2017年、様々な国・自治体が、内燃エンジン車からゼロ・エミッション車への移行を促す方針を発表しました。オランダ、ノルウェーは2025年、インドは2030年、イギリス・フランスは2040年にガソリン車・ディーゼル車の国内販売を禁止する(ゼロもしくは低エミッションの新車しか販売できない)政策を打ち出し、中国も新たな排ガス規制を設けることとしました。

この背景には、パリ協定の「世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも摂氏2度高い水準を十分に下回るものに抑えること」という目標(「2度目標」)があります。この目標を達成するためには,輸送部門の電化が重要課題とされています。

世界のEVマーケットの現状

(国際エネルギー機関(IEA)”Global EV Outlook2017”より抜粋)

世界に目を向けると、ご存じのとおり世界で最もEVが売れているのは中国、次が米国です。この2国は人口も多く、自動車の販売台数自体が世界1位、2位のマーケットなのでさほど驚かされる結果ではりません。
注目したいのはEV販売台数3位のノルウェーです。同国は、いち早く内燃エンジン車からの脱却を表明した国の中で、最も具体的な取組みが進んでいます。人口500万人の国ですが、EVの販売台数は62,170台(EVとPHEVの合計)で、新車販売におけるマーケットシェアは39.2%(2017年、※1)、すでにディーゼル車を上回っています。
同じ2017年、日本でのEV販売台数は55,945台(※2)でした。トヨタプリウスのプラグインタイプ、日産リーフの新型車投入で、2016年の22,375台と比較すれば大幅な伸びですが、マーケットシェアはやっと1%を超えた段階です。

 そのノルウェーの中でもEV化の進展が目覚ましいのが首都オスロ市です。オスロ市では、すでにEVPHEVの新車販売におけるシェアが50%を超えました。しかも、この変化はここ56年で起こっています。社会の変化をこんなハイスピードで進められる背景には何があるのでしょうか?

  201711月と20183月、ノルウェーEV協会とオスロ市役所のEV推進担当部門にてお話をお伺いしました。ノルウェーEV協会は、同国でのEV導入を20年以上にわたり推進してきたNPO団体です。オスロ市役所では街づくりを推進する部署が、EV普及の促進も担っています。

なぜノルウェーでEVなのか?

オスロ市は「2030年までにカーボンニュートラルを達成する」という野心的目標を掲げています。その過程では2020年までにCO2削減を50%、2030年には95%削減(対1990年比)進めるとしています。そのため、同市のCO2排出量の約6割を占める交通分野への対策に力が入れています。個人の所有する自家用車のEV化の推進とともに、公共交通機関の充実や、そのゼロエミッションにも取組みをはじめています。

ノルウェーEV協会

「オスロ市では、CO₂の排出量削減で野心的な目標を掲げていたということがEV拡大の大きな理由です。さらに、特に冬の間の大気汚染が問題でした。そこでガソリン車の使用を控えたいと考えました。もちろん騒音の問題もあったのですが、一番重要なのは、CO₂削減と大気汚染の改善で、EV化はこの2つの問題を解決してくれます。」(ノルウェーEV協会シニアアドバイザー エリック・ローレンセン氏)

これは北欧ならではの事情ですが、地形と気候を要因として、ディーゼル車の排気ガスによる大気汚染が冬季に悪化するのだそうです。

オスロ市

「最近では、問題はオスロ市のローカルな環境問題へと関心が移っています。SO2NO2PM2.5などは健康に悪影響をもたらします。10代の若者たちによりきれいな空気を、ここに暮らす人々により健康的な環境をもたらしたいと考えており、それこそ私たちがEV化に取組む基本的な理由です」(オスロ市都市開発部門EV担当 プロジェクトリーダー ストゥーレ・ポルトヴィック氏)

実はオスロ市では、1990年代からEVに対する優遇策を実施しています。どういった優遇策にどんな効果があったのか、そして、なぜ近年これほど急速に普及しているのかをひも解いていきたいと思います。

EV普及を促す効果的な優遇政策とインフラ整備

「誰もが、ここまで急速にEV化が進んだことに驚くでしょう。56年前には全く想像できないことでした。しかし、人々は優遇政策(インセンティブ)に反応し、EVを選好するようになったのです。」(ローレンセン氏)

ノルウェーでは、EV化を推進しようとした時、人びとに「EVが正しい選択だ」と思ってもらえるよう、次の3つのことを考えたそうです。

『安く買える、安く使える、便利に使える』

 インセンティブ①安く買える

ノルウェーでは、EVは車種によってはエンジン車よりも購入価格が安くなります。なぜかというとエンジン車にかかる高い付加価値税(25%)と購入税(1台あたり最高1万€、約130万円)が、EVでは免除・軽減されるからです。日本との比較ではありませんが、隣国スウェーデンと比較しても、ノルウェー国内でEVを取得するコストが極めて低いことが分かります。

ノルウェーEVと内燃エンジン車の価格比較

(オスロ市役所プレゼン資料より抜粋)

テスラモデルSの場合、ノルウェーでは63,000ユーロと、スウェーデンで購入するより17,000ユーロも安価に取得できます。そして内燃エンジン車(ここではシボレーのカマロ)の場合、ノルウェーでは3倍以上の取得費用です。

インセンティブ②安く使える

しかし、購入時に安くなったとしても、車は維持費のかかるもの。そのため使う時の優遇策もたくさん用意されています。

・高速道路・トンネル・フェリーの料金無料化
・ラッシュアワーでの優先レーンの走行
・無料の充電
・駐車スペースと料金の優遇
・道路税の免税、法人が所有する自動車税の軽減

 ルウェーはフィヨルド地形が多くを占めるため、トンネルやフェリー料金というのがかなり高額になるそうです。EVの新車購入時に特別なカードキーが発行され、指定の充電スポットであれば費用を払うことなく充電が可能です。駐車スペースは、オスロ市では核シェルターや市が所有する古い建物をリノベーションして、EV専用駐車場を作っています。
この中で最も人気のあった優遇策は、ラッシュアワー時に優先レーン(バス・タクシー専用レーン)が走行できる、というものでした。これは金銭面というよりは、毎日の通勤時間を1時間も短縮できるということで人気が出ました。 

インセンティブ③便利に使える

 EVの利便性を決めるのは何と言っても充電です。ノルウェーは、国内全長7,500kmの主要道路には50kmごとに高速充電スポットを設置しようとしています。現在すでに国内には約10,000箇所の充電スポットがあります(内高速充電が約2,000箇所)。この整備はEV普及の根幹にあるものとして民間企業に委託して急ピッチで進められています。ノルウェーかつてのEV充電2008年頃は、家の前の路上の駐車場に止めたEVに、家の中から電気コードを引っ張って充電する…という光景も見られましたが、現在ではEV専用駐車場やEVを充電しながら食事やショッピングが楽しめる店舗の拡大などが進んでいます。
ノルウェー現在のEV充電

これら3本柱の優遇政策が機能して、ノルウェーにおけるEVPHEVの新車販売に占めるシェアはこのように急速に伸びています(※3)。

ノルウェーにおけるEV&PHEVのマーケットシェア

ノルウェーにおけるEV&PHEVのマーケットシェア

他の国々におけるシェアが未だ1ケタ台であることを考えると、ノルウェー市場の独自性が際立っています。
次回はノルウェーでEVの普及が急速に進む理由をさらに深堀していきます。

※1と3参照元EUROPEAN ALTERNATIVE FUELS OBSERVATORY URL: http://www.eafo.eu/content/norway#country_pev_sales_vols_graph_anchor

※2参照元: EV Sales URLhttp://ev-sales.blogspot.jp/search/label/Japan

※記載のない本文中の画像は、オスロ市役所プレゼン資料より引用

経済的インセンティブを効果的に機能させながら環境問題の解決を進めるノルウェーのアプローチからは、学ぶべき観点がたくさんありそうです!環境と経済の関係についてもう少し知りたいという方にはこちらのeBookがお勧めです。
旭硝子財団旭硝子財団の活動

 

山田有佳

京都大学総合人間学部、同大学院人間・環境学研究科修士課程修了。専攻は文化人類学、クロアチアで戦災からの街の復興をテーマにフィールドワークを行う。
株式会社ビジネスコンサルタント入社後、企画営業、営業マネジャーを11年。現在はサスティナブル経営を目指す企業やそこで働く人たちに向けた情報発信や能力開発プログラムの開発を担当。サスティナブルな選択をするビジネスパーソンが一人でも増えることを目指している。