前号ATD 2016のキーワードは「Building a culture of learning~”学びの文化”を持つ組織はベストな成果を上げつづけることができる~」とお伝えしました。

ATDプレジデントであるトニー・ビンガム氏の基調講演およびATD2015年に832社を対象に実施した調査(*)から、Culture of Learning(以下、”学びの文化”)をもつ企業は高業績でもあることが分かりました。
※調査レポート(英語)はこちら:ATD research: Building a Culture of Learning

今回は本講演および調査に基づいて、”学びの文化”についてご紹介したいと思います。

”学びの文化”は高い業績と結びつく

本調査によれば高い業績の会社は低い業績の会社と比べて、こういった違いがあります。

5倍 豊かな”学びの文化”があると答えた
4倍 従業員は同僚と知識を共有していると答えた
3倍 従業員の行動変容とビジネス結果を測定すると答えた
2倍 学びの機能は組織の成果に結び付くと答えた

つまり”学びの文化”は高収益、マーケットシェア、高い顧客満足度、高エンゲージメントなどといった、持続的な競争優位に大きなインパクトを与えることが示唆されています。

また”学びの文化”はこのように定義されます。

“全ての従業員が継続的に新しい知識また個や組織のパフォーマンスを向上させるスキルを探究し、共有し、実践する文化”

”学びの文化”を埋め込まれた組織は、高いパフォーマンスを上げることができる、と言えます。

他方、今回の調査では
・十分に学びの組織文化ができていると答えるのは31%の企業に過ぎない
ことも分かっています。

基調講演の中でトニー氏が紹介し、会場が大きく反応した言葉はこちら

Culture eats strategy for breakfast

フォードの元CEOマークフィールドによって知られるようになった言い回しです。直訳すれば「文化は朝食として戦略を食べる」。

どんなに素晴らしい戦略を立てても組織文化が実行性をもたなければ、戦略なんて朝食のようにぺろりと食べられてしまう、ということでしょう。

”学びの文化”-各社の例

では人材開発に関わる私たちはどうすれば良いのでしょうか?

”学びの文化”をもっている高業績企業の特徴としては、以下の3つが挙げられます。

1.学びのための十分な予算がある
2.人材開発専門部門がある
3.学びが大切だと言う組織的価値観を共有している

具体的にどのようなことをしているかについては以下のような例が挙げられ、これらは従業員のパフォーマンスとも関係していると示されています。

・従業員自身が自分の仕事に必要な情報を収集し、自身の責任において学びを組み立てる
・従業員全員に対して、定期的に成長プランを更新している
・学びに対し非金銭的な報酬や承認がある

今回の調査では業界を代表する企業の46%が『学びは組織における「生き方」だ』と答えました。これは低業績企業の2倍の数字に上ります。「生き方」とはどういうことなのか。各社で大切にしている学びに対する姿勢を見てみましょう。

●SAPの例
〝今までのような学校形式(講師が前に立ち、生徒は講師に向かって机を並べて座る)の対面型プログラムではなく、個人志向の学習を推進する。自身の学びに責任を持ち、どこにいても何をしていても学びの機会がある。“

●リンクトインの例
“従業員はグロースマインドセット(成長思考の心理的状態)をもち、新しい学びの機会や情報共有の機会を探し求めている”

●ツイッターの例
“皆が先生であり生徒である”

学びを文化に埋め込むために私たちができること

このような文化を作るために人材開発部門が幹部に対して働きかけることとして、ATDでは以下のようなことを推薦しています。

・幹部自身が講師となるプログラムを通じて”学びの文化”を促進する。

・幹部に人材開発のアドバイザーになってもらう。現場の知をプログラムに反映することよって、この学びがビジネス成果を上げるための投資であるという位置づけを取る

70-20-10の法則を共有し、学びの70%は職場にありと啓蒙する

また従業員1人ひとりにあわせた学習計画を提供し、組織の成果と個の仕事をつなげることも考えなくてはいけません。

こういった活動を通じて”学びの文化”を醸成し、組織の成果につなげるデザインを描くのが、人材開発や組織開発に関わるわたしたちです。

ビジネスコンサルタントは長年組織文化や、集団の規範への働きかけの領域でお客様とお仕事をしてきました。集合型研修を一過性のイベントに終わらせず、事前事後の設計や、組織の文化に働きかけるお手伝いを通じて、”学びの文化”を醸成する支援を続けていきたいと改めて感じた経験でした。

前回の記事:人材開発フェス ATD2016レポート