質問です。「木を切るのは良いことですか? 悪いことですか?」

木を切るなんて、環境破壊になってしまうからよくない、と思う方も多いのではないでしょうか。町内の森林資源を活用したサスティナブルな地域づくりで有名な北海道下川町の子供たちは、この質問に

「良いことだよ、ちゃんとまた植えればね」

と答えるのだそう。なぜなら子供たちは、3歳から始める15年一貫の森林教育で、町の最大の資産、森林の持つさまざまな価値を体にしみこませているのです。これは、北欧発祥のLEAFというプログラムをベースにしており、地元のNPO森の生活(第1回でご紹介)が、教育委員会、学校などと協働し提供しています。小さなうちは葉っぱや木の実を拾い、森の中のさまざまな植物に慣れ親しむことから始まります。中高生ともなると、木材を使用した製品の企画をするなど、森の自然環境、経済性、社会への有益さといったさまざまな側面を、体験を通じて学んでいるそうです。町の大事な資源について、じっくり時間をかけ、楽しんで学ぶ、うらやましい取り組みです。

前回までの記事では、下川町のサスティナブルな地域づくりの根幹に森林があることをご紹介しました。そしてその町づくりの精神が、「森の恵みをあまさず使いきる」実践に見て取れることを、木材の生産や加工、副産品の側面からご案内しました。でもそれはまだ、下川町における森林資源活用の半面を伝えたにすぎません。下川町が第1回ジャパンSDGsアワードを受賞したり、SDGs未来都市に選ばれたりする理由は、この森林資源を町のエネルギー源として活用していることが大きいのです。

最近の災害に伴う大規模停電の教訓から、重要性は言われるようになったものの、なかなか取り組みの進展しないエネルギーの地産地消。下川町では、町内の森林資源を活用してエネルギーの自給自足と低炭素化を推進し、さらには限界集落問題の解決にも挑戦しています

木質バイオマスで町に持続可能なぬくもりを

木質バイオマスボイラー
ボイラーは海外製の方が機能が安定しているそう

下川町は冬にはマイナス30度にもなる寒い町。どんな寒さなのか、筆者には想像もつきません。冬の光熱費がかさむことは容易に想像できます。

下川町では、町の経済の持続可能性を検討した時、化石燃料を購入するために町から出ていくお金に着目しました。町の面積の9割を占める森林こそ身近に使える資源。2004年から、未利用森林資源を原料にする木質バイオマスボイラーを導入しています。現在では11基のボイラーが稼働し、町中の公共施設の暖房を含む、町全体の熱消費の5割がこれで賄われています。

木質バイオマスボイラーとは、チップに加工された木材を燃やし、その熱で水を沸かすもの。地下パイプを通ってお湯が建物に運ばれ、暖房やお湯として利用され、残ったお湯は再びボイラーへと戻り、再び温められ、再度循環する仕組みです。

木を燃やして良いの? と思われるかもしれませんが、下川町の場合は、木の成長量以上に木は伐らない、切ったら植える、燃やす(エネルギー源)ために木は切らないというしもかわルールにのっとり森林資源を利用しているので、枯渇する心配は今のところありません。そして木を燃やすとたしかにその時は二酸化炭素が排出されますが、新たに木を植えることで再び炭素が固定されます。つまり、化石燃料のように燃やしたら二酸化炭素が放出されてそのまま、というのとは原理が異なるのです。

さらに言うと、下川町では、商品価値の低い木や広葉樹などをチップに加工しています。これもまた、この町が得意な「森の恵みをあまさず使いきる」の発想にかなったものなのです。

チップ加工①
丸太を次々にチップに加工
チップ加工②
こちらの機械は海外メーカーのもの

木質バイオマスの導入により、町では年間約1900万円の燃料コスト(化石燃料の購入費)と1200トンを超える二酸化炭素の排出が削減されています。その削減されたコストは、ボイラーのメンテナンスと子育て支援事業に生かされています。環境に良いことをして(低炭素なエネルギー生産と適切な森の管理)、お金を節約し、次世代を育てる事業に投資がされています。

代々手を入れてきた森の木を切り、これまで使い道がなく木材としては商品価値のない木もあまさず燃料にし、それで沸かしたお湯が町をめぐり、また木を植えて、60年後に使えるようにする。なんだか温かささが何倍にもなるエネルギーシステムです。

限界集落が抱える社会、経済の課題を、環境をてこに解決

下川町には、この木質バイオマスの活用を主軸に据えて、新たなコンセプトで再開発された集落があります。

それはかつて林業や木材加工業の拠点として栄えた郊外の集落、一の橋バイオビレッジです。ここは過疎化・高齢化で「限界集落化」していました。かつて2000人を超えた住民は2009年には100人を切り、商店も病院もなくなってしまいました。それが今、町外からの移住者に人気の住まいとなっているのです。

一の橋バイオビレッジ
一の橋バイオビレッジの全体像

一の橋バイオビレッジでは、町の真ん中、目につく建物の中に、木質バイオマス発電のための2台のボイラーが設置され、地下に温水パイプが張り巡らされています。

一の橋バイオビレッジの熱供給システム
熱供給システム、この中にボイラが設置されている

私たちが訪れたのは、みぞれ交じりの冷たい雨が降る日でした。ボイラー室内はほっとする温かさです。ボイラーは思ったよりもコンパクト、チップの投入も自動で行われ、定期的な点検のみで良いのだそうです。

ここでは、2010年頃から集落再生に着手し、町役場も地元住民も地域おこし協力隊も一緒になって、将来像を描きました。町の中心部には、コミュニティーセンターや食堂があり、自然と人が集まり交流できるような設計です。新たに建設された集合住宅は人気があり、常に満室なのだそう。

現在、ここでは、移住者でもある地域おこし協力隊員による活動、企業との共同事業や、移住者らによるベンチャービジネス立ち上げなど、インフラ依存とは違う、地域の活性化が取り組まれています。高齢化率は2009年51.6%から現在は27.6%ほどへと改善、生産年齢の増加につながっています。町はここでの取り組みの成果を、今後に生かそうとしているそうです。

自分たちがすでに持っているものを強みに、魅力的な町を作る

下川町での木質バイオマスの活用は、まさに「環境に良いことをするともうかる」の好事例。実際に燃料費というお金の面でのメリットがありますが、それだけではありません。環境に良いことをする町である、そういう暮らしがかなう町であるということが町の魅力となり、だから下川で暮らしたい、働きたいという人たちを引きつけ、町の活性化につながっています。

次回は、SDGsを活用し、さらなるサステナビリティ実現に挑戦する下川町が目指す「将来像」についてご紹介します。

次記事:SDGsはこう使いたい!取り組みたい!_下川町に学ぶ、2030ビジョンの作り方③

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