先日、友人のオフィスで楽しそうな絵本を見つけました。
『りんごかもしれない』 ヨシタケシンスケ著(2013) ブロンズ新社
テーブルの上にりんごが置いてあるのをみつけた主人公の男の子が、「……でも、……もしかしたら、これはりんごじゃないかもしれない。もしかしたら、大きなサクランボの一部かもしれないし、心があるのかもしれない。実は、宇宙から落ちてきた小さな星なのかもしれない……」。
ここまで行く?と突っ込みたくなるほど、果てしなく想像を広げていくお話しでした。
今回は、2つのバイアスの相乗効果で対立関係に陥っていくプロセスをご紹介しながら、「・・・じゃないかもしれない」と立ち止まって考えてみることの大切さについて感じたことをご紹介します。
こんなに頑張っている自分・・・なの?
先日、道徳心理学の教授からこんな話を聞きました。
MBAの学生に対して、「自分自身のグループへの貢献度合いは何%か?」とアンケートを取ると、グループメンバーの合計は平均139%になるそうです。これは夫婦の家事分担にも当てはまるそうで、夫婦の合計は平均120%以上になるといいます。
実験的に私の配偶者に聞いてみると、自信満々、得意げな顔で「70%」と答えました(笑)。
ここからわかることは、人は、自分の貢献度合いを無意識的に過大評価する傾向にあるということです。
これを「自己奉仕バイアス」というそうです。実は、この「自己奉仕バイアス」が原因で、気づかないうちに、互いに敵意を持ってしまうことがあるようです。
例えば、職場に「自分がとても頑張っている」ことを主張する人がいたとします。この方は、恐らく「他の人よりも自分の方が頑張っているんだから認めて!」という思いを持っているでしょう。
一方、同じ職場の他の人は、このような状況に対して「そんなに頑張ってないのに自己主張が激しいな・・・」と思うかもしれません。
お互いがお互いに、自分よりも相手は頑張っていないと考えている結果です。こうして、何か顕在化した問題があるわけでもなく喧嘩があるわけでもないのに、職場の雰囲気は悪くなり、ギクシャクします。
プライベートでもこのような話は良く聞きます。夫が子育てや家事を少し手伝っただけでも、猛アピールしてくることに妻がうんざりしたり、妻は自分がやっていることを夫に認めてもらえずに、イライラとしたり・・・。
皆さんはいかがでしょうか?
残念ながら、私自身にも思い当たる節があります。もしかすると、身の回りにある対立関係や関係の悪さというのは、誰のせいではもなく、人の性格の悪さの問題でもなく、人の脳が引き起こす「自己奉仕バイアス」に起因しているのかもしれません。
関係を悪くするバイアスのスパイラル
実は、これに輪をかけて自己主張を激しくしてしまうバイアスも存在するのです。それが「確証バイアス」と呼ばれるものです。
自分が信じたいことの証拠ばかり集め、それ以外の事実は目に入らず、記憶に残らないのです。そして、そのバイアスに気づかないまま「私だけは、物事をあるがままに見ている。だから自分の主張は正しいのだ」という感覚に陥ってしまいます。
ある実験では、「自己奉仕バイアス」について学習しても「相手がそのバイアスに陥っているに違いない」と考え、相手が「バイアスに陥っている証拠」を探すばかりで、自分の考えを修正しないという結果もあります。
お互いに自分が正しいと信じて主張をすると、ますます関係の悪化に拍車をかけてしまいます。
本来、集団生活、社会生活の中で生き残る上で進化してきた人間の脳ですが、意外な落とし穴があるのですね。
バイアスを乗り越え、協働するには?
わかっていても陥ってしまうこれらの「バイアス」ですが、これを克服した実験があります。
それは、「バイアスについて勉強する」+「自分の主張の弱点をエッセイにする」ことです。2段階で自分の主張が偏っているかもしれないことを知り、そして考える機会を与えたときに、人は公正に物事を捉え始めたというものです。
このポイントは「自分の主張の弱点をエッセイにする」ところにあります。つまり、自分自身の性格を攻撃されないという安心感があるということです。
自分の考えが自分にとって甘い構造になっている事実を突きつけられると、どうしても「もしかしたら、私って性格が悪いのかな・・」と感じ、そういう自分に目を向けるのが嫌になってしまいます。
しかし、そうではなく、「自分が主張していること」そのものに焦点をあてて、その弱点を分析してみることで、「バイアス」が解消されやすくなるのです。
対立が深まり、感情的になった状態では、なかなか主張を覆すのは難しいので、日頃から「バイアス」があるということを意識し、「私の考えこそが正しい・・ではないかもしれない」とすぐに状況を判断しない練習をすることが、さまざまな対立を回避し、協働するには必要なのかもしれません。
特に「正義」や「道徳」のように、「絶対に正しいんだ!」という主張を掲げる場合、「バイアス」に盲目的になり、一見合理的な論理を強引に展開するケースが多くなるようです。
冒頭の絵本の男の子のように、「りんご」だと思っても、一瞬立ち止まって、「・・・かもしれない」を習慣にしてみると違った関係を構築し、違った結果を出すことができるかもしれません。
効果的な人間関係を築くため、本ブログがご参考になりましたら幸いです。 さて、「・・・かもしれない」の考え方を習慣化するには、クリエイティビティを高めることも必要かもしれません。そこでもう一つお勧めしたい手法に、「クリエイティブタイプ」診断があります。 「クリエイティブとは何か」に関する視点は人それぞれですが、ここでは6つのクリエイティビティを定義し、あなたの思考プロセスを分析します。 ご興味のある方は下記よりダウンロードし、ご自身の「クリエイティブタイプ」をぜひ診断してみてください。
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東京工業大学大学院 社会理工学研究科 修士課程修了/ 一般社団法人日本ポジティブ心理学協会 理事。
株式会社ビジネスコンサルタントにて営業マネジャー職を担当。その後、同社における顧客組織の組織開発と人材開発への投資効果と投資効率を最大限に高めるための会員制サービスの商品戦略を担当。現在は同社の研究開発マネジャーとして、サステナブル社会の実現のため、ポジティブ心理学やイノベーション理論、自然科学ベースの戦略策定フレームワークに基づく商品開発およびその実践を担当。