2014年11月20日配信「戦略的にサスティナビリティを考える」では、サスティナビリティのためには、「すべきこと」と「すべきでないこと」があることをご紹介しました。そのうちの「すべきこと」について、今回はお伝えします。

ニーズは誠実であり公平である

サスティナビリティのためには、「すべきこと」とは、「みんなのニーズを満たす」 ということが必要です。

キーワードは「ニーズ」です。

ニーズという言葉は、「あのバックが欲しい」、「温泉に入りたい」、「新鮮な野菜を食べたい」など人々のやりたいことを意味する言葉として使われています。最近では、「このコーヒーマシンは顧客の潜在的ニーズを堀りおこすことに成功した」というように、「買ってもらうための要因」として使う人も多いようです。

しかし、サスティナビリティでいう「基本的ニーズ」は少し意味が違います。これが指し示すものは、「生計」、「保護」、「愛情」、「理解」、「参加」、「怠惰」、「創造」、「アイデンティティ」、「自由」という9つの言葉です。これらは、人間らしく生きるために必要なものであり、かつ、人種や地位など無関係に人間誰もが満たせるものです。

基本的ニーズは、「できる男は良い時計をする」「クリスマスは恋人同士で過ごす」というような、押し付けられた価値観や、無理に堀りこして不要なものを買わせる類のものではありません。また、お金がある人や特別な権力がある人だけが満たすことのできるものでもありません。サスティナビリティでいうニーズは、もっと誠実で、もっと公平なものなのです。

「チリらしさ」から生まれた基本的ニーズの概念

それを考えたのは、チリの経済学者マンフレッド・マックス=ニーフという人です。チリは世界銀行の名目GDPランキングでは38位(注)(2013年)と、経済規模では日本の約18分の1と小さい国です。サッカーなら分かりますが、なぜチリの経済学者が世界的に有名になったのでしょうか。

それにはチリの歴史が関係します。

1970年代、社会主義政権がクーデターにより倒されたチリは、インフレ率が年率140%を超すなど経済的に混乱を極めていました。安倍首相が掲げるインフレ率のターゲットは2%ですから、凄まじい状態であったと想像できます。クーデター後の新政権は、アメリカの支援の下、民営化などの改革を推し進め、1980年代には経済的に大復活を遂げました。「アメリカ」の経済学者フリードマンは、この大復活を「チリの奇跡」と呼びました。

これに異を唱えたのがチリ人のマックス=ニーフでした。マックス=ニーフは、経済指標ばかりの評価に疑問を呈しました。GDPは上がり貧困率も低下したのですが、実際には多くの住民が貧困に支配されていたからです。収入が上がったのは一部の人々だけで、貧富の格差はむしろ大きくなりました。また、経済優先で物事が推し進められ、市民に本当に必要な「チリらしさ」が失われていきました。

こうした、「指標上豊かな国」で貧困に直面したマックス=ニーフは、人間に本当に必要なものを考えたのです。そして本来人間は基本的ニーズさえ満たせれば十分であり、誰もが基本的ニーズを満たせる状態こそが、あるべき姿だと考えたのです。

ニーズは普遍であり不変である

マックス=ニーフの言う9つの基本的ニーズは、人間誰もが持つものです。それは、人種、宗教、文化等の違いに係わらず全ての人にとって同じです。また、9つの基本的ニーズが変わることはありません。基本的ニーズは普遍であり不変なのです。

普遍・不変と言われても、疑問を感じる人もいると思います。確かに、自分の年齢や環境によって欲しいものが変わるからです。例えば、子供の時には「親」の愛情が欲しいと感じていた人が、結婚したら「夫婦」の愛情が欲しい、と変わることがあります。

マックス=ニーフによれば、変わるのは、基本的ニーズそのものではなく、サティスファイアーの方です。サティスファイアーとは、基本的ニーズを満たすための手段、ツール、方法、やり方のことです。サティスファイアーは人によって違います。文化やお国柄によっても違うでしょう。

また、サティスファイアーは無限にあります。例えば、「愛情」というニーズを満たすためのサティスファイアーは、大切な人に受け入れてもらっている状態、家族やパートナーを持っていること、感謝をすること、参加している人と一体感を持てる環境、などと考えられます。

さらに、そういったサティスファイアーを実現するために起こす、具体的なアクションもサティスファイアーです。例えば、大切な人に受け入れてもらう状態を作るために、普段からその人に自分の希望を伝える、その人を理解する努力をする、心のこもったプレゼントをするなどたくさんの行動が考えられます。これらは全てサティスファイアーなのです。

ニーズ、サティスファイアー、モノ・サービスという順

マックス=ニーフによれば、モノやサービスはニーズを直接満たすものではなく、ニーズを満たすサティスファイアーを助ける手段に過ぎないということです。

「怠惰」というニーズに対して、「リラックスする」というサティスファイアーがあります。このリラックスのための手段が、たまたま店頭のコーヒーだった、ということになります。コーヒーというモノが直接「怠惰」というニーズを満たすわけではありません。ニーズ、サティスファイアー、モノ・サービスという順なのです。

この順に気が付けば、自分の求めるニーズと、それを達成するための手段が何であるかを、改めて見直すことができるとでしょう。例えば、「リラックスする」ために高級ホテルに行く人もいます。つまり、怠惰→リラックス→高級ホテル、ということです。しかし、怠惰→リラックス→自宅でゴロゴロ、で良い人なら、高級ホテルは必要ありません。高級ホテルは、あくまでもサティスファイアーを助ける手段に過ぎないのです。

手段に目が行くのは、他人の価値観や勝手に作られたイメージの影響です。

  1. 自分のニーズを満たすサティスファイアーは何か。
  2. もし助けが必要なら、使えるモノやサービスは何か。

このような順で考えてみることが、サスティナビリティを目指すうえで大切です。

サスティナビリティのためには、「すべきこと」とは、「みんなのニーズを満たす」こと。これだけ聞くと単なる理想論だと思う人もいます。確かに、世界中の人たちが「潜在的ニーズ」というものを掘り起こされ、マンション、車、ブランドバック、旅行など様々なモノ・サービスを手に入れることをイメージしたら、不可能だと思います。

しかし、サスティナビリティの目指すのは、もっと人間として根源的なことです。人間らしく生きるために必要な行動や環境とは何か。そのために、本当に必要なモノ・サービスは何かを考える。ニーズ、サティスファイアー、モノ・サービスの順で考えれば、将来地球環境を脅かすほどモノ・サービスが主役になることはないのではないでしょうか。

次回も引き続き、基本的ニーズについて探っていきます。お楽しみに。

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サステナビリティとイノベーション 〜次世代への責任〜




牧原 ゆりえ

一般社団法人サステナビリティ・ダイアログ代表理事/Art of Hosting Japan 世話人

国際基督教大学を卒業後、大手監査法人に公認会計士として勤務。出産を機にサステナビリティに強い関心を持つようになり、家族とともにスウェーデンで4年に渡り生活。持続可能な社会のための戦略的なリーダーシップ等2つの修士課程で学ぶ。留学中に出会った北欧発の参加型リーダーシップトレーニングArt of Hosting、グラフィック・ファシリテーションを軸に、スウェーデンのサステナビリティ戦略フレームワークを伝えるための活動を展開。