ウェルビーイングが注目される理由、背景にはSDGsとの関係も

近頃、ビジネスや経営のキーワードとして「ウェルビーイング(Well-being)」という言葉を、新聞や雑誌、さまざまなイベントで頻繁に見聞きするようになりました。
2025年に開催される大阪万博のテーマは「命輝く未来社会のデザイン」です。大阪万博では、SDGsに続く目標としてウェルビーイングを取り上げています。このテーマには、誰もがその人らしく生きられる「いのち輝く」社会の在り方のデザインを追求すべきという意味が込められています。日本社会としてSDGs達成+beyondに向けた取り組みを加速していこうという流れがあることも、経営者やビジネスの世界で注目される理由の1つではないでしょうか。
また、ポジティブ心理学の研究から、ウェルビーイングが個人や組織のパフォーマンスに関係してくることもわかってきており、これに注目する経営者も多くいるでしょう。個人のウェルビーイングが高まると、働く人が健康になり、欠勤が減少します。モチベーションは高まり、創造性が促進され、良好な人間関係が築け、離職率が低下すると証明されており、結果的に企業の生産性や収益性を高めることに繋がるというものです。直接的にビジネスの収益をあげるものではないけれど、回りまわって働く人も幸せになり、ビジネスも成功に向かうならば、当然ウェルビーイングは投資の対象となるはずです。

ウェルビーイングの意味とは

ところで、この「ウェルビーイング(Well-being)」とは、いったいどういう意味なのでしょうか?日本語にはピッタリあう訳語がないと言われています。日本語に訳す際「健康」や「幸福」「福祉」といった言葉があてはめられることが多いようですが、これらのうち一つだけではウェルビーイングの多義的な意味合いが十分に表現されず、大切な要素が抜けて落ちてしまいます。さらに、「健康」の概念は、単に病気でない、病弱でないという意味だけにとどまりません。世界保健機構(WHO)が定義するように、「肉体的、精神的、社会的に良好な状態」と幅広い意味が包含され、それが満たされている状態をいいます。
また、「幸福」という概念も、ハピネス(Happiness)で表現される、束の間の幸せという意味だけではありません。ポジティブ心理学の提唱者の一人であるペンシルベニア大学のマーティン・セリグマン博士の定義、パーマ(PERMA)がより深く幸福を捉えているように思います。パーマ(PERMA)は次の言葉の頭文字をつなげた造語です。

Positive emotion:ポジティブ感情
Engagement:エンゲージメント
Relationship:関係性
Meaning:意味・意義
Accomplishment:達成

人生においてポジティブな感情を感じられることを経験していたり、打ち込める何かがあったり、信頼できる人の存在や、生きていることの意味や意義を感じることができたり、達成感を楽しめたといった心理的に充足した状態を意味しています。つまりウェルビーイングとは、人間としてさまざまな側面でwell(良い)、being(状態)であるということを表している言葉です。

測定方法で分ける:客観的ウェルビーイングと主観的ウェルビーイング

このウェルビーイングを経営として扱う意味は冒頭にも述べた通り、結果的に生産性があがったり、ビジネスの成功や組織の永続性につながることにあります。
それでは、ウェルビーイングはどのように測定し、マネジメントしていけば良いのでしょうか?
ウェルビーイングを測定し、数値化する方法は「誰が測定するか」「何を測定するか」により2つに大別されます。1つは客観的な指標でウェルビーイングを測定する方法、もう1つは主観的なウェルビーイングを測定する方法です。

◆客観的ウェルビーイング

生理学的指標(脳波,コルチゾールなど)や収入、仕事、教育水準などの社会・経済的指標といった客観的に評価された指標。

個人の意識とは独立に測定することが可能で、記憶や気分の影響を受けない。

◆主観的ウェルビーイング

個人の意識(「幸福」への認知・感情)の自己評価。人生への満足度、ポジティブ感情・ネガティブ感情のバランスを、本人が評価する。

現在、注目されているのは主観的ウェルビーイングを測定しマネジメントすることです。1970年代には、所得水準と幸福度が必ずしも相関しないという「幸福のパラドクス」が指摘されています。それ以降、経済学や心理学の分野で幸福度研究が活発になりました。そして、2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンらの研究では、年収が75,000ドルに達するまでは年収が増えると幸福度が上昇するものの、それを超えたあとは幸福度が比例して上昇することはないことが証明されたのです。つまり、ある一定の収入が得られている場合、経済的指標によって、個人の自覚する幸福度は測れないということになります。そこで、幸福に対する主観的認知度に注目が集まるようになり、それをどう測定し、向上のための働きかけができるのかの探求が始まりました。

ウェルビーイングを経営に取り入れるなら、より着目すべきは主観的ウェルビーイング

現状、さまざまなウェルビーイングの調査は世界中にありますが、唯一これが正しいというものは存在していません。日本でも人的資本経営に注目があつまり、成長戦略にあわせて非財務的な側面の情報開示の機運が高まっているなか、ウェルビーイングをそれぞれの企業組織がどう定義し、測定し、マネジメントするかと考えざるをえない状況になっています。それぞれの業界や企業を取り巻く環境や、それぞれが持っている人的資源の状況、組織の風土や戦略などによって、何その組織にとってのウェルビーイングなのかは違ってくるはずです。今、私たちが探求するべきなのは、自分たちの組織で働く人々の主観的ウェルビーイングはいったいどんな項目で構成されるのか、そして、それを向上させるためにどんな働きかけができるのかということではないでしょうか。

次回の記事では、私たちが取り組んだ、自分たちの組織のウェルビーイングを、自分たちで指標化し、測定し、改善につなげる取り組みをご紹介します。

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