“1 on 1”というコミュニケーションの手法をきいたことはありますか?
「ワンオンワン」と読みますが、インテル社やヤフー社で活用されているマネジメント手法の一種として書籍などでも紹介され、日本でも有名になってきました。
簡単に言うとマネジャーとメンバーが1対1で行うミーティングのことです。
1対1でのミーティングと言うと、私自身としては具体的な個別の相談ごとがある時に随時、例えば半期に一度の評価面談や、何か業務態度に対しての指導が入る時くらいしか経験がなく、頻繁に実施するイメージがありませんでした。しかし原田さんによると、最近では世界各国の企業において、「チームミーティングより成果につながるマネジメント手法」として多用されているそうです。
今回は、ポジティブリーダーになるための3つのステップの最後となる「ポジティブエナジャイザーの成功を促進する」を次回と2回に渡ってご紹介します(ポジティブリーダーシップについてはこちらの記事をどうぞ)。
※「働く喜び・生きる幸せ」を感じられる組織づくりをめざす株式会社ビジネスコンサルタントが、ミシガン大学のキム・キャメロン教授と、マキシオン・ホイールズ社の原田俊彦氏をお招きして開催したセミナー(『ポジティブリーダーシップの理論と実践』:2017年1月11・12日開催)の講演内容から、ポイントを数回にわたりご案内しています。
ステップ③ ポジティブエネジャイザーの成功を促進する
ポジティブリーダーの大きな役割の一つは、組織の中にいるポジティブエナジャイザーの成長を促進することです。以前の記事でもご紹介した通り、エンゲージしている人たちが「エンゲージすることを拒否している人たちとの戦い」に勝つように支援することがリーダーの仕事です。そのためには潜在的なエナジャイザーを見つけ、その人たちが成功しやすい環境をつくりだすことが重要となります。そうすることで、エナジャイザーが組織の中でどんどん育ち、組織全体がポジティブなよい方向に、自然と引っ張られていくことになります。
(以前の記事:4つのマインドセットでリーダーは大きな太陽に!_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを③)
1 on 1ミーティングとは
1 on 1ミーティングでは大まかに言うと次のような質問をします。
「あなたは、何を将来やりたいですか?」…WILL
「あなたは、会社から期待されていることは何だと思っていますか?」…WHAT
「あなた自身は、何ができると思っていますか?」…CAN
つまり、1 on 1は、「やれること・やりたいこと・期待されていること」の重なりを大きくするための対話です。上司との会話でよくあるのは、「何をしなければならないか」をテーマにした会話ですが、ここでは「私」を主語にして考える、情熱の源を見つけ、実際の業務へのエネルギーを解放していくことが中心となります。
したがって、マネジャーとしてはこの質問の後、「ではそれらを実現するために、私は何を支援すればよいですか? あなたは何をしますか?」といった会話が続くことになります。
この1 on 1の目的は、エナジャイザーの育成です。マネジャーがエナジャイザーの成功体験を積む支援をすることで、彼らがさらに学習することを促進します。メンバーのキャリアアップのための支援をしていることが伝われば、信頼関係はさらに強固なものになります。
原田さんはこうしたミーティングを月に1回は設けるようにしたと言います。頻度はメンバーの成熟度や経験年数、エネルギー発揮度や、業務における変化の速度に応じて週1回から月1回の間で調整していくと効果的だと思われます。
1 on 1を効果的にするツール「エベレストゴール」
1 on 1ミーティングは簡単なようで、実際にやってみようと思うとハードルが少し高いように感じられます。メンバーとしても、「私」を主語にしてやりたいことや情熱を語るという経験がないと、突然そんなテーマでミーティングをされても困ってしまうでしょう。せっかくの時間が沈黙のまま終わってしまうのではないかとマネジャーも不安を感じるかもしれません。
原田さんはこの1 on 1を効果的に進めるために、「エベレストゴール」と、対話を通じてエベレストゴールを考え、アクションにつなげるためのツールを開発されました。実際に原田さん自身もこれを活用しながらコーチングをされています。
エベレストゴールとは、キム・キャメロン教授が提唱している「ポジティブな目標」のことですが、具体的には通常の「SMARTストレッチゴール」(※文末を参照ください)の要素プラス、次の5つの要素が入ることが条件となります。
1.いつもの自分よりも、その目標はポジティブな方向へ飛躍したものである。
2.絶対正しいことで、その目標を追求すること自体が「善行」である。
3.今の問題解決ではなく、未来のソリューションに焦点が当たっている。
4.自己の利益のためでなく、他者への価値の提供や貢献になっている。
5.その目標を追求するだけで、どんどんエネルギーが湧いてくる。
エベレストゴールは、組織や経営者が掲げる目標としても人を引きつけ、エンゲージメントを高め、エネルギーを引き出すゴールとして機能しますが、個人レベルでも設定することができます。つまり、メンバーがエネルギーの源泉を見つけ、具体的な行動につなげ、経験学習をしてくためのテーマ設定に活用できるというものです。
次回は最終回です。具体的なエベレストゴールを用いた時の効果についてご紹介します。
※SMARTとは
Specific(明確な)、Measurable(測定可能な)、Aligned(連携した)、Realistic(現実的な)、Time Bound(期限を定めた) の頭文字をとった、望ましい目標設定のキーワードです。
(グラフィック担当:株式会社ビジネスコンサルタント 遠藤麻衣子)
【ポジティブリーダシップシリーズ】
1.リーダーシップを科学する_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを①
2.リーダーに朗報!人の「ひまわり効果」とは_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを②
3.4つのマインドセットでリーダーは大きな太陽に!_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを③
4.影響力とエネルギー、リーダーにとって重要なのは?_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを④
5.リーダーシップとスポーツの意外な共通点_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを⑤
6.信頼関係を築くためには何を共有するのが効果的?_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを⑥
7.1 on 1でエナジャイザーを育てる_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを⑦
8.ゴールを成し遂げる!ためのツール_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを⑧
「ポジティブエナジャイザー」の見つけ方をおさらいしたい方へ、こちらのeBookをご参照ください。
東京工業大学大学院 社会理工学研究科 修士課程修了/ 一般社団法人日本ポジティブ心理学協会 理事。
株式会社ビジネスコンサルタントにて営業マネジャー職を担当。その後、同社における顧客組織の組織開発と人材開発への投資効果と投資効率を最大限に高めるための会員制サービスの商品戦略を担当。現在は同社の研究開発マネジャーとして、サステナブル社会の実現のため、ポジティブ心理学やイノベーション理論、自然科学ベースの戦略策定フレームワークに基づく商品開発およびその実践を担当。