今回はサステナブル経営を推進している株式会社ビジネスコンサルタントがその実践者3名を招いて開催したセミナー(「サステナブル経営で競争優位を築く 『サステナブル経営の実践』」:2015年10月15日・17日)の講演内容から、数回に渡ってポイントとなる点をご紹介していきます。

前回までの記事では、お一人目の登壇者ザ・ナチュラル・ステップ、スウェーデン支部代表のカーリン・シュルツ氏が教えて下さった「サステナビリティを組織で考えるためのチェックリスト」をご紹介しました。
①カール・ヘンリック・ロベール博士の「持続可能性原則」
②ボブ・ウィラードの「サステナビリティのはしご」インゲルさん

今回は、サステナビリティを経営の中心に据えた企業、つまり「サステナビリティのはしご」の5段階目を快走中のスカンディックホテルの事例です。

企業が持続可能性原則をどのように運用しているのかを、お二人目の登壇者インゲル・マットソン氏(スカンディックホテル サステナビリティディレクター)の講演内容を元にご紹介していきます。

スカンディックホテルはスウェーデンに本社を持ち、北欧とドイツ、ポーランド等のヨーロッパ諸国にも展開している中流層むけのホテルチェーンです。人口2,500万人の北欧で年間1,200万人が滞在し、従業員は13,500人という北欧のホテルとしては大手の企業です。顧客の滞在目的は6割がビジネス、3割が余暇、そして1割が会議等での利用となっています。

持続可能な未来へ貢献する企業としての認知度は既に高く、スウェーデン消費者に「もっともサステナブルなホテルブランド」に選ばれています。2011年には北欧理事会から「自然と環境負荷への配慮をビジネスに統合した模範的な企業賞」を受賞し、2015年には「世界の責任あるツーリズム賞」の最終選考にノミネートされています。

 サステナビリティを経営に統合するとは、具体的にどういうことなのでしょう。スカンディックホテル・サステナビリティ部のトップであるインゲルさんは、「サステナビリティを、自分のビジネスに合う形で自分ごととして理解すること」「視野を広く、時間軸を長く取ること」という2つのポイントに言及しています。2つの事例について、持続可能性原則の観点からも考えて行きましょう。

【サステナビリティを自分のビジネスに合う形で自分ごととして理解すること】

そもそも論として、サステナビリティに取り組んだ結果、会社が存続できないのでは元も子もありませんから、「サステナビリティが自分のビジネスのどんな側面で役に立つのか」を探さなくてはなりません。

しかし、自分の都合のいいようにサステナビリティの意味を解釈したり、単に環境に優しい企業イメージを打ち出したりするだけでは、本当の意味でサステナビリティに取り組んだことで得られる利益を得ることは出来ません。そのためにはまず、サステナビリティの意味を理解し、それが自分の会社にどう関係しているのかを知り、その上でビジネスを考えて行く必要があります。

例えばスカンディックホテルは、ゲストが快適にすごすために客室を提供する必要があります。

以前リノベーションをする際に、専門家と共にサステナビリティの観点から「望ましい素材」「望ましくない素材」「どちらでもない素材」という3つのリストを作成しました。そして、「望ましい素材」だけで客室のリノベーションが出来ないかどうかを調査して、検討したのです。その際に自然環境についての3つの持続可能性原則を使いました。

具体的には、合成樹脂だった床を木製に変え、できるだけエコラベルのついた製品を使い、省エネ効果の高いテレビを買いました。客室のデザインや装飾も掃除がしやすいかどうかという視点を取り入れ、トイレも節水型のものにしました。 

持続可能性原則にのっとった施策

この具体的なアクションを、主に自然環境の持続可能性原則の観点から見るとどうなるでしょうか。

★自然環境の持続可能性3原則★

3principle

  • 省エネルギーを意識すること

    化石燃料ベースのエネルギー使用を削減することは、一般に地殻鉱物の使用量を減らすので、主に持続可能性原則1の観点から望ましいといえます。仮に再生可能エネルギーであったとしても、省エネルギ2ーを意識することは大切です。その設備やエネルギー原料の運搬等の全てのプロセスが再生可能なエネルギーでまかなわれない限り、持続可能性原則1に違反してしまうことになるからです。

 

  • エコラベルのついた製品を使うこと

レアメタルや化学物質の使用を極力押さえることができます。3そのために、人間が廃棄する地殻鉱物や化学製品・化学薬品の使用量を減らすことで、自然界における蓄積量を減らすので、持続可能性原則1及び2の観点から望ましいといえます。

 

  • 合成樹脂の使用を減らすこと

人間が廃棄する化学製品・化学薬品の使用量を減らすことで、4自然界における蓄積量を減らすことになるので、持持続可能性原則2の観点から望ましいといえます。

 

  • 節水型トイレ

自然資源である水の利用を押さえるため、持続可能性原則3の観点から望ましいといえます。

 

  • 掃除がしやすい

清掃にかかるエネルギー、洗剤等の使用量が押さえられるので省エネの5観点から望ましいといえます。また、従業員の労働環境の改善に役立つので社会システムの持続可能性原則の「人々の健康」の観点から望ましいといえます。

 

この「持続可能性原則」をどの程度守るべきかについては、「テレビの買い替え」についての事例が参考になるかもしれません。

 

新たなマーケットを生み出すサステナビリティ戦略

スカンディックホテルが当時使用していたのは、エコラベルなしのテレビでした。そこで、そのテレビメーカーにこう打診しました。「これから20,000台のテレビを購入する必要があります。でも今のテレビは持続可能性原則に違反している点があります。今度購入するテレビを違反しない形で製造してもらえないでしょうか。」メーカーはこの依頼に応じ、持続可能性原則に違反しない形のテレビを納品しました。

今現在は別のメーカーからテレビを購入しています。もちろん、さらに持続可能性原則の観点からより望ましいテレビです。「持続可能性原則を満たす製品なんてマーケットにないから、サステナビリティは難しい」という声があるのが現実です。ただ、スカンディックホテルのように「サステナビリティの観点から望ましい製品を購入したい」というニーズを声にだすことで、他社も参入してくるほどの新しいマーケットを創出する企業もあるということもまた現実ということです。

後日談ですが、持続可能性原則に則ったこれら一連の「サステナビリティ・リノベーション」は持続可能性に大きく舵を切り、お客様にも好評だったというただけでなく、経営面でも大きくプラスに作用しました。

合成樹脂だった床を木製に変えたことで、床の総入れ替えをする時間軸が長くなり、床を削って美しく保つようになるなど、以前は7年に一度必要だった大規模改修が、現在15年に一度で済むようになったのです。

 では、どのようにサステナビリティに取り組み組織文化を形成していったのか、「視野を広く、時間軸を長く取ること」のポイントを次回のブログでご紹介したいと思います。

「サステナブル経営で競争優位を築く WINセミナーシリーズ】
1.自社のチェックリスト① 持続可能なビジネスか否か-4つの持続可能性原則
2.自社のチェックリスト② 持続可能なビジネスか否か-5つのはしご
3.サステナブル経営実践事例:北欧スカンディックホテル~原則を押さえて自社に合うやり方を追求、収益につなげる~

4.サステナブル経営実践事例:北欧スカンディックホテル~全社員を巻き込み、新たな文化を作る~
5.組織で成果を出すために必要なHuman Energy をどう育てるのか_前編
6.組織で成果を出すために必要なHuman Energy をどう育てるのか_後編
7.サステナブルなビジネスモデルを作るために知っておくべきこと
8.サステナブルが大事になる時代にあるべき経営リーダーシップとは

いかがでしたでしょうか。本記事では、企業の持続可能性原則への挑戦が環境問題と切り離せないことがお分かり頂けたかと思います。 併せてご参考いただけそうなebookを、以下にご紹介します。 地球環境問題の解決に大きく貢献した個人や、組織を顕彰する国際賞「ブループラネット賞」をご存知でしょうか?同賞を創設し、20年以上にわたって表彰し続けている公益社団法人 旭硝子財団では、さまざまな地球環境問題解決に関わる事業を行なっています。同財団事務局長・安田哲朗氏にお話をうかがい、4章にまとめました。是非ダウンロードして、貴社の取り組みにお役立てください。

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