7月13日~16日にカナダのケベック州モントリオールで開催された国際ポジティブ心理学の学術団体、International Positive Psychology AssociationIPPA)に参加してきました。前回に引き続き、職場で活用したい、ポジティブ心理学の基礎と新潮流をご紹介します!

世界の死因隠れた第一位は肥満!?

「肥満」が世界の大問題だとご存じでしたか?

先日、知り合いから世界ではテロや戦争、交通事故で死亡する方よりも、肥満が原因で死亡する方が圧倒的に多いと聞いて驚き調べてみました。2017年のWHOのデータに2015年の世界の死因TOP10が公表されています。

1位  虚血性心疾患
2位  脳卒中
3位  下気道感染症
4位  慢性閉塞(へいそく)性肺疾患
5位  気管炎、気管支炎、肺がん
6位  糖尿病
7位  アルツハイマー、認知症
8位  下痢性疾患
9位  結核
10位 道路交通障害

このTOP10で死亡者数全体5,640万人の54%の死亡原因を占めるそうです。そして、1位と2位の虚血性疾患と脳卒中だけで1500万人に上るそうで、この15年間でみても最大の死亡原因だそうです。ちなみに、交通事故傷害は135万人、テロによる死者数は2016年で25621名だそうです。
1位の虚血性疾患は耳慣れない言葉ですが、その原因は動脈硬化だそうで、肥満や糖代謝以上、高脂血症、高血圧が原因だそうです。他、喫煙やストレスも原因の1つと言われています。つまり、肥満が原因で引き起こされる病で多くの方が亡くなっているということです。

しかし、肥満が健康に悪いことは分かっていても新しい食生活や運動習慣を身につけるのは難しいものです。そこでつい口にしたくなるのが「意志力が無いから…」という言い訳です。
それではポジティブ心理学の観点から何か解決策はあるのでしょうか。

Well-beingを高めるアプローチPERMAとは

ポジティブ心理学は、人のWell-beingを高めることを目的とした心理学の一分野です。(簡単な解説はこちらをどうぞ)Well-beingとは、「比較的長い期間の幸せ」とか「より良く生きる」(予防医学博士石川善樹氏)などと説明されるものです。では、Well-beingはどうしたら高めることができると考えられているのでしょうか?ポジティブ心理学ではPERMA(プエルマ/ペルマ)という5つの観点で整理をしています。

P=Positive Emotion(ポジティブ感情)

日々の生活や仕事の中で、楽しさを見出したり、人へ感謝したり、誇りを感じたりといった気持を持てる状態。

E=Engagementフロー状態を生み出す活動への従事)

時間がたつのがすごく速く感じられるくらい、今、している活動に没頭していたり、積極的に新しいことを色々考えながら仕事をすすめられたりしている状態

R=Relationship(関係性)

人と人との絆や繋がりがあり、お互いに気遣いあったり、楽しんだり、交流が持てている状態。

M=Meaning and Purpose(人生の意味や仕事の意義、及び目的の追求)

自分の仕事が世の中とつながっていて、意味あるものだと認識できたり、追求すること自体に喜びを感じられる目的をもって生活を送ったりしている状態。

A=Achievement(何かを成し遂げること)

小さな成功でもそれを意識し、達成感を感じられている状態。必ずしも社会的成功は伴わなくてもよい。

日常生活の中で、これら5つのポイントを充実させるように活動をしていると、Well-beingが高まります。WHOの定義で健康とは、「病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます」とありますが、まさにポジティブ心理学で目指している状態を「健康」というのですね。

ただしこれは人生からネガティブなことを完全に排除しましょうという考え方ではありません。あくまでバランスが大事という考え方です。ポジティブ感情とネガティブ感情には、次のような働きがあります。

ポジティブ感情ネガティブ感情の働き

人間は、ネガティブ感情があるから、危険をあらかじめ察知して回避し、生き延びてきたともいえるのです。ただ、ネガティブが厄介なのは、それがひとたび人の感情を支配してしまうと、思考や行動の柔軟性がなくなったり、周りの人に伝播して周囲のエネルギーを奪ってしまったりすることです。しかも人間の脳はそれを意識しないようにしようとすればするほど、かえって気になる、という性質があります。それはまさにしばしばゴルフなどのスポーツで経験することと同じで、「池にボールを入れたくないと思えば思うほど、池ポチャしてしまう」現象と同じです。

ポジティブ感情の力を借りてダイエットも成功!?

IPPAでは、意志力は永続きしないけど、ポジティブ感情に焦点を当てると行動を持続させる動機になると、ノースカロライナ大学のバーバラ・フレデリクソン博士が発表していました。

フレデリクソン博士からこんな問いかけがありました。「あなたは日常生活を設計するにあたって、ポジティブ感情を創り出すことを優先させて組み込めていますか? どれくらい次のようなことができているかチェックしてみてください。」

1.私にとっての優先事項は毎日の生活で幸せを感じることです
2.自分のポジティブ感情を見つけたり、育んだりしています
3.仕事以外の時間を何に使うか決めるのは、ポジティブ感情を経験できることかどうかで決めています
4.私は今日一日を幸せが最大化するように組み立てています
5.人生における主な意思決定はどれだけポジティブ感情を経験できるかで決めています(仕事や家を買う意思決定など)
6.幸せを感じられることに基づいた意思決定をする人をすてきだと思います

残念ながら、私の場合は1つしかチェックが付きませんでした。唯一の○の項目は「2.自分のポジティブ感情を見つけたり、育んだりしています」です。これまでポジティブ心理学を勉強していて、簡単にできるエクササイズを仕事からの帰宅途中に行っているからです。
それは「3つのいいこと」といい、今日一日を振り返って、「いいこと」3つを思い出すという単純なものです。いろんな理不尽さや腹立たしいことがあっても、「3つのいいこと」を思い出すだけで、心のバランスを取り戻せます。
ですが、これ以外には積極的に日常の生活設計を「ポジティブ感情」を起こすような組み立ては全くしていませんでした。

フレデリクソン博士は、健康のために「運動」「健康な食事」など毎日の習慣にすると良いと言われているものも、義務感や嫌な気持ちで実践しても意志力が使い果たされてしまい、結果的に長続きしないと言っています。続けるためには、それぞれの活動が自分の「ポジティブ感情」と結びつくように設計することが大切です。例えばポジティブ感情を引き起こす「運動」をすることで、さらに動機づけされ、ますます行動が強化されるのだそうです。

ポジティブ感情による活動の強化

私は自分の活動計画を毎週1度ゆっくり振り返り、次の計画を立てる時間を作っていますが、なかなか長続きしないので、木曜日に「少し背伸びした素敵なお店で、おいしいランチを食べながら」と決めています。同じことが運動や健康な食事にも言えるのですね。一緒にいて楽しい仲間がいれば、そういった人たちと共に取り組んだり、運動するのに気持が良い場所を見つけて運動したり、・・・。考えてみるといろいろ「ポジティブ感情」をメインとした設計ができそうです。「健康」が大事とは分かっているものの、なかなか行動が続かないという方はぜひ「ポジティブ感情」と結びつけて日常生活を設計してみてください。

ポジティブ心理学とは「バランス心理学」

これまで、心身ともに健康であるためにいかにポジティブ感情が大切かというお話をご紹介してきましたが、やはり大切なのはバランスを取ることです。バランス

ノースカロライナ大学のバーバラ・フレデリクソン博士は、次のようにも言っていました。「ポジティブ感情は心身の健康に良い影響を与えることはこれまでの研究で証明されました。ですが、同時に“あからさまな幸せの追及”はWell-beingに逆効果になることも分かりました。」この“あからさまな幸せの追求”とは、次のようなものです。

【行き過ぎた幸福(ハピネス)の追及】

・自分の人生がどれだけ価値があるかを、いつも口にしている
・もし、幸せを感じていなかったとしたら、それは何か間違っているからだ
・個人的な幸福に影響があるものだけ価値があると思う
・いつもの私よりももっと幸せになりたい
・幸せを感じることは、とてつもなく私にとって重要なことだ
・幸せを感じていても、いつも自分の幸せが心配になる
・意義ある人生にするために、幸せをほとんどの時間感じている必要がある

ただ、幸せになりたいと願っているだけでは逆に悪影響になるということなのです。

前回の記事でご紹介したスティーブン・コール博士の話にも、バランスが必要だということは共通しそうです。

「快楽追求型の幸せ(ヘドニア)」と「意味ある幸せ追求型(ユーダイモニア)」では遺伝子の発現状況に与える影響が真反対になるという結果でしたが、実際にはどちらがよくて、どちらが悪いといったような二元論では考えられないと思います。私としては、「今日も美味しい食事で幸せだな」とか「好きな人とふれあっていたいな」と思うのは人間らしいことだし、こういった「快楽」を全く否定した生活は、色彩をかいた味気ないものだと感じてしまいます。

これは私の想像ですが、もしかすると「快楽追求型の幸せ」は、追求することに偏りがちになってしまうために健康を害するのではないでしょうか。特にそれが何か他に満たされないものへの代償行為だとしたらどうでしょうか。人間には心理的に防衛機制が働きますが、そのうちの1つに「代償」というものがあります。これは「欲求を本来のものとは別の対象に置き換えることで充足すること」と定義されています。本当は意義ある人生を送りたい、人との良い関係を築きたい、仕事に意味を見出したい、けれどもそれが出来ない自分を直視するのは辛くてしんどい。そこで簡単に手に入る可能性のある「快楽」ばかりを追求して、そこで得られる満足感は長続きしないとわかっていても、刹那的な幸せを追い求めてしまう。こんなことを繰り返していたのでは、心身ともに消耗してしまいますよね。

「ポジティブ心理学」は「バランス心理学」だと言われます。ネガティブばかりに傾きがちな脳の特性に振り回されないよう、ポジティブなことを意識したり、快楽だけで満足を得るのではなく、よりよい人生を歩むために人生や仕事の意味や目的を追求したり。こういったことがこの学問の本質だと、この国際大会に参加したことで改めて認識できました。


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廣瀬 沙織
東京工業大学大学院 社会理工学研究科 修士課程修了/ 一般社団法人日本ポジティブ心理学協会 理事。 株式会社ビジネスコンサルタントにて営業マネジャー職を担当。その後、同社における顧客組織の組織開発と人材開発への投資効果と投資効率を最大限に高めるための会員制サービスの商品戦略を担当。現在は同社の研究開発マネジャーとして、サステナブル社会の実現のため、ポジティブ心理学やイノベーション理論、自然科学ベースの戦略策定フレームワークに基づく商品開発およびその実践を担当。