アート・オブ・ホスティング&ハーベスティングについてご案内するシリーズ3回目をお届けします。
組織に変化を起こそうと思ったら、多くの人の知恵を集める必要があり、それには対話というアプローチが有効であること(第1回)。そしてその知恵を実りあるものとするのに、ハーベスティングという営みが役立ちうること(第2回)を、お伝えしてきました。
今回は、何を意図して対話の場を開くか、何を成果物とするのかをより明瞭にイメージできるよう、アート・オブ・ホスティング&ハーベスティングを企業内で活用した実践例をひとつ、ご紹介します。
「何を意図してその集まりを開くか」は「その集まりで何をハーベストしたいか」と言い換えることができます。このことをもう少し具体的に理解するため、ハーベスティングの種類を確認したあとに、具体例の紹介へと進みます。
ハーベスティングの種類
ハーベスティングの種類は個人か集合か、有形か無形かの2軸4象限で整理することができます。
例えば右上の<有形×集合>の場合、ハーベスティングの形式は
ウェブサイト、動画、 フォトブック、グラフィックレコーディング、寸劇、ポーズ、報告書が挙げられます。
右下の<無形×集合>では、
共有されたビジョン、未来像、新しいストーリー、より豊かな関係性、仲間とつながっているという感覚、次のアクションへの衝動など
左上の<有形×個人>は
日記、ワークブック、個人ワークシート、詩、絵、スピーチ、ダンス、音楽など
左下の<無形×個人>は
内省、新しい自分、明らかになった信条、自己認識、自信、希望など
が挙げられます。
例えば、ある人のストーリーを聞いて、他の人が静かに味わう時間を取るとします。そこでは一見何も行われていないように見えるかもしれませんが、「個人の中で、インタンジブルなハーベスト、つまり内省をしている」の意図を置くことができます。
では、これらのハーベスティングのアプローチは企業の中でどのように役立てることができるでしょうか。ある実践例をご紹介します。
ハーベスティングの実践例:ブッフェレストラン運営会社でのビジョン策定ワークショップ
ブッフェ形式のレストランを運営するニラックス株式会社様でのビジョン策定ワークショップのケースです。株式会社ビジネスコンサルタントは数カ月越しのプロジェクトとして、同社のミッション、ドメイン、コアバリュー、ビジョンおよび中期経営計画を策定するお手伝いをしていました。ミッション、ドメイン、コアバリューは社長はじめ経営陣の中で策定が終わり、ビジョンを作る段階にありました。現場の店長、支配人を含めた管理職も参画してビジョンを考えるワークショップの中で、ハーベスティングのアプローチを活用した例です。
まず、準備の段階で、次のようなことを検討しました(参考:第2回、ハーベスティングの8つの営み)。
①欲しいものをイメージする
ビジョン策定のワークショップで何を収穫したいかを明らかにします。
今回は、『トップの方針をふまえつつ、「自分たちで作った自社のビジョンだ」という所有感を参加者が持ち帰る。お互いの想いを聞き合い、見せ合い、会社運営の中核を担う自分たちが仲間だという横のつながりを強固にして帰ってもらうこと』をハーベスティングの目的におきました。
②場の準備、③ハーベスティングの計画
ワークショップのデザインにあたっては、次のことをポイントに置きました。
・前半はハーベスターがペンを持ち、話された内容を絵にしていくが、後半は参加者自身がペンを持ち、絵ににたくさん書きこんでもらうことで所有感を転移する
・BConの講師はファシリテーターとして、参加者同士の声が多く聞かれるように話し合いをサポートする
④種をまく、⑤作物の世話をする、⑥果実を摘み取る
そしていよいよワークショップ開催。次のような進め方をしました。
【社長からこれまでの検討内容を参加者に共有】
ワークショップの冒頭は、社長がこれまでに検討したミッション、ドメイン、コアバリューをメンバーに共有します。ハーベスターは、この内容をグラフィックレコーディングとして記録します。
【5年後のビジョンについて対話】
続いて3グループに分かれて5年後のビジョンを話し合い、全体発表。発表を聞きながらハーベスターがグラフィックレコーディングしていきます。
あくまでもこれは下地です。描かれた絵をグループに戻して参加者がここは大事だと思うポイントに色でグルグル囲んだり、言葉を追加していきます。筆跡が全て異なるのがお分かりでしょうか?またきれいに書くというより、勢いがあるのが見て取れるかと思います。
この時、テーブルの上に置かれていたハート形の付箋紙を、あるグループがなんとなく寄せて配置していたことが(下の写真右上)、後半、共有ビジョンをまとめ上げる時に大きな役割を果たすことになります。
【全員のビジョンを混ぜ合わせる】
再びグループに分かれて、もう一度大事なビジョンを話しあい、そして全体に発表します。以下の写真をご覧ください。抽象度が高くなったことにお気づきになると思います。企業が掲げるビジョンは最終形だけを見ると、まとまったきれいな表現になりがちで、その言葉だけを聞いてたちまち具体的にイメージが湧く、という体験は少ないのではないでしょうか。
抽象度が高い最終形のビジョンの後ろにある、ごちゃごちゃとした生なイメージを経て、共有したからこそ参加者にとって手触り感のあるビジョンになります。描きあげられたビジョンは有形のハーベスト、作ったという共通体験は無形のハーベストになります。
⑦収穫した実りにひと手間かける
【参加者全員での対話】
このように小グループでの対話と発表を繰り返した後、最後のセッションは全員が輪になっての対話です。「やはり<誇り>これが自分たちが大事にしたいことだね」と繰り返しでてきたキーワードや要素を話し合いながら、輪の中では大きな模造紙にハーベスターが書き留めていきます。写真では参加者の背中に隠れていますが、中央にハーベスターがペンを持って跪き、輪の淵にはファシリテーターがいます。ファシリテーターが対話をサポートし、ハーベスターが参加者からの「この言葉はここの近くに置きたい。」「キョウソウは共創じゃなくて協走って書いて」というリクエストを絵に反映していきます。ある人の発言に対して微妙な表情をしている人がいたらすぐには書きこまず、「何か言いたいことがありそうですね?」と対話に戻ることもあります。
そうして最後にできあがったビジョンの絵がこちら。
最後に社長も輪に入って、一日過ごした感想や気づきを共有しワークショップ終了です。
⑧次のハーベストを計画する
この絵はニラックス様の社内プロジェクトが引き取り、その後イラストレーターの方の手が入りこのように進化しました。
現在は会社のモチーフに変化して、社員が持ち歩くカードに使われています。
ビジョン策定ワークショップでハーベストされたものとは?
さて、この場からのハーベストを整理してみます。
【有形×個人】 ・個々人がグループ対話の中で 共有する付箋紙や気づきメモ | 【有形×集合】 ・社長による方針を書き残した グラフィックレコーディング ・共有ビジョン作成途中の模造紙 ・統合された一枚の絵 |
【無形×個人】 ・自社の事業について改めて深く 考える時間 ・ビジョンを言語化して人に説明 する自信 ・他の人の話を聞いて広がった視野 ・自社の幹部の一員であるという 自覚 ・社長の本気を受け取る | 【無形×集合】 ・全員が車座で話す体験 ・普段一緒に働いていない仲間 との関係性の深まり ・互いへの信頼 |
ワークショップで得られたビジョンの絵に「その後」があったように、ハーベストは持ち帰り、みなで食べて、次の種になるために行うものです。
会議で「!」と出てきた意見やアクションプランを持ち帰ったあとに行動を起こすとまた新たな課題や疑問が出てきます。するとハーベスティングの最初のステップ、ほしいものをイメージするに戻ります。対話やハーベスティングは終わりのないプロセスなのです。
結びに代えて
3回シリーズのブログ、完結編に当たるvol.3をお読みいただきありがとうございます。アート・オブ・ホスティング&ハーベスティングには、もうちょっとだけ長い名前がついています。
Art of Hosting and Harvesting conversations that matter
わたしたちにとって大切な話し合いをホストし、収穫するためのアート
自分とあの人の間に、自分たちと彼らの間に、組織を超えて社会のなかに、いまたくさんのほっておけない、大切な話があります。
あなたにとって大切な話は何でしょうか?
「ね、ちょっと聞いてよ」と誰かと話さずにはいられない違和感や問題意識は何でしょうか?
最初は一人の中から生まれる話し合いが大きく輪を広げ、組織の中で対話が始まったとき、その組織はより賢く、可能性を広げながら前に進むのだと信じています。
この記事が変化を起こしたい方の実践に、少しでもお役立ちできますように。
西南学院大学にて文化人類学を学ぶ。外資系人材ビジネスに13年勤務した後、カリフォルニア大学アーバイン校留学を経て2013年株式会社ビジネスコンサルタントに中途入社。プログラム開発のための探索活動や、サステナビリティコンテンツや診断ツールの翻訳プロジェクトマネジメントを担当。プロセスワークを学び、アート・オブ・ホスティング&ハーベスティング実践者としてオンライン・オフラインでの対話の場のサポートを行っている。