鳥取県智頭町にあるタルマーリー。ここは、独特のおいしさのパン、ビール、ゆったりとした空間を求める人たち、そしてお店を経営する渡邉さんご夫妻の考えに興味を持った人たちが集まるパン屋です。前回の記事ではタルマーリーの「菌本位制」についてご紹介しました。タルマーリーでは、パンやビールをつくるために、市販のイースト菌を使わず、自家採取・培養した野生の菌を使用し、他の原材料にもこだわり、個性的な味をつくり出しています。目指すのは、画一化しつつあるパン市場へ「多様性」を持ち込むこと。
と同時に、タルマーリーが目指しているのが、地域内循環の確立。事業活動に必要な資源をできる限り地域で入手できるように仲間づくりをし、環境への負荷の小さい農業や林業によって、地域環境がより良くなることを目指しています。

循環はサステナビリティ実現の鍵

「循環」は地域社会や事業活動のサステナビリティを高めるために外せない観点です。例えば、以前の記事でご紹介した宮城県南三陸町では、「循環」が町づくりのキーワードです。例えばごみ。人々のくらしから出るごみは資源であるとし、再利用のために細かに分別をします。生ごみやし尿からは液肥をつくり、その液肥を使って、地元の人たちが農作物をつくり、地元で消費する仕組みを確立しています。
ここでは、ごみを循環させることで、肥料を外から買わなくて済むという実質的な価値があります。それに加え重要なことは、循環のプロセスに多くの人がかかわり、自然とつながりが生まれ、社会が豊かになる、という点です。

タルマーリーもまた、自分たちで農業や林業をしているわけではないので、協力してくれる農家や林業家とのつながりをつくることを重視しています。とはいえ興味深いのは、そのつながりの緩さ。
「特別なプレゼンもしていませんし、自分たちの考えを分かって協力してくださっているのか、よく分かっていません。ただ、それぞれにおいて、経済的にもメリットのある形をつくることも大事。」と渡邉さんは自然体でお話されていました。

ただ、今回、渡邉さんのご紹介でお会いした林業家の大谷さんも、農家の藤原さんも、タルマーリーとのつながりに、お金とは違う価値を認められているのでは、と私は感じました。それぞれに、生まれ育った智頭町で大事にしたいことがあり、ご自身で面白いと思えることの実現を大事にされているのです。

林業に新規参入、自伐型林業に取り組む大谷訓大さん

大谷訓大さんは、智頭町で自伐型林業を営まれています。私たちが初めてタルマーリーにお伺いしたその日、ちょうどお店にいらして、地域内循環作りの仲間として渡邉さんにご紹介いただき、その場で見学を快諾してくださったのでした。
大谷さんとタルマーリーとの接点は、次の3点。
・健全な森林を育成し、美しい環境を維持する
・タルマーリーで使う薪を提供
・タルマーリーのビール作りに必要なホップを、無肥料・無農薬で栽培

タルマーリーの渡邉さんによる濃密レクチャーの後、雨が降ったりやんだりする天気の中、大谷さんの作業小屋でお話を伺いました。

サステナブルな林業、自伐型とは

大谷さんが取り組まれている自伐型(じばつがた)林業というのは、自分自身で所有する山林、または所有者(山主)から管理を任された山林で、自分自身で木を切り出す林業のことです。
大谷さんが目指されているのは、長期的に山の価値を高めていくような林業。そのため、植林地に大規模な作業道を設け、大きな機械を使って皆伐する、といった手法は取りません。奈良県の吉野地方の林業をお手本にしていて、幅2メートルほどと小規模な作業道をつくり、使用するのはいわゆる軽トラックや小型のパワーショベルなど。1日に切り出すのは10~20本ほどで、樹齢100年を超える、価値の高いスギやヒノキの育成を目指しています。

もともと智頭町は、林業の盛んな土地です。しかし人口減と木材価格の下落が要因で、林業家は、かつての350人から50人ほどまで減っています。大谷さんのお話を伺ってまず驚いたのが、ご自身にとって林業は代々の家業ではなく、新規参入されたのだということ。生まれ育った智頭町を一時離れ、米国に滞在した際、故郷の魅力を再認識し、智頭町に戻り林業を始めることにしたのだそうです。最初は、祖父の代に植林した自己所有の山林の手入れから始められました。

仲間を増やし、自伐型林業を広める

現在は、自己所有の山林に加えて山主から預かっている森林と合計350haほどを管理されています。株式会社皐月屋を設立し、林業に関心を持つ若者を3人雇用されています。
大谷さんは、智頭町役場に提案をして、林業をしたい、自伐型林業に取り組みたいと考える人のための塾を2015年から始めました。町有林60haをフィールドに、実践的な学びを提供しているそうです。
こうした塾の運営も、あえて個人事業ではなく、会社を設立して林業に関心ある若者を雇用・育成していることも、大谷さんなりの仲間づくりなのではと感じながらお話を伺いしました。

大谷さんの森林

手入れの行き届いた、明るい森林。大谷さんが林業を始めたばかりのころは、このように明るい森ではなかったそう

ホップの無肥料無農薬栽培

ホップ栽培は、林業の傍らで取り組まれています。私たちが訪れたときはまだ小さかったのですが、縄の高さいっぱいに弦が伸び、実がなります。

薪の販売

仲間とともに薪を一般販売しています。この場所は、大谷さんが小学生のころは、現役の牛舎、かつ同級生との通学路の一部だったそう。

大谷訓大さん

最後に、集落がよく見える場所へ案内してくださいました。今、振り返ると、地元愛溢れる大谷さんの気配りです。

独自の工夫で無農薬・無肥料栽培に取り組む稲作農家、藤原康生さん

大谷さんに道案内をしていただき、次は藤原康夫さんの作業小屋へ。再び降り出した雨のため、田んぼを見学させていただく前にこちらでお話を伺いました。
藤原康生さんは、智頭町で牛の畜産と稲作農家をされています。タルマーリーとの接点としては、糀菌の採取に欠かせない米を、無肥料・無農薬で栽培されています。

智頭町は、昼夜の寒暖差が大きく、また山から直接きれいな水を得ることができるので、おいしいお米をつくる条件が整っているそうです。藤原さんは現在、減農薬で2.2ha、無肥料・無農薬で0.2haの規模で稲作をされています。自分のペースで、自分なりに考えながら取り組めることが農業の魅力だと語る藤原さん。収穫した米は、農協を介さずに直接消費者に販売されています。作業小屋には、脱穀・乾燥などの大型機械が並び、さらにあちこちに工具、材料、そして自作の道具が置かれています。必要な道具を買ってくるのではなく、ご自分で工夫してつくることが大好きとのこと。日々さまざまな探求をされていることがうかがい知れました。

「農家として自らの腕が試される」無肥料・無農薬栽培

「なぜ自然栽培(無肥料・無農薬の栽培方法)に取り組まれているのですか?」とお聞きしたところ、「最初はこの方法に懐疑的だった」という意外な回答をいただきました。藤原さんは、無肥料・無農薬の稲作に取り組んで3年目(取材時)。この栽培方法は、農家として自らの腕が試されると感じているそうです。

無肥料・無農薬の稲作に使用している圃場は、もともと農薬や化学肥料を使っていたため、最初の年は何度も水を入れ替え、土壌に蓄積された栄養分を流してから栽培を開始。そのためか、1年目からわりとうまく収穫ができたのだそうです。ただ、2年目からは雑草に悩まされます。そこで、草刈り装置を自作。いわゆるビニールパイプに鉄の鎖を何本もたらしたもので、相当な重量になるのですが、藤原さんはこれを担いで、水田の中を何往復もして雑草を除去するのだそうです。こうして手間暇かけて収穫した無肥料・無農薬の米は、タルマーリーに契約分を販売した残りは、自然栽培(無肥料・無農薬の栽培)に関心を持つ人にあげてしまわれるのだそうです。

藤原康夫さん

無肥料・無農薬栽培の水田の前で。移住者を呼び込む町の施策もあり、藤原さんの周囲でも新規就農される方がいるそうですが、藤原さんは困りごとがないか声をかけたり、一緒に作業をするなどの関りを大事にしているそう。お互いの信頼関係を大事にされています。

手前が無肥料・無農薬栽培、奥が減農薬の水田。稲の植え方・育ち方に違いがあります。高齢化する農家の現実を考えれば、「慣行栽培はたしかに楽ができる」(藤原さん)。生まれ育った智頭町には豊かな自然があって、山菜を取りに行ったり、自然の中でバーベキューを楽しんだり。とはいえ、藤原さんが子どものころより虫など減ってきているように感じるそう。お話の端々から、将来へ豊かな自然を受け継いでいけるような農業をしていきたい、という藤原さんの思いを感じました。


大谷さん、藤原さんとの出会いを通じて、ごく一部ではありますが、智頭町の豊かな自然と、その自然を大事にするくらし方に触れさせていただきました。タルマーリーが目指す地域内循環は、智頭町を起点にすることでもっともっと広がっていくのだろうと確信しました。

次回は再び渡邉さんのお話に戻り、私たちが強く問題意識を刺激された「どんな物語に私たちは支配されているの?」という点について、考えてみます。

次の記事: 批判ではなく、新たな物語を紡ぐ。タルマーリーが選んだ、未来の作り方


組織の中で、サステナビリティに関心を持つ人を増やしたいですか?まずは学びの環境を整えるのも一つの手段です。

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