昨年は、3人の日本人がノーベル物理学賞を受賞し、話題になりました。ノーベル賞は物理学賞の他、化学、医学生理学、文学、平和、経済学の6分野で顕著な功績を残した人に授与されるものですが、現代に生きる人類共通の課題である環境分野についての賞はありません。そこで、環境分野のノーベル賞をめざして創設されたのが、地球環境問題の解決に大きく貢献した個人や組織を顕彰する国際賞である「ブループラネット賞」です。

1992年に、この「ブループラネット賞」を創設し、以後、20年以上に渡って毎年顕彰を行っているのが、公益社団法人 旭硝子財団です。旭硝子財団では、世界がどれほどの環境危機に直面しているかを示す「環境危機時計®」を毎年発表するなど、地球環境問題解決に関わる事業を行っています。

「ブループラネット賞」、「環境危機時計®」とはどのようなものなのか、そして、これらの活動を通して浮かび上がる地球環境問題の現状と課題について、公益社団法人 旭硝子財団の安田哲朗事務局長にお話をうかがいました。

地球環境問題のノーベル賞「ブループラネット賞」とは?

「ブループラネット賞」は、リオデジャネイロで開催された地球サミット(環境と開発に関する国際連合会議)が開催された1992年に公益財団法人 旭硝子財団が創設した賞で、地球環境問題の解決に向けて著しい貢献をした個人、組織に対して毎年2件贈られています。

出典:旭硝子財団

賞は毎年8月から10月にかけて世界中の環境問題に関わる研究者、学識者、ジャーナリスト、中央および地方政府関係者、NPOらから推薦を受け、財団とは独立した国内の識者らで構成された2つの選考委員会により、2件を選定。翌年6月に発表、秋頃には東京で受賞者を迎えての表彰式典と記念講演が行われます。受賞者には賞状、トロフィーと共に副賞賞金5000万円が授与されます。

賞を設立した旭硝子財団について、しばしば旭硝子株式会社との関係について尋ねられるのですが、旭硝子株式会社とは別の、独立した組織です。財団は運用益のみで運営されており、旭硝子株式会社とは独立した公益財団法人となっています。

1933年に旭硝子株式会社創業25年を記念して、日本の産業振興のために、応用化学、工業、工業技術分野の研究助成を行う財団として設立された旭硝子工業奨励会が前身です。1990年に旭硝子財団と改称。活動を見直し、今までの研究助成の他、地球環境問題解決に寄与するため、環境分野のノーベル賞を目指した『ブループラネット賞』を創設、『環境危機時計®』による広報活動なども行うようになりました。どちらも、環境問題解決に貢献する人や活動にスポットを当てたり、環境に関する調査発表を行ったりすることで、多くの人に環境に対する意識を高めていただくことが目的です。

これまでの受賞者は、地球温暖化や地球気候変動のメカニズム解明に貢献した研究者や、南極のオゾンホール、環境ホルモンなどの問題について明らかにした研究者、土壌改良に貢献した団体、生物多様性を維持するための活動を推進した団体など、領域も分野も多岐にわたっています。

ただ、「ブループラネット賞」創設から23年が経つなかで、受賞者の傾向は少しずつ変化してきています。賞が創設された1992年から2000年頃までは、主に地球温暖化や生物多様性、エネルギー、食糧危機などに関する科学的な調査研究を行った研究者らが、研究を通じて人類に警鐘を鳴らした功績を称えられ、受賞しているケースがほとんどでした。当時は地球環境危機について、まだまだ一般に知られておらず、科学的知見を広く知らせる必要があると考えられていたからです。しかし、2000年代以降は、地球環境問題解決に向けて具体的な取り組みを行っている団体や、環境経済学、環境社会学などの研究、取り組みが評価され受賞することが増えてきました。

たとえば、2000年度受賞のカールヘンリク・ロベール博士は、持続可能な循環型社会を実現するための4条件を提唱し、それに基づく環境対策を行政、企業に広めるための組織「ナチュラル・ステップ」をスウェーデンで設立、普及に努めた人物です。

また、経済学的な見地から自然環境、社会環境を捉え、地球温暖化対策を考える上で重要な「社会的共通資本」の概念を提唱した宇沢弘文教授(2009年度受賞)や、生態系が提供する「自然」の生産量に対する、人間の消費量を比較することができる「エコロジカルフットプリント」を提唱したウィリアム・E・リース教授、マティス・ワケナゲル博士(2012年度受賞)など、受賞履歴を追っていくと、理論を実践につなげる取り組みや、経済、社会学的なアプローチが評価され、受賞につながるケースが増えてきています。

なぜ受賞理由の傾向が、地球環境問題についての科学的な調査研究から、経済、社会学的な観点からの研究や、具体的な実践を行う団体などへシフトしていったのでしょうか?

―――>(2)どれほど環境危機を伝えてもなにも変わらない理由とは へつづく

安田 哲朗(旭硝子財団 事務局長、顕彰部長)

1951年 京都府生まれ。神戸大学理学部卒。MBS(マンチェスター大学MBA)卒、製造会社経営企画部長等を経て、2009年に公益財団法人旭硝子財団 事務局長に就任。世界的な環境賞であるブループラネット事業、地球環境問題のアウェアネス促進のための環境危機時計®などの事業を手がけ、国内外の環境機関、研究者、活動家と連携し同事業の認知度の向上を図っている。

 

【サスティナブル事例】ブループラネット賞顕彰を通して~旭硝子財団の活動

  1. 環境問題のノーベル賞!?「ブループラネット賞」を知っていますか?
  2. どれほど環境危機を伝えてもなにも変わらない理由とは
  3. 進みつつある「環境危機時計®」が教えてくれること
  4. 100年後も生き残るために我々が今やるべきこと

いかがでしたでしょうか?地球環境問題の解決がなぜ進まず、今後どうすれば良いのか、公益財団法人旭硝子財団の安田哲朗事務局長にお話を伺い、4章にまとめました。本記事では1章のみお伝えしましたが、以下より4章すべてをご覧いただけます。是非ダウンロードして、貴社の取り組みにお役立てください。

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