これまでGBGPでは北欧のサスティナブルな町づくりについては度々リポートさせていただいてきました。今回私たちが訪ねさせていただいたのは、北海道下川町です。
「第1回ジャパンSDGsアワード」(※1)で内閣総理大臣賞を受賞するなど、環境・社会・経済のサステナビリティに挑戦する町として、注目されています。※1「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部(本部長内閣総理大臣)」が創設した「平成29年度第1回ジャパンSDGsアワード」の本部長(内閣総理大臣)賞

北海道下川町の地図

下川町は、旭川空港から車で2時間、オホーツク海までわずか30分、という日本の北の端に位置する町です。最近ではさまざまなメディアやイベント等で下川町の取り組みについて見聞きすることができるものの、なぜ、どのようにサスティナブルの取り組みが成功しているのか、現地で見てみたい、話を聞いてみたい、という願望を温めてきました。

簑島豪様
下川町政策推進課SDGs戦略室室長 簑島豪さん

今回ご縁があって、下川町役場政策推進課 SDGs推進戦略室 室長 簑島豪さんにコーディネートいただき、2日間でさまざまな方にお会いすることができました。
下川町には、共感する人が集まり、住まう人が考え、動き、後世に残す。そんな地に足の着いたサステナビリティへの挑戦がありました。

下川町で取り組まれていることはとても幅広いのですが、今回の訪問で私たちがインパクトを受けたことをまとめると、次の3つ。

  • 森の恵みをあまさず使いきるための工夫が満載
  • 森林/環境との共存という価値に、多くの人が魅力を感じて集まっている
  • SDGsに通じる価値観がすでに育まれており、かつ、未来に向けてさらなる発展を目指している

今回は①について、ご案内します。

下川町のサスティナブルな町づくりの完成度に驚かされる

視察初日は、まず町役場で簑島さんが、下川町の取り組みの全体像をご紹介くださいました。

資料提供:下川町役場簑島様

まず私たちが感心させられたのは、その町づくりが、本気で環境をベースにしているのだということ。「環境を守る」というスタンスではなく、環境とともにあり、環境がもたらす恵みを活用し、さらに環境を豊かにして後世に残すことに、町全体で取り組んでいます。下川町において環境≒森林と言っても、差し支えないと思います。

下川町では、
・森林資源を持続可能に管理し
・森林資源の管理・活用で雇用を生み出し、
・癒やしや学びの場といった森林の多面的な機能を理解・活用し、
・未利用森林資源の活用でエネルギーコストを下げ、低炭素化を実現している
と、環境・社会・経済の3側面のサステナビリティを、森林をベースに実現しようとしています。

下川町は、森林資源の持続可能な管理に着手して70年

下川町の面積は約650km2(東京23区ほどの広さ)、その9割が森林です。
1950年代に国有林の払い下げを受け町有林とし、「毎年50haずつ木を植え、60年たったら切り、また植える」モデルを確立しています。最近になって初期の植林の伐採が始まり、循環の2サイクル目が回り始めました。
下川町では、林業の厳しい時にもその管理を放棄しませんでした。さらに価値を高め、持続可能な管理を継続していくために2003年という日本ではかなり早期にFSC/FM認証(※2)を取得し、現在では84.35km2が認証林です。
※2持続可能な森林管理・森林資源活用を推進する国際認証。詳しくはこちらの記事でどうぞ。

国際認証でも認められる、健全で持続可能な下川町の森林を体感

下川町役場の簑島さんは、私たちが下川の森を体感できるよう、すばらしいガイドをご紹介してくださいました。NPO森の生活代表理事の麻生翼さんです。

NPO森の生活麻翼さん
麻生翼さん

森の生活は、森林を保全するだけではなく、森との関わりを意識した心豊かな暮らし、持続可能な地域づくりを目指すNPOです。
この日はあいにくの天候でしたが、麻生さんのガイドで、森を見学させていただきました。北海道で主に植林されるのは、トドマツやカラマツです。本州のような杉は気候に適さないため植林されません。

麻生さんは、楽しみながら森について学ぶアクティビティを、いくつかご紹介くださいました。
・さまざまな種類の葉っぱを拾い、比べてみる
・大きな木の“子供”(芽を出したばかりの幼木)を探す
・樹齢を考えてみる
・立木の価格を計算してみる などなど

真ん中の木の”子供”を探しています

木をあまさず使う木材加工:木材加工会社『下川フォレストファミリー』

続いて麻生さんが案内してくださったのが、木材加工工場です。ここでは、下川産のトドマツ、カラマツを住宅・建設用の資材や家具用に加工を行っています。この会社はFSC/CoC認証(※3)を取得していますから、下川町のFSC/FM認証の森で伐採された木に、認証マークを付けて木材として出荷が可能です。
※3 FSC認証は、生産者のみならず、加工・卸業者も認証を取得しないと、認証マークの付いた製品を販売できない仕組みになっており、トレーサビリティが徹底されています。詳しくはこちらの記事をどうぞ。

木材加工の機械

丸太を加工する機械(手前が木のまま、奥では皮がむかれ、太さが均一に。木くずは白いパイプに吸い込まれていく。写真は北町工場にて)

大きな加工用の機械がたくさん並び、どんどん丸太が加工されていくさまも興味深いのですが、私たちが目を奪われらのが、工場内に張り巡らされた大きなパイプ。これで木くずは出たそばから回収され、ボイラーの燃料に使われ施設内の暖房に使われます。下川町が大事にしている、木材をあまさず使うが実践されています。
実はこの会社は、元は森林組合の一部門でした。外国産材に押されて業界自体が縮小、事業継続が困難になります。木材を生産する下川町から、集成材事業がなくなると地元経済の疲弊につながると考えた町内外の企業、町民が出資して2014年に株式会社として設立されたそうです。

木材に適さない木もあまさず使う:炭作り『下川町森林組合北町工場』

伐採された木のすべてが、木材加工に適しているわけではありません。そういった木材は、木炭に加工して出荷されています。下川町森林組合の事業部木炭小径木加工課 主任 石原良彦さんに、木炭加工の現場をご案内いただきました。

そもそも森林組合で木炭作り、というのも珍しそうです。伺ってみると、こちらの施設が作られたのが昭和57年。前年、湿雪によって、森林にも甚大な被害が及んだそうです。大量の倒木をどうにか生かせないか?という発想から始まったのが木炭工場。事業を始める発端が「倒れた木がもったいない」ですから、工場内も出てきたものをあまさず使う、ゼロエミッションが徹底されています。

木材加工に適さない細めの木材を焼いて、炭を作ります。そこで形の良くない炭は粉砕して、床下調湿剤などに加工されます。針葉樹のオガコから作られた土壌改良材・融雪炭素は道内で幅広く利用されている人気商品です。

この工場でさらに驚かされるのは、木炭作りの工程で出てくる「煙」や「木酢」までしっかり回収し、木材の防腐加工に使用しているということ。あまさず使うのは木だけではないのです!しかも副産物を活用して、製品の付加価値を高めています。原木加工により大量に出てくるオガコも、近隣の牧場で使われているそうです。

森に捨てられる葉っぱも、あまさず使う:エッセンシャルオイル『フプの森』

先ほどご紹介した木炭工場の敷地に、フプの森はあります。高品質の北海道モミエッセンシャルオイルやそれを使った化粧品を製造・販売している、地元の女性たち3人が営む会社です。こちらでは、代表取締役 田邊真理恵さんにお話を伺いました。

建物の真ん中にエッセンシャルオイルの抽出装置、そして商品が控えめに並ぶ木の棚。アロマスプレー、ハンドクリーム、エッセンシャルオイルの良い香りに癒やされながら、ここでも私たちは、森の恵みをあまさず使う、を目の当たりにします。

フプの森のエッセンシャルオイルは、トドマツを伐採する際、森に残される(利用されない)枝葉から抽出されます。いつどこで伐採があるのか、人のつながりで情報収集し、作業の邪魔にならないよう留意しながら、手作業で山から取ってくるのだそうです。そして抽出装置もオリジナルに図面を引き、作ったもの。
最近では、良質のエッセンシャルオイルを製造することに加え、先進のオーガニック化粧品会社と協働して、北海道産の原料にこだわり、森の香りを生かしたさまざまな化粧品作りにも取り組んでおり、並々ならぬこだわりが感じられます。
エッセンシャルオイルはそれ自体に効用があるものですが、下川の森の魅力を伝えたいという田邊さんたちの思いがまた、使う人に潤いを届けてくれるようです。

今回、お話を伺った皆さんに共通するのは、「森や地域は誰かが守ってくれる」といった態度とは真逆の、自分たちの営みを通じて、地域の資源をサスティナブルに生かそう、地域の魅力を高めよう、伝えよう、という姿勢です。自分の仕事とサステナビリティのつなげ方の、大きなヒントになると感じました。

次回も森の恵みをあまさず使う下川町の町づくりについて、ご紹介します。

次記事:森の恵みがもたらす、世代を超えたぬくもり_下川町におけるエネルギーの地産地消②


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