サステナビリティ(持続可能性)への取り組みはさまざま。「もう十分たくさんのことをやっているよ!」という企業も多いでしょう。でも、今の取り組みの方向性があっているのか、ステージアップを出来ているのかと不安になったことはありませんか?
今回はサステナブル経営を推進している株式会社ビジネスコンサルタントがその実践者3名を招いて開催したセミナー(「サステブル経営で競争優位を築く 『サステナブル経営の実践』」:2015年10月15日・17日開催)の講演内容から、今後数回に渡ってポイントとなる点をご紹介していきます。
まずお一人目の登壇者は国際NGOザ・ナチュラル・ステップ、スウェーデン支部代表のカーリン・シュルツ氏。
サステナブル経営を捉える大きなフレームワークの紹介と共に、取り組みのステージがあることや、その方向性を確認する方法を教えてもらいました。そこで皆さまにはすぐにご活用いただける、「サステナビリティを組織で考えるためのチェックリスト」を2つご紹介しようと思います。
個々の取り組みについてチェックする、というよりは、個々の取り組みが全体としてサステナビリティのために適切な方向に向かっているのかどうか、つまり全体像を確認するためのものです。
持続可能な発展とは・・・
サステナビリティの全体像を考えるには、今世界でもっとも広く受け入れられているブルントラント委員会が発表した定義(1987年)を見ることから始めるのが良さそうです。
持続可能な発展とは、「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすこと」です。
でも、この定義には、ビジネスの立場から「どうしたらいいのか」については明確にされていない、つまり具体的なアクションの指針にならない、という批判がありました。
企業の経済活動は、人間社会と自然環境に大きな影響を及ぼしています。
図を見てみましょう。
以前は人間の経済活動の規模は自然循環の流れと比較してそれほど大きくなかったため、自然環境をある程度好き勝手に利用しても、自然環境の回復力の方が勝っていました。つまり、ヒトが何をしても自然がツケを払ってくれていたのです。
現在は、人間活動の規模がとても大きくなった結果、自然循環より人為的に行っている資源発掘や廃棄物の流れがずっと大きくなってしまいました。
経営者にわかる言葉で持続可能性を定義できなければ、この事実を変えることはできません。そこで、具体的なアクションの指針になるようなチェックリストの出番です。
今回紹介するのは1つめのチェックリスト、医学博士カール・ヘンリック・ロベールらの科学的なフレームワークです。
サステナビリティを正しく理解しアクションにつなげるための持続可能性原則とは
カール・ヘンリック・ロベール博士は、さまざまな分野の科学者に「みんなが納得できる持続可能性の定義を作ろう」と呼びかけ、辛抱強く対話を重ねて行きました。
まず、彼は自然環境及び人間社会を持続可能でない状況にしているメカニズム(システム条件)を解明しました。それをもとに、ビジネス・パーソンが持続可能な社会を容易に作ることができるサスティナビリティを考えるチェックリストとして、私たちに「持続可能性原則」を提示したのです。これは、同時に、科学的な厳密性を担保することもできるものでした。
企業の経済活動は、「社会システム」の中に存在しています。それは、たとえば、「日本社会」といった国ごとのものであったり、もっとずっと大きく、国際社会そのもののなかにあったりすることもあります。
そして、人間社会は地球という自然環境の中に存在しています。つまり、企業の経済活動がずっと持続して行くためには、その足場である、社会システムと自然環境システムの両方が持続可能な状態である必要があります。
カール・ヘンリック・ロベール博士が示した持続可能性原則は自然環境システムに3つ、社会システムに1つ(その中に要素が5つ)あるというものでした。
まずは、自らの組織が行うべきポイントについてみていきましょう。
持続可能な社会で大切な8つのこと
自然環境システムについては、3つの原則があります。
①自然のなかで地殻から掘り出した物質の濃度が増え続けることに加担しない
②自然のなかで人間社会が作り出した物質の濃度が増え続けることに加担しない
③自然が物理的な方法で劣化することに加担しない
を原則として守ることが必要であるといっています。
そして、 社会システムについての原則は「自らの基本的ニーズを満たそうとする行動を妨げる障壁が存続し続ける状況に加担しない」があります。
社会システムについては現在研究が進行中です。このような状況を作り出してしまうのは社会システムが本来の機能を果たさなくなり弱体化していく時であり、その原因の1つが「信頼関係が破壊され、弱体化していくこと」という研究がなされています。そういった社会にシステムが機能するために必要な要素が明らかになってきました。次の5つです。
持続可能な社会では、自らの組織が存続するためには、社会システムを破壊する可能性があるシステム的な障壁を作りだすことに加担しないこと、つまり
④ヒトが健康でいることを妨げる障壁に加担しない。
⑤ヒトが影響力を行使することを妨げる障壁に加担しない。
⑥ヒト能力を発揮することを妨げる障壁に加担しない。
⑦公正性を担保することを妨げる障壁に加担しない。
⑧ヒトが意味や意義を求めることを妨げる障壁に加担しない。
という持続可能な社会を構築するための原則を守ることが必要であるといっています。
ここでいう「加担しない」とは、組織として
・今行っていることでこの原則に反するような活動は減らしていき、最終的には完全に撤廃すること
・これから意思決定をする場合は、この原則に反するやり方では行わないこと
の2つを表しています。
常にこの持続可能性原則と照らし合わせながら、ビジネスを行う事が持続可能な社会の実現につながるという事なのです。
戦略を決める・商品を開発する・取引先を決める・人材育成をする・評価を決めるなどなど、ビジネスを展開する上での方向性の指標を、この持続可能性原則と照らし合わせて進めていく事が重要だと教えてくれました。
貴社の取り組みはいかがでしょうか。
さて、ここまでは、カール・ヘンリック・ロベール博士から得たチェックリストでした。次回は、これと密接に関係する、ボブ・ウィラードの「サステナビリティのはしご」の概念についてご紹介していきます。
【サスティナブル経営で競争優位を築く WINセミナーシリーズ】
1.自社のチェックリスト① 持続可能なビジネスか否か-4つの持続可能性原則
2.自社のチェックリスト② 持続可能なビジネスか否か-5つのはしご
3.サステナブル経営実践事例:北欧スカンディックホテル~原則を押さえて自社に合うやり方を追求、収益につなげる~
4.ス
サステナブル経営実践事例:北欧スカンディックホテル~全社員を巻き込み、新たな文化を作る~
5.組織で成果を出すために必要なHuman Energy をどう育てるのか_前編
6.組織で成果を出すために必要なHuman Energy をどう育てるのか_後編
7.サステナブルなビジネスモデルを作るために知っておくべきこと
8.サステナブルが大事になる時代にあるべき経営リーダーシップとは
本シリーズでご紹介しているナチュラル・ステップの代表カール=ヘンリック・ロベール博士らによると、サステナビリティをより早く実現することが、企業にとって競争優位の源泉となり、生き残り戦略となるそうです。なぜでしょうか?以下よりダウンロードいただける資料に分かりやすくまとめています。ぜひ本ブログと併せてご参照ください。
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一般社団法人サステナビリティ・ダイアログ代表理事/Art of Hosting Japan 世話人
国際基督教大学を卒業後、大手監査法人に公認会計士として勤務。出産を機にサステナビリティに強い関心を持つようになり、家族とともにスウェーデンで4年に渡り生活。持続可能な社会のための戦略的なリーダーシップ等2つの修士課程で学ぶ。留学中に出会った北欧発の参加型リーダーシップトレーニングArt of Hosting、グラフィック・ファシリテーションを軸に、スウェーデンのサステナビリティ戦略フレームワークを伝えるための活動を展開。