みなさんは旅行に行く時、どのように計画を立てますか?私としてはぶらりと行き先も決めず出たところ勝負のような形で旅をするのも憧れますが、家族や知人と一緒に旅行するなら行き先を決めてから準備に取りかかります。例えば今年、少し遅めの夏休みをとって、9月に岡山を旅しましたが、最初に目的を決めました。日本の歴史と文化を楽しむ旅にしよう!そして、兵庫県出身の私には身近な県だけれど、しっかりと観光したことのない岡山にターゲットを定め、天気予報や観光情報をWebでチェックしながら支度をしました。

30年後の未来の計画の立て方

それでは、今から30年後にはどんな旅をしたいでしょうか?考えてみたことはありますか?
私は中学生の時から憧れている旅の仕方があることを思い出しました。それは暮らすように旅するというものです。さまざまな国の文化や暮らしを楽しみたいと考えた当時の私は「最低12カ月間はその地で暮らすように旅する」という夢を持ったのです。『南仏プロバンスの12カ月』(河出出版)を読んで同じ土地でも12カ月間さまざまな情景があり、暮らしがあることに気づき、そう決めたのです。しかし、せっかくワクワクするような夢なのに、何かきっかけがないと、思い出せません。

それはどうしてでしょうか?それは具体的に未来像が設定されていなかったからかもしれません。

何歳からスタートさせるのか?(時期)

具体的に何か所で暮らすつもりなのか?(期間)

実現させるために足りないものは何か?(資金・知識・語学力・体力)

具体的に考えるといろいろなことが見えてきます。仕事でお金を得て、それをもとに旅をするのですがそれだけでは賄えないでしょう。ですから、いろんな国を1年ごとに渡り歩いても稼げる仕事をするスキルを身につけなければなりません。そして、同じ場所に1年間過ごすわけですから、ご近所の方とコミュニケーションをとる語学力がないと楽しめません。そして、なによりこの旅を実行に移すにはなによりその時に健康体でないといけません。そして、いつからスタートさせるのか区切りを付けておかないといつまで経っても「ただの夢」で終わってしまいます。具体的に考えれば考えるほど、今やっておかなくてはならないことが明確になります。ただただ無為に日々を過ごしていて、「気が付いたら異国の地で12カ月暮らす生活ができている!」とはならないですよね。

近い将来の計画に適したフォアキャスティング

私は、旅の計画と準備はビジネスと同じだと考えています。フォアキャスティング

岡山に旅したようにある程度見えている近い将来、どのような目標でどのような戦略でビジネスをするのかは考えやすいですね。確実ではないですが、将来に対する天気予報のように社会や技術の変化も日々ニュースで流れてきます。現在と将来とのギャップも分かりやすく、それを埋めるべく1つ1つ問題解決していけばよいのです。旅を例にすると、予算と旅の目的を考えて、どこの宿に泊まるのか、どんな交通手段で行くか、靴や服装、雨具などどんな準備をすればよいかなどです。これを経営の言葉で「フォアキャスティング(Forecasting)」と言います。今よりも品質を向上させたいとか、売上をいくら伸ばしたいといった、何に手を付けたらよいか分かりやすい改善策を考えるのに向いた思考法です。

遠い将来の計画に必要なバックキャスティング

一方、30年後など遠い将来(未来)を考えて、その時にどんな風バクキャスティングに成功しているのかを具体的に記述し、現状との違いを直視し、創造的にどんな道を歩むのかロードマップを描いて実現させていくことを「バックキャスティング(Backcasting)」と言います。
30年後の未来の旅と同じです。未来に軸足を置いて、ありたい姿をより具体的に描けば描くほど、今の延長線上にはないと理解できます。例えば、30年後の旅先の様子、自分自身に起こることを想像してみてください。いったいどのような気候になっていて、どのような人々との暮らしが待ち受けているのか、そして自分はいったいどうなっているのか今の延長線上ではないことだけは確かです。
このような複雑性の高い状況の中でどのような姿でありたいかを先に設定するバックキャスティングで物事を考えると現在の活動をドラスチックに変えていくことができます。

バックキャスティングをすると経営にはどんなメリットが?

それでは、バックキャスティングで未来を考え、事業の転換を成功させた企業の事例をご紹介します。それはスウェーデンの企業「オーラライト」です。オーラライトはこの10年間で電球製造会社からライティング・ソリューション・カンパニーへと変貌を遂げました。この改革はハーバード大学のケースにもなっていて、「眠れるスカンジナビア企業から、照明ソリューション・プロバイダーとしてダイナミックなヨーロッパ企業への転換」と表現されています。それを成功に導いたのが2007年から約10年間CEOを務めたMartin Malmrosさんです。

Martinさんから聞いた話をもとにバックキャスティングの効用をご紹介したいと思います。

成長が見込める中で、将来に必要な変革を起こすために

【オーラライトのミッション】
オーラライトは法人に対しサスティナブルな照明のソリューションデザインを提供し、コスト、エネルギー消費、環境負荷を低減するサポートをします

【ビジョン】
法人のお客様にとってサスティナブルな照明ソリューションを提供する、グローバルなパートナーになる

 オーラライトは、今はこのようなミッションとビジョンを掲げて活動していますが、2007年までは北欧を営業エリアとする電球製造販売会社でした。フィリップスやオスラムという2社がシェア8割を握るヨーロッパにおいて、同社はロングライフ製品を作ることで差別化を図ってきました。ロングライフの照明はメンテナンスコストが低く、省エネルギーという点で法人顧客には強みとなっていたそうで、ゆるやかながら順調に売上を伸ばしていました。

大半の経営陣はこのまま発光ダイオード(LED)などの技術革新を取り入れながら企業経営をしていけば安定成長が見込めると考えていたそうです。照明のマーケットは建設ラッシュが続くアジアの成長が著しい一方で、ヨーロッパは新築物件の建設は少なく、付け替え需要がメインでした。それでも業界規模は、2013年には30億€、2016年には40億€へと成長が予想されていたので、北欧だけでなくヨーロッパのマーケットを開拓すれば売上が伸びるのは明らかでした。

しかしMartin2007年にCEOに就任した時、こんな風に思ったそうです。「このまま電球の製造販売を続けていては将来的には儲からない事業になることは明白だ」。

電気代の節約のためにも旧式の照明はLEDにとって代わられ、その価格ダウンとマーケットへの浸透は思った以上に速いのではと考えていたのです。しかし、現経営陣とはまだその危機感を共有できずにいたそうです。

このストーリー、日本のさまざまな業界にもそのまま当てはまりそうだと思いませんか。次回からはMartinが取り組んだ経営改革の内容をご紹介し、バックキャスティングと経営についての理解を深めていきたいと思います。

バックキャスティング経営のはじめ方_②今と将来のバランスを取る


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