朝晩ぐっと冷え込むようになりました。暦を見ると、「寒露」と言い、露が冷気によって凍りそうになる季節を迎えているということが分かりました。我が家では夏場はシャワーを使う事が多いのですが、寒くなるとお風呂の割合が多くなります。身体のコリをほぐし、芯から暖まるためにもお風呂は欠かせません。
しかしひとつ問題があります。
我が家は築30年以上の古いマンションなのですが、追い炊き機能がないのです。家族のお風呂タイムがバラバラだと、その都度熱いお湯を継ぎ足さなければなりません。非経済的な上に水の無駄使いをしているな、と罪悪感にさいなまれながらお風呂タイムを過ごしています。
後ろめたさに押されて、水のことを調べてみました
年間降雨量で見ると、インドネシア、フィリピンに続いて日本は世界で3番目に雨が多い国です。それにもかかわらず日本は国土の4分の3が山岳地帯と言う特殊な地形のため、降った雨は短い時間で海に流れ出し、使える水は決して多くはありませんでした。
昔の日本人は、森や田んぼを活かした貯水機能を活かしながら自然と折り合いをつけて生活してきました。世界規模で見てみると19世紀の産業革命以降、灌漑(かんがい)施設、水道、ダム、川の付け替え(川を利用しやすくするために、川の流れを人為的に変えること)、海水淡水化など大規模な土木工事が実施されたおかげで、清潔な暮らしや豊富な食料、工業用水を確保することができるようになりました。
しかし、現在世界中で土地の改造や森林伐採、地下水の枯渇が進行し地球が本来持ちあわせている水循環機能がうまく回らなくなってきています。2003年に国連で出された予測では、2025年には世界人口の約半数が水需給に行き詰った状態に陥る、としていました。
水を確保する、そのための「逆転の発想」
では、必要な水はどうやって確保できるのでしょうか?ひとりひとりが節水を心がければ良いのでしょうか?
カナダやアメリカの科学者が提唱する、「ウォーターソフトパス」という概念はこの発想を逆転させます。これは将来の望ましい生態系が必要とする水を確保し、残りで暮らすためにはどうしたら良いかをバックキャスティングする考え方です。
例えば日本人が一日に使う水の総量は200から300リットルです。目的別にみると飲用や食事に必要な水の量は3割、残り7割はトイレ、洗濯、シャワーやお風呂などの衛生目的で使われています。
従来は使用量を減らすために節水型トイレや、節水型シャワーヘッドを使っていました。
これらは比較的簡単な方法ですが、「水の効率的な使用」という短期的で単純な対策にすぎません。「使う水の量を少なくしよう」とするためだけの対策であって、「そもそも、その行動において水は必要か?」というところまで踏み込んでいないのです。
それに対して、ウォーターソフトパスでは、「どのようにして水の使用量を減らすか」という発想から「なぜ、その行動に水が必要か」と発想を転換します。「水の効率利用」とともに「水の保全」を促進するという考え方です。
シャワーから得られる便益を衛生目的と設定した場合、
「いかに少ない水で、シャワーを浴びるか」
から
「なぜ身体を清潔に保つために水を使うのか。水を使わずに身体を清潔に保つ方法はないか」
と考えます。
すると、シャワーではなくドライシャンプーを使っても良いし、皮脂や汗を吸い取るTシャツを着用また、お風呂の代わりに、ブースに入るだけで体表面の汗やほこりを吸い取りついでに好みの香りをつけてくれるカプセルサウナなどがあれば良い、と考える人もいるかも知れません。
ウォーターソフトパスの特徴は、「水は、最終的な目的を達成するための手段である」と考えることにあります。飲料水に限り、水は「最終目的」ですが、多くの場合において水は、体を清潔に保ったり、排せつ物を除去したり、冷却したり、植物の成長促進をしたりするなどのように、「最終目的」のための手段です。
シャワーを使うときは、水を浴びることではなく、体を清潔に保つことを目的とします。トイレの水を流す時に、水を流すことが目的ではなく、排せつ物の除去を目的とします。
このような考えを取ることでバイオトイレの技術が生まれました。これは、水を使わずに、排せつ物の処理という「最終目的」を達成できる技術です。
「目的」から対策を考えることによって、「未来の展望」が見えやすくなる
目的は何か、なぜそれが必要か、他に方法がないのか、を探究していくことで「〇〇がないとやっていけない」という固定観念から自由になれます。
新しい発想や技術を取り入れつつ、世の中の習慣も変わっていくかもしれません。人間の快適さを犠牲にすることなく、水資源の保全も両立させるようなイノベイティブな商品やサービスが今後続々と出てきそうですね。
いかがでしたでしょうか。持続可能性への取り組みがイノベーションを生み出すことを、水資源の問題から考えてみました。サステナビリティとイノベーションがなぜ結びつくのか、フレームワークでより詳しく理解したいという方のための資料をご用意しています。スウェーデン出身、サステナビリティの理論化であり実践家として著名なカール=ヘンリック・ロベール博士らの考え方などを分かりやすくご案内しています。
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西南学院大学にて文化人類学を学ぶ。外資系人材ビジネスに13年勤務した後、カリフォルニア大学アーバイン校留学を経て2013年株式会社ビジネスコンサルタントに中途入社。プログラム開発のための探索活動や、サステナビリティコンテンツや診断ツールの翻訳プロジェクトマネジメントを担当。プロセスワークを学び、アート・オブ・ホスティング&ハーベスティング実践者としてオンライン・オフラインでの対話の場のサポートを行っている。