タイルカーペット世界シェアNo.1のインターフェイス社。同社の製品は、独特のデザインと性能で人気を集めています。実はこのデザインは、「見て美しい」だけではなく、サステナビリティの観点から非常に理にかなった機能性を備えたものです。インターフェイス社はどうやってこのイノベーションの着想を得たのでしょうか?
創業者兼CEOレイ・アンダーソン氏が1994年に「ミッションゼロ」という野心的なビジョンを表明しました。その当時、インターフェイス社が製造していたタイルカーペットは、ライフサイクルのあらゆる段階で様々な環境負荷を生じさせていました。化石燃料によるエネルギーで工場を稼働させ、石油から作られるポリエステル糸を使い、設置や使用時のメンテナンスには様々な化学製品が使われ、使用後は埋め立て処理される・・・。これらの環境負荷が、現在では様々なイノベーションにより大幅に削減されています。
2017年11月、2018年3月に同社のオランダ、スケルペンゼール工場にあるビジターセンター「Awarehouse」を訪問し、サステナビリティ戦略担当のゲアンナ・ファン・アルケルさんに伺ったお話をもとにリポートします(前回の記事はこちらから)。
自然に学んだデザインとイノベーション
インターフェイス社は、ミッションゼロを具現化するために、外部の専門家と数多くのコンタクトを持ちました。そしてある顧客が開いたワークショップへの参加をきっかけに、「バイオミミクリー(生物模倣)」と呼ばれる手法に出会います(※1)。これは分かり易く言うと、「自然に学ぶ」ということ。分かりやすく体現しているのが、同社の製品のEntropyとTacTileです。
【Entropy(エントロピー)】
従来のタイルカーペットは均一な色合いのものでした。この場合、部分的に取り換えたりすると色の差が目立ってあまり快適ではありません。Entropyのデザインは、木の葉が森の地面に散らばる様子などを模していて、1枚1枚微妙に異なります。そのため設置の際には向きや並びを意識する必要はなく、さらに後からどこか一部だけを新しいものに交換しても違和感の無いデザインになっています。このデザインの導入で、会社としては染料などの原材料のムダ削減、ロットを揃えるための在庫を削減できるようになりました。さらに顧客からもその利便性・経済性が歓迎され、シェアをさらに伸ばすことに貢献したのです。今では多くのカーペットメーカーがこういったデザインを採用しています。
【TacTile(タクタイル)】
「なぜヤモリはつま先だけで壁に引っ付いていることができるのか?」
タイルカーペットの設置に使われる接着剤は、有害な揮発性有機物を含みます。環境負荷を起こすのはもちろん、設置作業をする人自身にも有害、そして使用後のタイルを再利用する段階でも、素材の分離を妨げる厄介なものでした。
インターフェイス社の開発者たちは、バイオミミクリーを応用して冒頭のような着想を得ると、生物学者の協力を得て、接着剤を使わず、しかもズレることなくタイルカーペットを設置できるシールを開発しました。
カーペットは売らない!ビジネスモデルをデザインし直す
サステナビリティの原則とバイオミミクリーに気付きを得て、インターフェイス社は単なるカーペットメーカーであることをやめました。環境への負荷ゼロを目指すため、同社は「作って・売る」のビジネスモデルから、「快適で人の健康や創造性に働きかけ、環境を良くする機能を持ったカーペットを使える利便性」を提供する企業へと、ビジネスモデルをデザインし直すことを目指したのです。
2000年以降、同社はライフサイクル分析を導入し、原材料の調達、製造、顧客による使用(メンテナンスを含む)と製品寿命後の廃棄までの全段階での環境フットプリントを測定しています。
環境フットプリントを削減するビジネスモデルとは
同社の分析によると、製品ライフサイクル全体の環境フットプリントは、顧客の使用時が19パーセント、廃棄の段階が14パーセントと、原材料に次ぐ大きな負荷が、同社が直接的に管理するのではない部分にあることが分かりました(下図)。これらのフットプリントを削減するためには、カーペットの設置・メンテナンス・回収までを一貫して同社が管理するのが効果的と考えました。最初はこのリースの概念はなかなか顧客に受け入れられず苦労をしたそうです。また廃棄されるカーペットタイルの回収には、各国の法律などの障害もありました。しかし、メンテナンスや交換を適切に自社の管理のもとで行うことは、使用後のカーペットタイルを回収して再生原料とするまでの品質を保つうえでも重要な意味を持ちます。
回収されたカーペットタイルから、再生できる素材を分離し、新たなカーペットタイル製造に使えるリサイクル糸に加工する技術を持っているのは、供給メーカーです。インターフェイス社は、リサイクルとバイオベースの原料を使い、再生可能エネルギーで動く機械でカーペットを織り、リースで顧客に提供します。現時点では、これは世界で最も環境フットプリントの低いカーペットタイルのサービスとなっています。
リサイクル糸の製造技術を持つ供給メーカーのAquafil社は、こちらの記事でご紹介した、フィリピンの漁村における、海に不法に廃棄された古い漁網を回収してリサイクル材にする取り組みでも、インターフェイス社と協働しています。
イノベーションを起こすには目指す未来像の共有から
インターフェイス社は、最初から「環境に優しい」企業であったわけではありません。トップが、最初は皆が「無理だ!なんて馬鹿げたことを!」と思うような高いビジョンを掲げ、その実現を目指すためにステークホルダーの皆を巻き込みました。そして目指したい未来の姿を共有しているからこそ、社員たちは社外の人たちとつながり、自分達にとり有意義な方法論を見つけ、一緒になって新たなやり方を具現化し、業界の常識を打ち破るイノベーションを起こしてきました。
自然に学んで、個々の製品からビジネスモデルそのものまでをデザインし直してきたインターフェイス社。そのイノベーションにはもう一つの成功のエンジンがありました。それは、「協働」です。言うは易し、やるは難しの代表ともいえる協働について、インターフェイスの考え方とやり方から次回は学んでみましょう!
※1 バイオミミクリーについて、ジャニン・ベニュスによるTEDトークはこちら
※記事内の画像と図:インターフェイス社プレゼン資料より引用
インターフェイス社が社会問題を解決し、新たなビジネスモデル創造につなげた取り組みをご紹介!SDGsの「アウトサイド・イン」のご参考にどうそ。
東京工業大学大学院 社会理工学研究科 修士課程修了/ 一般社団法人日本ポジティブ心理学協会 理事。
株式会社ビジネスコンサルタントにて営業マネジャー職を担当。その後、同社における顧客組織の組織開発と人材開発への投資効果と投資効率を最大限に高めるための会員制サービスの商品戦略を担当。現在は同社の研究開発マネジャーとして、サステナブル社会の実現のため、ポジティブ心理学やイノベーション理論、自然科学ベースの戦略策定フレームワークに基づく商品開発およびその実践を担当。