゃないかと思って、僕以外の管理者や現場をどんどん出しました。やっぱり彼ら、輝きはじめるんですよ。お客さまや友達、家族から見たよ、と言われるとみんなやっぱりうれしい。新聞、テレビで見たよ、と言われるとうれしくて輝く。でもこれはまだ誇りではない。やる気、モチベーションなんです。」「なんで誇りにならないのかなと思ってよくよく見ていたら、誇りを持たせるなんて非常にせんえつで、やれることではない、ということに気付きました。どういうことかと言うと、誇りというのは全員実は持っているんです、必ず。そこにゴミがついて見えなくなって忘れちゃっているだけなんです。だから、誇りを持たせるのではなく、その人についてしまっているゴミを取り払って、磨いてあげる。そうすればみんな生き生きと仕事をし、豊かな人生を送れるのだと。

「その方の強みは何であるのか、強みって本人も気付いていないし、隠れちゃっていることもある。ゴミ、曇り、ほこり。それを取り除いて見せてあげる。強みが見えてきたら、強みのクオリティを上げるために、ちょっとだけ難しい、強みに合ったお題を与えると人は成長する。少しずつ成長して強みが大きくなる。そうすると個人が強くなり、お互いの強みが違うことを理解できれば組織が強くなる。それをミクロサイズで見ると部署なんだけど、広げると、会社、地域、北海道、マクロになると日本になる、というイメージで見て僕は取り組んでいます。」

野村社長の曽祖父で十勝バスの初代社長野村文吉氏は、近江のご出身で、フロンティアスピリッツを持って十勝に移住し、乗合自動車事業を始めたのが大正15年(1926年)。もしかすると、近江商人の三方よしの精神を、野村社長はご先祖から受け継がれているのかもしれません。創業から90年超、諦めない心、11で向き合う、仲間作りの姿勢が加わって、十勝バスは「四方よし経営」で持続可能な未来づくりに挑戦しています。


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山田有佳

京都大学総合人間学部、同大学院人間・環境学研究科修士課程修了。専攻は文化人類学、クロアチアで戦災からの街の復興をテーマにフィールドワークを行う。
株式会社ビジネスコンサルタント入社後、企画営業、営業マネジャーを11年。現在はサスティナブル経営を目指す企業やそこで働く人たちに向けた情報発信や能力開発プログラムの開発を担当。サスティナブルな選択をするビジネスパーソンが一人でも増えることを目指している。