ポジティブに物事をとらえることは、失敗をしないことを心掛けるよりも意味があります。それを分かりやすく解説してくれたのが、タル・ベン・シャハー博士です。
彼は「ハーバードの人生を変える授業(2010、大和書房)」の著者であり、ポジティブ心理学の専門家です。彼の講演会で学んだ、大切なエッセンスの一部をご紹介します。
現実を直視することとはどういうことか
セミナー冒頭で、タル・ベン・シャハー博士から会場の参加者の方へ次のような問いかけがありました。
「皆さんは、現実を直視されていますか。ありのままに見ていますか」
そう聞いた時、私はあれやこれやと積み残された職場の課題や、自分の至らない部分を思い浮かべてしまいました。逃げていないで、現実を見なくては……という思いで少し暗い気持ちになりました。
しかし、次の問いかけは
「あなたの『うまくいっていること』は何ですか」
「あなたの組織が『うまくできていること』は何ですか」
というものでした。
……うまくいっていること……
正直に言うと、すぐには思い浮かびませんでした。
そして、博士は次のように問題提起をされました。
「問題点ばかりに目を向けて、その改善ばかりしていませんか?陰と陽の関係と同じで、必ず『うまくいっていないこと』があれば『うまくいっていること』もあるのです。通常、人はうまくいっていることは無視してしまいがちです。それでは、現実を直視しているとは言えません。『うまくいかないところ』を乗り越えていくには、問題に目を向けることはもちろんですが、『うまくいっているところ』にも焦点を当てて全体を見ることが大切なのです」
「うまくいっていること」に焦点を当てるということには、想像以上に大切な意味があるそうです。それは自分の「力点」は何か、何によって自分の「エネルギー」が生まれるのかを知ることになるからだそうです。
ポジティブ心理学の目的は、「うまくいっていないこと」と「うまくいっていること」の橋渡しをすることなのだと理解できました。
皆様の組織でうまくいっていることは何ですか?その強みは活かされていますか?
失敗しないようにすることに意味があるか
「うまくいっていることに注目し、ポジティブに考えること」が、ビジネスの場において、重要な意味をもたらすことを証明した事例があります。
西暦2000年までの約50年間、人や組織に対して「なぜ失敗するのか?」に焦点を当て、「失敗をしなくなる」ことを目的としたプログラムが大量に作られたそうです。
しかし、そのプログラムの効果はどれも「0」だったことが、調査の結果で分かりました。
そこで、ポジティブ心理学者は問いかけの方向を変えてプログラム作りを始めました。
「何がうまくいっているのか?」
「人は何ができるのか?」
「成功した人は何をしているのか?」に注目することにしたのです。
そうすると、失敗から学んでいることが分かったそうです。
では、彼らは具体的にはどのような行動をしたのでしょうか?
失敗から学習し、さらにそれを乗り越えた人たちの行動は、実はとてもシンプルなものだと分かりました。
「自分にとって意味ある目標を立てていた」
「何のために」が分かれば、どのようにしたら良いのかが自ずと見えてきます。つまり、どうやって乗り越えるのかを考えて、実行することができるかどうかで、物事の成功確率は変わってくるということです。
意味のある目標を立てることによって、困難を乗り越え、そして成功を手に入れている現実があるのです。この考え方を組織に応用した事例として、ある航空会社の話をしてくださいました。
顧客の荷物を紛失する率が非常に高い航空会社だったそうです。最初はこの問題に対する改善活動を始めました。
「荷物を紛失しないようにするにはどうしたら良いか?」
毎朝、朝礼でそればかりをみんなで考えるのです。全く楽しくないので、従業員は気持ちが沈んでいきました。さまざまな対策が打たれましたが、なかなか実行されなかったそうです。
結果、紛失率はそれほど変わらないままでした。そこで、次のように方向性を変えた質問に切り替えてみたのです。
「私たちは、どうしたらお客様に最高に満足してもらえるか?」
従業員はその目標をとても大事にし、意義を感じたそうです。それからは、「最高の満足」を提供するための沢山のアイディアが現場から出てきました。
そのなかには、もちろん、「荷物の紛失」を防ぐためのアイディアも入っています。
これは自分たちが意義ある目標を達成するためのアイディアですから、素早く実行されました。
結果として荷物の紛失率は低下し、目標に向かってポジティブに取り組める組織に変化していったそうです。
「問いかけ」を変えて職場を変えるには
皆様にお伝えしたいことは、もっとあるのですが、今回の講演会を聞いて、私が一番感じたことは、「問いかけ」が未来を作るということです。その問いかけとは、大きく分けて2つです。
1.職場で働いている人がどのように現実を見ているか
- うまく出来ていないことだけではなく、
うまく出来ていることにも注目できているか? - エネルギーの源は、「うまく出来ている」
ことの中にあることを気づけているか? - 自分にとって「意味ある目標」を持っているか?
2.目標にしていることに意義を感じられるか
- 職場メンバーが参加したいと思えるビジョンであるか?
- 自分事になるような方法で共有されているか?
簡単なようで、意外とこれを実行に移すのは難しいようです。参加されたお客様からも、実践にどう活かすかアドバイスが欲しいというお声も多く寄せられました。
今まで、「問題」ばかりに注目していた人が、突然「うまくいっていることを考えよう!」としても1人では難しいものです。
また、マネージャーが突然、職場で実践しようとしたら周りの人は不審に思うかもしれません。
そのため、マネジメント手法や職場を変えるときには、外部の力や第三者のサポートが必要になってくるケースも多くみられます。
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東京工業大学大学院 社会理工学研究科 修士課程修了/ 一般社団法人日本ポジティブ心理学協会 理事。
株式会社ビジネスコンサルタントにて営業マネジャー職を担当。その後、同社における顧客組織の組織開発と人材開発への投資効果と投資効率を最大限に高めるための会員制サービスの商品戦略を担当。現在は同社の研究開発マネジャーとして、サステナブル社会の実現のため、ポジティブ心理学やイノベーション理論、自然科学ベースの戦略策定フレームワークに基づく商品開発およびその実践を担当。