リーダーシップに関する書籍の90%は、リーダーと影響力について書かれているそうです。そこで皆さんも目にしたことがあるのは、きっとこんな説明ではないでしょうか。「リーダーは影響力を発揮して、部下を動かし、目標を達成しなくてはならない。影響力を発揮するためのポイントは…」。私自身も、リーダーはどう影響力を発揮するかが一番大事なことだと、何となく思っていました。ところが、ミシガン大学のキム・キャメロン教授の研究によると、リーダーが最も注目すべきは影響力ではないというのです。
「〇〇は、影響力よりも4倍も正確に、組織のパフォーマンス向上を予測する」
「しかし多くの組織では、〇〇について、十分注目していないし、マネジメントの対象にもしていない」
皆さんはこの〇〇、何だと思われますか?
※「働く喜び・生きる幸せ」を感じられる組織づくりを目指す株式会社ビジネスコンサルタントが、キム・キャメロン教授と、マキシオン・ホイールズ社の原田俊彦氏をお招きして開催したセミナー(『ポジティブリーダーシップの理論と実践』:2017年1月11・12日開催)の講演内容から、ポイントを数回にわたりご案内しています。
ポジティブエネルギーこそ、リーダーが注目すべきもの
答えを先にご紹介します。キャメロン教授によると、リーダーが注目すべきは影響力ではなくエネルギーだということです。人々の関係性の中に生まれる、「ポジティブエネルギー」こそ、組織のパフォーマンス向上のかなめになるそうです。キャメロン教授は研究から、次の3つの結論を導き出しました。
①高いポジティブエネルギーを備えている人材(ポジティブエネジャイザー)はハイパフォーマーである
②ポジティブエナジャイザーがいると、周囲の人々のパフォーマンスも高くなる
③業績の良い組織では、そうではない組織より、ポジティブエネルギーのネットワークの網目が3倍濃い
実際、キャメロン教授はポジティブエネルギーに注目することで組織を成功に導いたリーダーをたくさん見てこられました。例えば、
・グローバル展開している米国の金融会社では、トップが全社員に働きかけてポジティブエネルギーを組織に充満させることで、1億2000万ドルの赤字を翌年には2000万ドルの黒字へと転換させた。
・社員規模2万人の企業で、トップが世界中から26人のポジティブエネルギーの高い人材を集めて、彼らと一緒になってたった60日で新しい文化や価値観を浸透する取り組みを成功させた。
どうしたら私たちも、組織の中のポジティブエネルギーエナジャイザーを見つけ、そのエネルギーを生かすことができるのでしょうか。(ポジティブエネルギーやエナジャイザーについてはこちらの記事でも詳しくご紹介しています)
可視化してマネジメントすべきは組織の中のエネルギーのやり取り
あなたの会社の組織図はどのような形をしていますか?こんなオーソドックスな形でしょうか。この組織図を眺めても、「どうしたら組織を活性化できるか」を考えることは―できませんよね?代わりに、キャメロン教授が教えてくださったのが、ネットワークマップです。誰と誰がどうつながっているかを可視化するもので、経済学や社会学等の研究でよく使われています。皆さんも次の二つは、どこかで目にしたことがあるのではないでしょうか。
・情報のネットワークマップ:誰が誰に情報を与え、誰が誰から情報を受け取るか
・影響力のネットワークマップ:誰が誰に影響を与え、誰が誰から影響を受けるか
いずれの場合も、ネットワークの中心にいる人ほど、組織の中でよりパフォーマンスを上げているし、より重要なポジションを占めていると言えます。
冒頭でもご案内した通り、「情報や影響力よりも4倍正確に組織全体の業績向上を予測するのはポジティブエネルギー」です。ですから、組織のパフォーマンスを高めたかったら、
①エネルギーのネットワークマップを作り、誰が誰にエネルギーを与え、誰が誰からエネルギーを与えられているのか、この関係性を明らかにして、ポジティブエネジャイザーを見つけ出す
②ポジティブエナジャイザーが活躍しやすい環境を整える
この2つに注力することが重要なのです。
エネルギーのネットワークマップの作り方
ポジティブエネルギーのネットワークマップの作り方は、とても簡単です。
①アンケートを実施する
・組織の人の名前が全員分書かれた紙を用意する、名前の横には□を一つ
・□の中に、1~7で数字を記入してもらう。指標が意味するのは、「7:私はこの人と接すると、とてもポジティブなエネルギーを得ることができる」「1:私はこの人と接すると、自分のエネルギーを吸い取られてしまう」です。
②ネットワークマップを作る
ネットワークマップ作成ツール(無料のソフト等があります)を使い、集めたデータを入力し、ネットワークマップを作ります。そのとき、評価の高い(5・6・7)人たちでデータをまとめると、「ポジティブエナジャイザー」(周囲にエネルギーをもたらす人)のマップになります。逆に、評価の低い(1・2)人たちでデータをまとめると「エネジーヴァンパイア」(人のエネルギーを吸い取ってしまう人、詳しくはこちらの記事をどうぞ)のマップになります。
エネルギーのネットワークマップから分かること
ネットワークマップを作ると、次のようなことが一目で分かります。
・私たちの組織の中で、ポジティブエナジャイザーは誰か
ネットワークの中心に近い人ほど、より多くの人にエネルギーを与えているポジティブエナジャイザーです。
・ポジティブエナジャイザーとエナジーヴァンパイアは、どの階層にどのように分布しているか
ポジティブエナジャイザーであることと組織内のポジションは関係ありません。役員でもエナジーヴァンパイアはいるし、一般社員の中にもポジティブエナジャイザーはいます。組織によっては、エナジーヴァンパイアは管理者ばかり、という場合もあるそうです。
・私たちの組織の、ポジティブエネルギーの量はどれくらいか
ネットワークが濃いほど、より多くのエネルギーが充満していると言えます。
エナジーヴァンパイアは、組織の効果性を下げてしまう困った存在です。それは、なぜなのでしょうか?
キャメロン教授は、情報のネットワークマップにエナジーヴァンパイアのネットワークマップを重ねる、という調査で明らかにしました。エナジーヴァンパイアによって情報のネットワークがすっかり寸断されてしまうのです。このことは、「どんなに専門性が高くて有用な情報を持っている人であっても、接触したらエネルギーを吸い取ってしまうヴァンパイアであれば、払う代償が高すぎで近寄りたくなくなってしまう」という状況を表していると、キャメロン教授は考えています。
1パーセントの変化でポジティブエナジャイザーを目指そう!
ポジティブエネジャイザーの特徴を一言で表すと、ということでキャメロン教授は次の言葉を紹介してくださいました。
(アメリカ合衆国第6代大統領の言葉から)
『あなたの行動が刺激となって、ほかの人たちがもっと夢を抱いて、もっとたくさん学んで、もっと多くのことをして、もっと成長するようになれば、あなたは【ポジティブ】リーダーだ』
さいごにキャメロン教授が力強くメッセージしてくださったのは、「ポジティブエナジャイザーになるには1パーセントの変化で十分」ということ。そこで次回の記事では、リーダーとしてどんな行動を取れば、組織のポジティブエネルギーを引き出すことができるのかをさらに詳しくご紹介します。
(グラフィック担当 株式会社ビジネスコンサルタント 遠藤麻衣子)
ポジティブエネルギーのネットワークマップの作成や活用についてご関心のある方は、こちらのメールアドレスにてぜひお気軽にお問い合わせください。
gbgp@bcon.co.jp
【ポジティブリーダシップシリーズ】
1.リーダーシップを科学する_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを①
2.リーダーに朗報!人の「ひまわり効果」とは_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを②
3.4つのマインドセットでリーダーは大きな太陽に!_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを③
4.影響力とエネルギー、リーダーにとって重要なのは?_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを④
5.リーダーシップとスポーツの意外な共通点_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを⑤
6.信頼関係を築くためには何を共有するのが効果的?_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを⑥
7.1 on 1でエナジャイザーを育成する_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを⑦
8.ゴールを成し遂げる!ためのツール_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを⑧
今回ご紹介したポジティブエナジャイザーについて、こちらのeBookでより詳しくまとめてご紹介しています!ぜひご覧ください。
京都大学総合人間学部、同大学院人間・環境学研究科修士課程修了。専攻は文化人類学、クロアチアで戦災からの街の復興をテーマにフィールドワークを行う。
株式会社ビジネスコンサルタント入社後、企画営業・営業マネジャーを担当。現在は同社の研究開発部門で、環境と社会の両面でサステナブルな組織づくりにつなげるための情報収集やプログラム開発等に取り組んでいる。Good Business Good Peopleの中の人。