2020年6月に開催されたATDバーチャルカンファレンスでの学びから、ストーリーテリングについてお伝えします。

今回取り上げるのは、Nancy DuarteさんとPatti Sanchezさんによるキーノート、「Influencing Through Story(ストーリーを通した影響力)」です。ストーリーテリングがなぜいま必要なのか、またいつ、どのようにリーダーが活用すべきか、分かりやすく、鮮やかにプレゼンされました。

Nancyさん率いるデュアルテ社は、アル・ゴア氏のドキュメンタリー映画『不都合な真実』のプレゼンを制作したことで知られる、シリコンバレーでトップのコミュニケーション会社です。(アル・ゴア氏はこの映画をきっかけに、ノーベル平和賞を受賞しました)

ストーリーテリングは以前から注目されていましたが、COVID-19による新たな時代が始まった現在、極めて重要なスキルだと認識が高まっているようです。

「ロジカルな説明」だけでは人はワクワクしない

Nancyさんはストーリーテリングのパワーを次のように表現されています。

「造船スタッフを動機付けするには、細かなタスクの説明するのではく、海原の無限の可能性について熱く語るのが1番であるように、何をどう語るかで世界を変えることが可能なのです。」

ビジネスの世界では論理的思考が求められ、いかに論理的に話をするかが大事だとされてきました。報連相といった基本的なコミュニケーションに必須のスキルとして、新入社員の頃からロジカルシンキングやロジカルコミュニケーションを学習します。その方が上司や顧客とのストレスないやり取りが可能となり、業務をスムーズに行えるメリットがあるからです。企業や部門の目標実現のための戦略や戦術などもロジカルであることが大事な場合が多いです。

ですが、組織運営上のコミュニケーションや顧客へのプレゼンテーションはそれだけでよいのでしょうか?「論理的である」ことでそぎ落とされてしまった側面があるように思います。どれほど論理をつくしてプレゼン資料を作って的確に話をしても、なかなか相手に共感されず、歯がゆい思いをしたことはありませんか?「理屈は分るんだけどね・・・」と。この「・・・」に含まれるのは「なんだかワクワクしないな」「心が動かないんだよな」いったような言葉が入るのかもしれません。

論理的で完ぺきと思われるプレゼンでも、具体的なイメージや感情が抜け落ちているのでは、心に届きません。ありありと、情景が浮かぶようなストーリーを活用することで、脳が刺激され体験が自分のことのように感じるといった影響を与えることになります。語り手の話を追体験することでより深いつながりができ、それによって“ヒト”を動かすことが可能になるのです。

ストーリーの力は、脳に届く

Nancyさんが紹介してくださった脳科学的観点からも、ストーリーのパワーがわかります。

・物語を聞くと脳内神経細胞が刺激され、記憶力・認識力が高まり、感覚と感情が研ぎ澄まされる。だから物語調で聞いたことは頭に残ります。
・物語の発信者と受信者の間で、脳内神経のシンクロ(ニューロ・カップリング)が起こり、お互いの思考・感情がシンクロし始めます。

それによって、
発信者と受信者の間の距離が縮まる
⇒新たな物の見方や考え方が手に入る
⇒相手・組織への思いやりが強まる
⇒アクションを起こす
という連鎖が引き起こされます。

ストーリーは人々に語りかけ、繋がり、そして人々に夢を見させ、その夢を実現させる力を秘めています。だからこそ、ストーリーテリングは変革を可能にする必要不可欠なソフトスキルとして、ATDでも紹介されているのだと分かります。

ストーリーは元来、私たちにとって身近なツール

「変革を可能にするツール・・・」と聞くと、少し難しそうに感じますがストーリーは神話や伝承など、歴史や文化、行動様式、価値観の共有のために古来から使われてきた身近なものです。

例えば、私は幼い頃に“サンタクロース”を信じていました。あのふくよかで、真っ白なもじゃもじゃ髭のおじいさんが架空の人物だと気づいたのは小学校に入ってからです。気づく前の私は「いい子にしていると、サンタクロースさんがプレゼントをくれる」という物語を信じていました。どこか遠くの国で私たちを見守っているサンタさんに“よいこ”の自分をみせようとクリスマス近くになるとそわそわと行動を変えていました。もちろん、プレゼントという見返りを期待してのことです。それでも、「どこかで誰かに自分の行いは見られている」ということや「善い行いには得がある」といった価値観をこの物語の参加者になることで身につけていったのです。そして、それが虚構と分かっていながらも、親になったらまた子供とともにこの物語に参加するのです。それは、この物語には人に伝えたい何か、共有したい何かを、わかりやすく伝える力があるからです。

ご家庭によって様々だと思いますがサンタクロースに限らず、物語で価値観が共有されたり、行動が促進されていたりした経験がみなさんにもあるのではないでしょうか?

世界のみんなを惹きつけるストーリーに共通する、ある構造とは

私たちが惹きつけられる、映画や漫画、小説などのストーリーには共通した構造があります。簡単にいってしまうと、困難を乗り越え、成長していくストーリーです。
世代によって影響をうけた漫画や映画はそれぞれでしょうが、私の世代はなんといっても「ドラゴンボール」です。みなさんの好きなワクワクするストーリーを思い浮かべてください。

その多くに共通している構造は次のようなものです。

(1)「セパレーション」(分離・旅立ち)

主人公は日常世界から危険を冒して、人為の遠く及ばない非日常の世界に出発します。進んで冒険へ出発するというよりも、事故や事件、災害がおこり家族や育ての親を亡くしてしまうなど日常にはいられない出来事が起こり、冒険の旅へ嫌々ながら出発することになります。

(2)「イニシエーション」(通過儀礼)

出掛けた非日常の世界では超人的な力に遭遇し、あれこれ大変な経験し成長します。
この過程で、メンターとなるような師匠と出会ったり、味方を得たりしながら、様々な試練を乗り越え、見える世界、出来ることを広げていきます。そして、最後に最大の試練が待ち受け、一度は死にかけるものの再生し、勝利を手中におさめます。

(3)「リターン」(帰還)

主人公は恩恵や力を得て、仲間と分かち合い、不思議な冒険から日常に帰還します。

この構造をつきとめたのは神話学者で『神話の力』の著者ジョゼフ・キャンベルです。彼の授業を受けたジョージ・ルーカスはとても感動し、その英雄伝説の基本構造を『スター・ウォーズ』3部作にそっくりそのまま適用して大成功を収めたことは有名です。

こういった、日常から離れたところに行くことを余儀なくされ、そこで起こる困難を乗り越え、力を手に入れ、日常に戻っていくといったストーリーは、COVID-19や自然災害などにさいなむ人々を勇気づけるパワーがあります。これまでの歴史を思い浮かべると、様々な困難に遭遇しながらも、人類はその都度克服しながら立ち上がってきました。そういった過去のストーリーがテレビなどで取り上げられたり、書籍で読むなどして私たちは困難の中での過ごし方を学び、新しい日常を思い描く力を得たように思います。

論理的な「説明」とは異なり、ストーリーには情緒的・感覚的描写が加わることで、聞き手が物語の中にある真理に気づき、考え、自ら行動することを促す力があります。

次回からは、リーダーがどのようにストリーテ―リングを活用すべきか、その具体的なパターンや方法をご紹介します。

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