あなたの組織は、“どこを見て”経営をしていますか?

 ペーパードライバーの私がお訊ねするのは少々気が引けますが、皆さんは車を運転するとき、どこを見ますか? バックミラー、サイドミラー、これらももちろんチェックしますが、事故を起こさないためにはもちろん、前方をよく見ながら運転しますよね。こんなこと、ドライバーの皆さんには当たり前すぎてわざわざ言うのもおかしなほどです。

では、経営をするときには、どこを見ますか? 前年度業績、競合企業の動向、数年先までの業界予測、何をベンチマークしますか?
「前年度の売上利益との比較で業績の良しあしを判断するような経営の仕方は、バックミラーだけを見て運転をするのと同じこと」
というどきっとする指摘をしてくれたは、マーティン・リッチさんです。私たちが持続可能な経営を進める上で役に立つと考えている、あるツールについて学習するために、イギリスからお招きしました。リッチさんはもともと投資アドバイス会社の社員。金融の世界の真っただ中にいた彼が仕事をやめて、ゼロから開発し、世界に広めようと動いているのは、サスティナブル経営のためのこれまでにない業績評価ツールです。

顧客数が増えた、新商品・新サービスをリリースした、売上・利益が伸びた、この半期の目標を達成した、市場のシェアを増やした、…。もちろんこれらは企業が利益を出し、再投資をして成長するためには欠かせないもの。私たちの会社もとってもこだわっています。これらの指標に共通するのは、その良しあしの判断が近い過去もしくは現在との比較であり、とても短い期間の将来しか見ていないということ。それでは30年後・50年後の地球で持続可能に事業を続けられる企業にはなれない、という前提がリッチさんの問題提起にはあります。

Future-Fitイメージ

 

未来を見て経営をするために、業績を評価する基準を変える

 「未来を見て経営をする」ためには、具体的にはどうしていけばよいのでしょうか。まず必要なことは、企業が生み出す価値を評価する基準を変えることです。それを理解するために、リッチさんは「3つのCSV」という話をしてくれました。

 ひとつ目のCSV: Creating Shareholder Value/株主価値の創造

株主価値を重視する姿勢は、資本主義経済がスタートしたばかりは当たり前の価値観でしたが、1970年代にはその限界性が明らかになりました。ひとつ目のCSV

その後一般化したCSRは、現在も広く浸透している概念ではありますが、残念ながらサスティナビリティの観点からは不十分な概念だと捉えられています。「社会に役立つことをすることは、(必要だけれども)経営にとってはコストだ」という認識は株主重視の経営と大きく違いません。そのためCSRでは「他よりは悪くない」レベルを目指すのにとどまりがち、とも指摘されています。

ふたつ目のCSVCreating Shared Value 共有価値の創造

マイケル・ポーターが唱えて注目を浴びるようになりました。「良いことをする」とチャンスにつながると皆が捉えるのには貢献したと言えます。しかし、「良いことをする」とはいったいどのようなことかの定義がこのアプローチにはありません。そのためCSVに取り組もうという会社は、自分たちの事業領域につながる、特定の限られた社会問題の解決にだけエネルギーを注ぐことに陥りがちになります。

みっつ目のCSVCreating System Value システム的な価値の創造

3つ目のCSV

ここで言うシステムとは、地球全体のシステムを指します。具体的には、環境、生態系、人間の社会全体が含まれます。ビジネスを通じて環境や生態系に負荷をかけないレベルを、あらゆる企業が目指すべき最低ライン、すなわち損益分岐点だと考えて価値を創造していくアプローチです。さらにシステムに良い影響をもたらすことで、他に追随されない競争力を得ることにつながります。

どれも略すとCSVですが、随分意味合いが違います。ただ、資源調達や異常気象など、これまでとは違う要因で事業運営が難しくなっていくことが予想される時代、ポーターによるCSVよりも「システム価値」を重視する姿勢の方が、たしかに有効そうだと私は感じました。 

でも、正直、「システム的な価値を生む」と言われても抽象度が高く、何に取り組めばよいのか難しく感じてしまいます。そこでリッチさんの研究グループは、ビジネスのリーダーが、将来のあるべき姿との比較で今の姿を評価し、「システム的な価値」を生んでいくための羅針盤となるような業績評価ツールを開発したのです。それが「Future-Fitビジネスベンチマーク」というものです。

 そして「システム的な価値」を定義するにあたって、リッチさんらは「戦略的で持続可能な発展のためのフレームワーク(Framework for Strategic Sustainable Developemt: FSSD)」をベースに置きました。これはカール・ヘンリック・ロベール博士ら多くの科学者が議論して作り上げた持続可能性の実現を目指す組織運営のためのフレームワークで、いま最も実用性があり、かつ科学的根拠の確かなものと言われています(関連記事はこちらこちらです)。

このフレームワークの大前提は、“システムで考えて行動する”ということ。それがどういうことか、5段階で示されています。

①システムレベル
今、対象としているシステムがどのような原則(システム条件)にもとづいて機能しているのかを理解する

②成功レベル
このシステムの中で、自社の成功とは何なのかを考え、「システム条件」に合致するビジョンを描く

③戦略レベル
バックキャスティングに、ビジョンを実現して成功するための戦略を立てる

④行動レベル
戦略に基づき具体的なアクションを起こす

⑤ツールレベル
進捗をモニタリングし、改善につなげるために、既存のツールを活用する。必要であれば新たなツールを開発する。

Future-Fitは、この5レベルシステムに基づき、地球システムレベルの成功の原則を踏まえながら(上記①②)、持続可能な発展をするためのツール(上記⑤)として綿密な計画づくりと具体的なアクションを起こす(上記③④)のに役に立つものです。

リッチさんは「このツールさえ正しく理解して経営で使えば、将来に適合する、持続可能な組織になれる!」と断言しています。それは、Future-Fitが地球環境のシステム条件を踏まえ、持続可能な将来における成功の条件を達成するような指標として設計されているからです。

 今回は、未来に適合する企業となるための最新ベンチマークツール、Future-Fitの前提となる考え方をご紹介しました。次回も引き続き、このテーマでご紹介します。


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山田有佳
京都大学総合人間学部、同大学院人間・環境学研究科修士課程修了。専攻は文化人類学、クロアチアで戦災からの街の復興をテーマにフィールドワークを行う。 株式会社ビジネスコンサルタント入社後、企画営業、営業マネジャーを11年。現在はサスティナブル経営を目指す企業やそこで働く人たちに向けた情報発信や能力開発プログラムの開発を担当。サスティナブルな選択をするビジネスパーソンが一人でも増えることを目指している。