今回はサステナブル経営を推進している株式会社ビジネスコンサルタントがその実践者3名を招いて開催したセミナー(「サステナブル経営で競争優位を築く 『サステナブル経営の実践』」:2015年10月15日・17日)の講演内容から、数回に渡ってポイントとなる点をご紹介しています。
前回までの記事では、「サステナビリティを組織で考えるためのチェックリスト①持続可能性原則②5つのはしご」や「サステナビリティ戦略を実践中のスカンディックホテル事例①ハードの側面②ソフトの側面」をご紹介しました。
今回からは3人目の登壇者、ヨーラン・カールステッド博士がお話くださったサステナビリティを経営の中心に据える組織を作っていくために必要となるリーダーシップの講演内容を中心にご紹介していきます。
サステナビリティに必要なリーダーシップを語るヨーラン・カールステッド博士
カールステッド博士は、非常に豊富な経験の持ち主であり実践者です。
Volvo(ボルボ)経営幹部等を歴任し、IKEAヨーロッパ販売会社及び北米IKEAの代表取締役のポストを勤めました。スウェーデンのウメオ大学で経営学の博士号を取得し、ブレーキンゲ工科大学では名誉博士号を授与されています。SOL(学習する組織協会)の立ち上げや、クリントン気候イニシアチブにシニアディレクターを勤めた経験もあります。
現在は、ブレーキンゲ工科大学とヨーテボリ大学で客員教授も勤めており、ビジネス、非営利組織そしてアカデミアでの様々な経験と深い学びや洞察をベースに、持続可能な社会を創るために精力的に活動し、ポジティブなメッセージを世界中に発信し続けています。
今回カールステッド博士は、組織で成果を出すために必要なHuman Energy(※)をどう育てていくのか、そのHuman Energyの活用先となる“持続可能なビジネスモデル“をつくるために前提として知るべきことは何か、そして今の時代のリーダーシップにはどんな課題があるのか、、といったことについて話をされました。彼の経験に基づくパワフルなメッセージを、今後4回に渡って紹介していきます。
※Human Energyとは、人としてのエネルギーや人と人の関係性の中で生まれるシナジー・社会関係資本などを意味します。
組織に欠かせないHuman Energy!!
まず最初は、Human Energyをどう集め、育てていくのかという話をされました。
皆さまは、組織ってそれぞれ、事業もそれぞれ、組織のやり方や取り巻く環境もそれぞれ異なると思っていませんか。
カールステッド博士によれば、企業とは結局のところ、価値あるものをお届けするためのものであり、そのためのHuman Energyを作らないといけない点では皆同じです。
では、Human Energyがうまれ、育つにはどのような場が必要なのでしょうか。
彼には次の3つの経験則がありました。それは、
・人々にとって意味あるものがあり、
・学びが溢れ、
・キーパーソンのコミットメントがある場
がHuman Energyがうまれ、育つ場だというのです。
現在このような場を持ち合わせた組織にはHuman Energyが満ち溢れている事でしょう。
では組織が、今よりもさらにこのような場を増やしていくためには、いったいどのような努力ができるでしょうか。
カールステッド博士は、Human Energyを生み出す組織づくりには4つのポイントがあることを教えてくれました。
Human Energyを生み出す組織づくりのポイント
①時代にあったプロジェクトをつくろう
プロジェクト・リーダーの話を一生懸命きいて「なるほど、このプロジェクト、確かに説明は理にかなっている」と理解できるプロジェクトに、従業員の賛成は得られるでしょう(図1)。
でも実はこれはHuman Energyは湧き上がりにくいアプローチです。
でも、それよりも時代にあっていて直観的にその重要性が理解でき「おもしろい!そんなことしてるんだ!」と反応が返ってくるようなテーマのプロジェクトならどうでしょう。
従業員の賛成はもちろん、「じゃあ協力するよ!」という気持ちに基づく様々な形のエネルギーも得られるに違いありません(図2)。
では、私たちは今どんな時代を生きているのでしょう。カールステッド博士は、ヴァーツラフ・ハベルというチェコ共和国初代大統領がおよそ20年前におこなった演説を引用しています。
それは、今を生きる私たちも感じている雰囲気をうまく言語化してくれています。
つまり、『私たちは時代の転換期、つまり何かが廃れ、何かが苦しみながら生み出されそうな時代を生きている』、という時代観です。
例えば、以前はモノが大切でしたが、今はむしろアイディアや知識が大切にされています。組織とそこで働くヒトを、とりかえのきく部品と構造からなる機械のように考える(図3)ヒトではなく、ひとりひとりの個を大切にするコミュニティとして考えるヒトの成功体験も増えてきました。
個人の人材よりも、人間関係により生み出される価値に注目が集まるようになってきました。
自然は統制する対象ではなく、調和すべきものだと考えるヒトが増えてきました。
未来は予測するものと考えるヒトがいる一方で、今からみんなが作るものだと考えるヒトもいます。
このようなヒト達がいる時代の中で何かが生み出されそうになっている(図4)。
この時代に合ったプロジェクトをつくるとき、人々のエネルギーは集まるというのです。
②さあ一緒に創ろう、ってよびかけよう
もし「今からこの部品を組み立ててロボットを作ろう」といった、専門的で難しいけれど誰かが解を知っているものを作るときは、誰かの指揮命令系統が大切かもしれません。
しかし、変化の激しい、時代の転換期においては、創造的に価値を生み出しつつけることがより求められます。ひとりひとりの個を活かして、様々なことにトライしていかなくてはいけません。
そこで大切になるのが、私たちが組織で一緒に働いている意味や動機です。ひとりひとりの多様性を慈しみ活かすことができれば、自由に拡散したアイディアや行動がたくさんうまれるでしょう(図5)。
それを組織にとってのプラスの形に落とし込んで行くためには、意味や動機という核をしっかりもつことが大切なのです。
他の会社ではできないことができるから、一緒に働いているひとたちがすばらしいから、社会に貢献する会社だから、株主に利益を還元できるから…など、組織で一緒に働く意味や動機は本来ヒトそれぞれで、とても豊かでした。
それを「株主利益の最大化」のように単純化し、そして「会社のためにどうしたらいいか考えよう」と固定的な考えを従業員に求めてしまった結果、その複雑で豊かなHuman Energyまで手放すことになりました。
むしろ「会社は何の役にたっているのか、社会のどんな喜びに貢献しているのか」という意味を問い続け、形にしていこうというよびかけが今後大切になってきます。
さあ、ここまでカールステッド博士が語る Human Energyを生み出す組織づくりのポイント2つをご紹介しました。 いかがでしょうか。確かにこのようなことができればHuman Energyが高まることが想像できませんか?
次回は他の2つのポイントについてご紹介をさせて頂きます。次回もお楽しみに。
【サスティナブル経営で競争優位を築く WINセミナーシリーズ】
1.自社のチェックリスト① 持続可能なビジネスか否か-4つの持続可能性原則
2.自社のチェックリスト② 持続可能なビジネスか否か-5つのはしご
3.サステナブル経営実践事例:北欧スカンディックホテル~原則を押さえて自社に合うやり方を追求、収益につなげる~
4.サステナブル経営実践事例:北欧スカンディックホテル~全社員を巻き込み、新たな文化を作る~
5.組織で成果を出すために必要なHuman Energy をどう育てるのか_前編
6.組織で成果を出すために必要なHuman Energy をどう育てるのか_後編
7.サステナブルなビジネスモデルを作るために知っておくべきこと
8.サステナブルが大事になる時代にあるべき経営リーダーシップとは
今回ご紹介したポイント、「時代にあったプロジェクトをつくろう」「さあ一緒に創ろう、ってよびかけよう」を実践して、サステナブル経営へと着実に歩んでいる企業事例をこちらでご紹介します。ぜひご覧ください!
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一般社団法人サステナビリティ・ダイアログ代表理事/Art of Hosting Japan 世話人の牧原ゆりえと、株式会社ビジネスコンサルタントでWEBマーケティングに奮闘している勢口裕美のママコンビ。
子供たちに残していきたい”地球”と”未来”を守るため、いかに地球の成長を邪魔せずにビジネスが前進していけるかを探求。サステナビリティに詳しくグラフィックを書くのが好きなゆりと、これから勉強をしていくゆみでも理解できる流れを検討しながらの協働情報発信。