先日、Dialogic Organization Development Conferenceという対話型ODのカンファレンスとAcademy of Managementという経営学の会議に参加するためにカナダのバンクーバーに行きました。
驚いたことに、バンクーバーは、人口1人あたりの鮨屋の数が日本よりも多いそうです。それを聞いて、鮨好きの私は大変にワクワクしていました。しかし、店内を覗いてみると、カリフォルニアロールのようなものがおいてあったりするので、江戸前鮨を期待していた私は「あれ?」と少々拍子抜けしてしまいました。
街を見渡してみると、東洋系の方やインド系の方など本当に多様な方が暮らしているのがわかります。お店もベトナム風、タイ風、和風、オーガニックメニュー中心の食堂などなど、とにかく多種多様なのです。
「バンクーバーは人種も文化も混ざりあいながら作られた、ダイバーシティな街なんだな」と感じました。そして、このような街では、私の好きな「江戸前の鮨」ではないことにがっかりするよりも、その「違い」その「異なる様(さま)」を楽しんだ方がお得だなと感じました。
今回はこのカンファレンスを通して、気づいたことを書いてみたいと思います。
経営学の中心テーマは矛盾?
カンファレンスで頻繁に聞いた単語があります。
contradiction = 矛盾
paradox = パラドクス
duality = 二重性
といった言葉です。
これらを聞いた時に、すぐに思い浮かんだのはマイナスのイメージ、「解消しなければならない、良くない状態」といったことでした。
しかし、カンファレンスでは、このような状態を変革の原動力とするために、どのように「マネジメント」していくかが議論の焦点でした。
「矛盾」を破壊的なものとせずに、むしろそれを包含することで生まれる緊張と衝突から『新しいもの』を生み出そう」というものです。
これを聞いて思い出したのは、地理学者であった故・鈴木秀夫さんの『森林の思考・砂漠の思考』(1978年 NHKブックス刊 )です。
鈴木さんによると、西洋の論理は、「ロゴスの論理」と表現され「善」か「悪」か、常に二者択一を迫られる論理。
一方、東洋の論理は「レンマの論理」と表現され「善」は「悪」があって初めて存在するという考え方で、全てのものは互いに相まって存在しているという考え方だそうです。
カンファレンスで聞いた言葉は、この「レンマの論理」を象徴するもののように感じました。発表者の大半が西洋の大学から来られているなかで、東洋的な考え方を経営にいかそうとする試みを非常に興味深く感じました。
それと同時に、東洋の論理を経営にいかすことに関して、既に日本人である私たちは「実践できているのか?」と疑問に思いました。
日本人は「善か悪か」や「勝った負けた」といったロゴスの論理ではなく、レンマの論理で曖昧さを許容できる民族だといわれることがあります。アンケート調査をすると「どちらでもない」という項目にマルをつける人が多いのもその代表的な例として知られています。
だからといって、本当に矛盾を変革につなげるマネジメントができるかというと、必ずしも直接的には繋がらないようにも思えます。
ヒントは『易経』(Book of Change)にあり!
そこでもう1つ思い浮かんだのは、『易経』などに書かれている陰陽の概念です。『易経』は英語で『Book of Change』と訳される、変化の予測を体系化した中国の古典です。占いの書と勘違いされることも多いのですが、「変化を予測することで、占いをしなくとも身の処し方を知ること」を目的に書かれたものだと私も最近知りました。
陰陽の概念で大事なポイントは、陰と陽は別々のものではないということです。
つまり1つのものに、陰の側面と陽の側面があるという考え方であって、白黒はっきりさせる「ロゴスの論理」とは違うものです。
1人の人間を例にとっても、長所(陽)だけでなく短所(陰)もあるということと同じで「レンマの論理」と同じです。
そして、この陰陽の概念でとても面白いのは、お互いに常に対立しているけれど、別々のものとして独立した形で安定的に固定化しないところです。お互いに混ざり合おうとして、全ての変化を生じさせ、新たな進化につながると『易経』には書かれています。
私自身を振り返ってみると、社内外でコミュニケーションをとる人が固定化されていることに気づきます。意識してというよりも、自然と居心地のよい同質性を求めているのかもしれません。
そして、意見がなかなか一致しなかったり葛藤が生まれたりする異質な人とは、たとえ距離的に近いところにいたとしても、いつの間にか疎遠になってしまいます。そして、一緒に仕事をすることになっても、無難にコトを進めるだけの「コトなかれ」的な行動してしまいます。
これでは「許容」というよりも、「どちらでもいい」「どうでもいい」という態度にすぎず、変化や新しいことを生み出す行動ではないと気づかされます。
「曖昧さ」を受け入れるということ
変化を生み出すための矛盾や二重性の許容というのは、それをわけて扱うことではありません。日常的にコミュニケーションをとる際に起こる「葛藤」や「緊張関係」を扱うことなのです。
そして、これを収めようとしたり丸めようとしたりするのではなく、違いがぶつかることで生み出される新しいアイデアを受け止める準備をしておくことなのではないでしょうか。
「チームビルディングをする時に、チームがどのようなプロセスで成長していくか」ということを心理学者のタックマン※は、4つの状態として表現しています。
1.Forming(形成期)・・・互いをよく知らない時期
2.Storming(混乱期)・・・価値観がぶつかり合う時期
3.Norming(統一期)・・・互いの考えを受容し、関係性が安定する時期
4.Performing(機能期)・・チームの一体感が生まれる時期
「ぶつかり合い」は「葛藤」は、敢えて起こすものでもありませんが、このなかの2.Storming(混乱期)に葛藤が起こりにくくなるケースとして、1.Forming(形成期)に目標を共有していないことがあげられます。
私の経験したあるプロジェクトでは、リーダーもメンバーもそのプロジェクトで何を実現させたいのか目標が明確にならないままスタートしたことがありました。その結果、メンバーそれぞれが好き勝手なことをして、プロジェクトは成果も得られず尻切れトンボで終わったのです。
ですから、組織には、大きな目標を共有することが大切です。その上でどのような変化を起こしていきたいか、どのように進めていきたいかを本気になって対話していくと、価値観がぶつかり合いながらも、おのずと常に進化していける組織になるのではないでしょうか。
※Bruce W. Tuckman(タックマン)は1965年に『Development Sequence in Small Groups』の中で、4段階のモデルを示しました。その後、1977年に『Stages of Small-Group Development Revisited』でモデルに
5.Adjourning:散会を加え、現在では5段階となっています。
「葛藤」「異質なもの同士のぶつかり合い」を成長へとつなげるためのポイント、ご参考になりましたら幸いです。 さて、ブログの中では「違いがぶつかることで生まれる新しい意見を受け止める」ということもメッセージさせて頂きました。そこでもう一つお勧めしたい手法に、「クリエイティブタイプ」診断があります。 「クリエイティブとは何か」に関する視点は人それぞれですが、ここでは6つのクリエイティビティを定義し、あなたの思考プロセスを分析します。 ご興味のある方は下記よりダウンロードし、ご自身の「クリエイティブタイプ」をぜひ診断してみてください。
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東京工業大学大学院 社会理工学研究科 修士課程修了/ 一般社団法人日本ポジティブ心理学協会 理事。
株式会社ビジネスコンサルタントにて営業マネジャー職を担当。その後、同社における顧客組織の組織開発と人材開発への投資効果と投資効率を最大限に高めるための会員制サービスの商品戦略を担当。現在は同社の研究開発マネジャーとして、サステナブル社会の実現のため、ポジティブ心理学やイノベーション理論、自然科学ベースの戦略策定フレームワークに基づく商品開発およびその実践を担当。