今回はサステナブル経営を推進している株式会社ビジネスコンサルタントがその実践者3名を招いて開催したセミナー(「サステナブル経営で競争優位を築く 『サステナブル経営の実践』」:2015年10月15日・17日)の講演内容から、数回に渡ってポイントとなる点をご紹介していきます。

前回の記事では、スカンディックホテル・サスティナビリティ部ヘッドであるインゲルさんからお話頂いた「サステナビリティを自分のビジネスに合う形で自分ごととして理解すること」についてご紹介しました。今回はサスティナビリティを実践するに当たり、もう一つのポイントと言われていた「視野を広く、時間軸を長く取ること」ついて、持続可能性原則の観点から考えて行きましょう。 

【視野を広く持ち、時間軸を長く取ること】

 スカンディックホテルが「全社的にサスティナビリティに取り組む」という方針を打ち出したとき、全従業員にサステナビリティのトレーニングに参加してもらうことにしました。何かを節約するとか、お金を稼ぐなどの定量的な目標はともかく、「自分たちの環境とって何かいいことをしよう」という目標を掲げたとき、現場を良く知る多様な声を経営に取り入れることが大切だと考えたのです。9

危機的な経営状態にあった当時のスカンディックホテルにとって、これはかなりの投資になるのは明らかでしたから、財務部長が「もし教育を受けた従業員が会社をやめてしまったら、投資が無駄になるではないか」と考えたのも無理にはありません。

しかし社長は、サステナビリティ教育を受けた人が仮に会社をやめたとしても、社会全体で教育を受けた人が増えることはいいことであり、サステナビリティに間違った考えをもつ従業員が社内に居続ける方がよりマイナスだ、と財務部長を納得させたといいます。 

視野を持続可能な社会という社会全体にまで広げ、時間軸を長く取り、そこから見える視野で「適切な投資」と判断し全従業員への教育に踏み切ったスカンディックホテルに、経済的な結果は比較的すぐについてきました。これは、サステナビリティのはしごの5段階目の企業の特徴のひとつだといえるでしょう。 

サステナビリティに巻き込む展開ステップ

具体的にはまず、全従業員が持続可能性原則を理解し、まわりの人々を巻き込み、自分たちでそれに解決策をだすようなワークショップ型のトレーニ7ングを受ける環境を整えました。そしてホテルごとに「サスティナビリティのためにこんなことに取り組もう!」というアイディアを出してもらいました。

それを本社で回収し、スカンディックホテル全体で取り組んで行きたいアクションをすべてのホテルに対し、経営者からアナウンスをします。タオル漂白剤の変更、アメニティの個別包装の廃止、将来のゲストである子供達の出迎え方等、現在のスカンディックホテルの実践には従業員からの提案から生まれたものがたくさんあります。

従業員は、経営者が自分たちの声に耳を傾けている、自分たちは貢献できるという実感をえることで動機付けがなされ、さらにアイディアを出し、素晴らしいアイディアが採用され、顧客満足につながり…と今なおポジティブな循環が継続しています。 

持続可能性原則にのっとった展開

このプロセスを、社会システムの持続可能性原則の観点から見て行きましょう。

  • 自分のアイディアが会社の取り組みになる8

自分の意見やアイディアが会社の意思決定に影響を与えるというプロセスは「影響力」という持続可能性原則の観点から望ましいと言えます。また、自分にとって意味のあると思う提案が通ること、そして自分が会社にとって必要だと感じられることは「意味・意義」という持続可能性原則の観点から望ましいと言えます。

  • 全従業員にトレーニングを受講させる

仕事の一環として学ぶ機会を与えられたことは「能力」という持続可能性原則の観点から望ましく、受講対象者が「全従業員」であったことで従業6員どうしに間に格差を作らず、またその後のプロセスに多様な視点を巻き込める可能性をつくった点は「公平」という持続可能性原則の観点から望ましいといえます。

 インゲルさんによると、ナチュラル・ステップの持続可能性原則があったから、サステナビリティを考えることは、思ったより複雑なことではなかったそうです。みなさんも、「持続可能性原則」からご自身のビジネスを考えてみませんか。

次回は、サステナビリティを組織に導入する際に必要となるリーダーシップについて考えて行きます。次回もどうぞお楽しみに! 


参考:ナチュラル・ステップの4つの持続可能性原則

3つの自然環境に関する持続可能性原則
持続可能な社会では、自らの組織が
①自然の中で地殻から掘り出した物質の濃度が増え続けることに加担しない
②自然の中で人間社会が作り出した物質の濃度が増え続けることに加担しない
③自然が物理的な方法で劣化することに加担しない 

社会システムに関する持続可能性原則にある5つの要素
持続可能な社会では、自らの組織が存続するためには、社会システムを破壊する可能性があるシステム的な障壁を作りだすことに加担しないこと、つまり

④ヒトが健康でいることを妨げる障壁に加担しない。
⑤ヒトが影響力を行使することを妨げる障壁に加担しない。
⑥ヒト能力を発揮することを妨げる障壁に加担しない。
⑦公正性を担保することを妨げる障壁に加担しない。
⑧ヒトが意味や意義を求めることを妨げる障壁に加担しない。
という持続可能な社会を構築するための原則を守ることが必要であるといっています。

ここでいう「加担しない」とは、組織として
・今行っていることでこの原則に反するような活動は減らしていき、最終的には完全に撤廃すること
・これから意思決定をする場合は、この原則に反するやり方では行わないこと
の2つを表しています。

 【サスティナブル経営で競争優位を築く WINセミナーシリーズ】 
1.自社のチェックリスト① 持続可能なビジネスか否か-4つの持続可能性原則
2.自社のチェックリスト② 持続可能なビジネスか否か-5つのはしご
3.サステナブル経営実践事例:北欧スカンディックホテル~原則を押さえて自社に合うやり方を追求、収益につなげる~
4.サステナブル経営実践事例:北欧スカンディックホテル~全社員を巻き込み、新たな文化を作る~

5.組織で成果を出すために必要なHuman Energy をどう育てるのか_前編
6.組織で成果を出すために必要なHuman Energy をどう育てるのか_後編
7.サスティナブルなビジネスモデルを作るために知っておくべきこと
8.サステナブルが大事になる時代にあるべき経営リーダーシップとは

いかがでしたか?自社に合ったサスティナビリティ成功の要因を見出し、ビジネスモデルの変革を実現していくことが企業に求められているといえるでしょう。 成功モデルというべき企業の取り組みを一つ、ご紹介しておきます。 「2020年までに環境への負荷をゼロにする」そんな無謀とも思えるミッションを掲げサスティナビリティの取り組みを続ける、世界的なタイルカーペット会社のインターフェイス社です。同社がなぜこの取り組みを長く続け、ビジネスモデルの変革により実績に繋げてきた秘訣をインタビューし、4つの章にまとめました。ぜひ以下よりダウンロードし、貴社の取り組みにお役立てください。

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