組織のウェルビーイングをより豊かにするために、ウェルビーイングを測る指標を自分たちで作る取り組みをご紹介しています。初回はその意義、そして2回目はウェルビーイングを満たす要素を見つけるためのフレームワークについて、ご案内してきました。
この記事では、ウェルビーイング指標づくりワークショップの具体的な流れとその成果をご紹介します。
参加した16名は、国外を含めそれぞれ異なる拠点で働いています。そのため、オンライン会議システムZoomを使用して、ワークショップを行いました。
指標検討の基本の流れ
ウェルビーイング指標は、9つの領域ごとに(前回の記事に詳しく)検討します。一番目の「心理的幸福」を例にとると基本の流れはこのようになります(合計約70分)。
この手順で以下9つの分野について、指標を検討します。
・心理的な幸福
・健康
・時間の使い方
・教育生活水準
・ガバナンスの質
・文化の多様性と回復力
・地域コミュニティの活力
・自然環境の多様性と回復力
上記のタイムスケジュールは、7分とか12分など、細かく時間を区切ってメインルームとブレークアウトセッションを行ったり来たりする、すこしスピード感がある進め方です。「よしあと何分だ」、と集中力を保ちながらテンポ良く検討を進めることができます。また、時間内に指標として質問文の形にするところまでは時間が足りないため、別途チームごとに集まって話し合う前提で時間配分しています。ワークショップ内だけで完結させたい場合は、それぞれ時間を+10分づつくらい増やした方が良いと思います。
ワークショップ Step1~7の進め方
以下、ワークの流れを見てみましょう。
Step1 チェックイン・ダイアログの原理のご案内
さまざまな部門から多様な職種・年代の顔ぶれが集まりました。昼間は忙しく仕事をした後の時間です。参加理由など、一人づつお話をしながらワークショップに臨む気持ちに切り替えていきます。
また、出山さんからワークに際して共有しておきたい「ダイアログの原理」をお話頂きました。ダイアログの原理は世界中の組織開発の実践者が大切にしている対話のお約束のようなもの。
「わたしたちは、個々人の価値観に触れるような会話をしていきます。自分が大切に思っていることを話す。相手が話す幸せの方法を聞くことで、そんな方法があるんだと学び明日から活用することもできる。そしてきっと話し合いの前と後では関係が変わっているはず。みなさんの関係性が健やかに育つことを、わたしは願っています」(出山さん)
ダイアログの原理
①問いに向かって、自分の体験、自分の考え、自分の気持ちを心を込めて話します。
②好奇心を持ち、学ぶために聴きます。
③みんなの声が聞かれ、私たちの関係が健やかに育つことを願いながら、自分の影響力を意識して行動します。
Step2「心理的幸福」に関する対話
メインルームで心理的幸福について簡単に解説をうけたあと、さっそく最初のブレークアウトセッションです。
心理的幸福とはどういうことなのでしょうか。心理的幸福についての理解を深め、自分たちなりの心理的幸福に思いを馳せます。
ブレークアウトセッション内で、以下の問いでお話します。
現在の組織やチームで働いていて、「心理的幸福」を感じている時を思い出してください。それは、
・どのような場所でしたか?
・どのような人がいましたか?
・どのような表情をしていましたか?
・どのようなニーズが満たされましたか?
あるグループではこんな会話が。。
「みんなであの時はこんなだったねと笑ったり懐かしんだりする瞬間」
→アイデンティティ、愛情、創造のニーズを満たしていた
「壮行会を企画して運営したとき、余興のスライドを馬鹿じゃないのっていうくらい本気で作っていたとき、真剣に運動会をしたとき」
→参加、愛情、創造、達成を満たしていた
Step3 テーマに関する充足手段(サティスファイヤー)を個人で考える
心理的幸福についてメンバー内で具体的なイメージを深めた後に、その心理的幸福を満たすにはどうしたら良いのかを考えます。
問いはこちら
私たちが大切にしたい「心理的幸福」を満たす充足手段(サティスファイヤー)は何ですか?
・日常の職場(仕事)にある中にある大切にしたい「心理的幸福」
・これから育てたい「心理的幸福」
ブータンのGNH(国民総幸福量)を例にとると、以下のようなことが充足手段になると考えられます。
・職場に満足していること
・職場の上司や、同僚、チーム、グループを信頼していること
・何かにイニシアティブを取る機会がある、または意思決定に関われること
・年齢人種性別による差別を受けないこと
これらも参考にしながら「わたしにとっての充足手段って何だろう」と考えます。
Step4 テーマに関する充足手段(サティスファイヤー)をチームで考える
ブレークアウトセッションに移り、個人で考えたことを共有します。その際メンバーの一人がスライドを画面を共有しながら内容を書き留めていきました。
最初のブレークアウトセッションで「心理的幸福」を感じるシーンを話し合っていたとき、壮行会や運動会そして真剣に宴会の準備をする、宴会という言葉が何回か出てきて、話は大いに盛り上がりました。
そこで宴会をサティスファイヤーと見るのはやや勇み足。
宴会はあくまでも一つのやり方であって、ここでの充足手段は「真剣に遊ぶ」という事なのではないか。
「そう言えばさ」「そうそう」「だったよね」「確かに」「分かるー」
など、笑ったり、気づいたりしながらあっという間に検討タイムが経過。メインルームに戻されます。
Step5 その充足手段はどのニーズを満たすのかを表でチェック
メインルームで次に取り組むことの説明を受けて、引き続きブレークアウトセッションです。先ほど話し合った充足手段(サティスファイヤー)の候補の中から、これぞサティスファイヤだと思うものを選びます。
さらにどのニーズを満たすのか、とっても満たすに◎、満たすに〇、まあ満たすかもねに△、とチェックを付けていきます。
数多くのチェックが付くサティスファイヤーをスーパー・サティスファイヤーと呼び、これが指標づくりの候補となります。
Step6 指標の形に整える
表の中から、スーパー・サティスファイヤーを選び、指標として質問文の形にします。選ぶ基準は2つ。
1.内発的 :外から与えられるものではなく、自ら作り出していけるものか
2.相乗的: できるだけ多くのニーズを満たすもの
指標(質問文)をつくる際、念頭に置いておきたい3つのポイントがあります。
・この指標を満たしていると幸せだと思う指標をつくってみてください
・指標は、組織のビジョンであり、ゴールでもあります
・ どんな質問文を投げかければ、回答者に気づきや学びがあるかという視点も取り入れてください
続いて指標づくりは、
・質問文に回答するためのスケールを決める(5段階、7段階など)
・個人の充足値を決める(7段階のうち、5以上だとウェルビーイングだとみなす、など)
・閾値(いきち)を設定する
と進みます。閾値とは、「一般に反応その他の現象を起こさせるために加えなければならない最小のエネルギーの値」(広辞苑より)という意味の言葉です。ここでは、”ある質問についてXと答えた人が組織の中でY割いたら、自分たちの組織はウェルビーイングだと言えるのではないか”という基準となる値のことです。
例を見てみましょう。
指標 「あなたは、自分の人生や生き方を自己選択していると思えますか?」
7.非常にそう思う
6.そう思う
5.ややそう思う
4.どちらともいえない
3.あまりそう思わない
2.そう思わない
1.全くそう思わない
閾値の設定(例):個人の回答6以上が、全体の7割以上
このように、指標には質問文・スケール・閾値をセットで定めます。
Step7 候補から指標を絞り込む
分野ごとに上記のプロセスを踏んで、9分野から36個の素案が出されました。最終日には、各チームが持ち札10票を持って、これが良いなと思う指標に配分します。選ぶポイントは繰り返しになりますが、以下の3つです。
・この指標を満たしていると幸せだと思う指標をつくってみてください
・指標は、組織のビジョンであり、ゴールでもあります
・ どんな質問文を投げかければ、回答者に気づきや学びがあるかという視点も取り入れてください
とっても良いと思ったものには3票を入れるなど、投票の仕方は自由です。
結果、得票数が2以上だったもの24個をプロトタイプとして決定しました。
プロトタイプから全社展開へ
プロトタイプですから作って終わりではありません。指標をより良いものとしていくためには、社員から意見をもらうのがいちばんです。BCon版ウェルビーイング指標のプロトタイプをラーニングプラットフォームサービスUMUに載せて、ある部門を対象に回答してもらいました。
回答者には答えにくさなどもコメントで返してもらい、そのフィードバックを元に再度指標をブラッシュアップ。質問を一覧で眺めながら検討するブラッシュアップワークには、オンラインホワイトボードMiroを使っています。
このようにしてブラッシュアップを重ね、BCon版ウェルビーイング指標が完成しました!!
完成した指標は2021年度、期末の全社会議で社員400人に発表し、オンラインで回答を集めました。結果は経営幹部が集まる会議体で報告。「経年でとって業績との関連を見ても面白いね」「質問のなかでも特に注目したい内容を経営陣で話し合ったり、相互の受け止めの違いを理解しあう時間を持って良いかも」といった感想のほかに「自分たちの組織は今こんな状況なんだね」と出てきた結果に対して意外な気持ちや、嬉しい気持ちが聞かれました。
指標づくりを支える3つのポイント
初めての試みとして取り組んだウェルビーイング指標づくり。効果的に進めるうえでよかったポイントを3つにまとめます。
1.長期プロジェクトを支えるコアチーム
今回は社員4人でコアチームを作りました。コアチームのメンバーがワークショップの事前設計、事後の振り返りと次回への反映、各ブレークアウトセッションに入ったときは進行、宿題をサポートしました。複数人で支える体制にしたことで、足掛け半年のプロジェクトを完走することができました。
2.オンラインでの共同ワークを支える各ツール
Zoom、UMU、Miroといったオンラインツールを使いました。
UMU・・初心者でも手間をかけずにアンケートや学習コンテンツをオンライン上に展開できるプラットフォーム。プロトタイプで作った指標をUMUに載せ、社内から回答を集めるスピード感は、UMUならではです。
Miro・・オンラインホワイトボード。リンクを配るだけで共同編集ができる事に加えて、付箋などの作業過程が残るので、参加者が遠隔にいるワークショップでは便利です。
ただし、UMUやMiroを使ったことがない組織もまだ多くあるかと思います。Zoom+画面共有でも十分に実施は可能です。そして各組織内にあるITツールやフォルダシステムを使ってどういう風にできるかをぜひクリエイティブに考えてみてください。(ご相談いただければ一緒に考えます!)
3.多様なメンバー構成とチーム編成
参加者を募集する際、なるべく全社の各部門から人が入るように声掛けをしました。そのうえで集まった参加者の年代、部門、職種が偏らないようにチーム編成をします。そうすることで部門を超えて共通点が見つかったり、お互いにとって異なる職種キャリアの人から新たな発見を得ることが出来ました。
自分たちで指標をつくる意味とは?
自分たちでウェルビーイング指標をつくることを通じて、私たちは何を経験したのでしょうか。そこにはどのような意味があるのでしょうか。
「指標づくりの目的」に照らして振り返ります。ワークショップの中で、出山さんから指標づくりには3つの目的があると教えていただきました。
【指標づくりの目的】
①学びのため…幸せを見える化することにより、現状を理解する
②行動のため…行動を導き、価値観を共有する
③説明責任のため…現状を報告し、ステークホルダーと関係を構築する
*ステークホルダー:例えば株主
今回私たちがフォーカスしたのは①学びと②行動です。
例えば「学び」の一例として、プロジェクトメンバーの声を紹介します。
“年次的に一番若いので遠慮するかと思ったが、のびのび発言できた。終わった後元気になる”
“どういう方向性に行きたいのか、希望する姿を可視化できた。”
“毎回のWSの後に長文のチャットがチーム内で飛び交う。コミュニケーションが活性化した”
“価値観を確認する会話が持てた”
“自分たちで作るプロセスそのものが価値”
“ガバナンスなど難しいテーマもあったが、あえて普段考えないような領域にも視線を向ける機会になる”
そして、、
もっとこういう風に改善したい。
部門ごとに作りたい。
自分の顧客にも紹介したい。
など、新たな行動への種が生まれています。
ワークショップのサポートをお願いした、宮崎産業大学准教授出山さんより
冒頭に3つの指標が紹介されていますが、参加型指標づくりで作成した指標群は、Bconさんらしさが表現されているものになりました。この3つを見るだけでも、どのような方々が、どのような意識を持って働いている組織なのかが伝わってきます。
今回、指標づくりにご一緒して感じたのは、働き方と組織のあり方をより良くしていこうというエネルギーの高さでした。話し合いの中では、「昔はこうだったよね」「あの頃は、こんなでね」という話があった一方で、「何か、これまで通りではいけないな」「そろそろ根本から考え直さないといけないな」のような発言が多く聴こえてきました。
自分たちの組織にとって、大事にしてきたことは大事にしつつ、何か新しく手にしていく必要があるかもしれないことをオープンに受け止めて、改めて話し合う時間になったのではないかと思います。
参加型指標づくりは、メンバーの価値観や行動パターン、組織のあり方をざっくばらんに話し合うスペースを確保することできます。そして、ウェルビーイングを志向しながら、自分たちの組織の「らしさ」を、自分たちでバージョンアップしていくことができます。
BConさんが今後、どのように指標を活用していくのかを楽しみにしてます。
参加型ウェルビーイング指標づくりについてもっと詳しいお話が聞きたい、自組織でも取り組んでみたいという方は、ぜひお問合せください!
【組織のウェルビーイング向上のための指標づくり実践事例シリーズ】
①なぜ自分たちでつくるのか
②ウェルビーイングを満たす要素の見つけ方
③ワークショップの進め方と成果
西南学院大学にて文化人類学を学ぶ。外資系人材ビジネスに13年勤務した後、カリフォルニア大学アーバイン校留学を経て2013年株式会社ビジネスコンサルタントに中途入社。プログラム開発のための探索活動や、サステナビリティコンテンツや診断ツールの翻訳プロジェクトマネジメントを担当。プロセスワークを学び、アート・オブ・ホスティング&ハーベスティング実践者としてオンライン・オフラインでの対話の場のサポートを行っている。