日本初のサステナブル・シーフードレストラン「BLUE」のオーナー、松井さんのストーリーから、「ビジネスの力で社会課題を解決する」について、学び、考えるシリーズをお届けしています。

第1回 社会課題に気付いた松井さん、地元福井での最初のアクション
第2回 更なるインパクトを生み出すため東京進出。仲間を見つけ、ファンを増やす 

松井さんが着々とファンを増やしてきたBLUEを一時閉店した理由。それはある構想を実現するためです。

サステナブル・シーフード普及を加速化するための仕組みとは

松井さんが今構想しているのは、より多くの飲食店/流通業者/加工業者が、サステナブル・シーフードを提供できるようになるための仕組みです。現状では、手続きの難易度の高さと費用の問題から、一つのレストランが独自にMSCASCCoC認証(※1)を取得するのには高いハードルがあるのだそうです。そのような課題を解決するために、認証を取得したい企業や事業所でグループを作り、そこに対して汎用性のあるマニュアルを作成したり、一括して書類作成や認証取得申請をすることで認証取得期間の短縮と費用負担の軽減をしより多くの企業でMSC/ASC認証を扱うことができるようになります。1メニューからでもMSC/ASC認証の水産物を扱えるようになれば、消費者への浸透も加速化します。それに加えて、伝えことが難しいサステナブル・シーフードの意味や専門知識をブランディングやリスクヘッジに使えるようなコンサルティングも提供します。そうすることによって、サステナブル・シーフードマーケットを拡大しマーケットから水産ビジネスにサステナビリティの定義を植え付け、日本の文化に沿った解決を目指します。

※1:CoC認証とは、MSC/ASC認証付の商品を、直接消費者に売る小売業者が取得しなくてはならない認証資格です

このような構想の背景にあるのは、サステナブル・シーフードに関して、『ビジネスを変えて、マーケットが変わり、政策を変える流れを作っていく』という大きな目的です。

「サステナブル・シーフードの普及には、『流通が変わらないと、大手の企業が変わらない』『いや、やっぱり消費者の意識が変わらないと』というように、ニワトリが先か卵が先か、の議論ばかりが目立ちます。そうではなく、一つの軸として動かしていくことが重要だと思っています。」(松井さん)

サステナブル・シーフードをめぐる日本と欧米との取り組みの格差

 「リテーラーの動きはとても重要です。海外ではそうでした。アメリカのほとんどの大手小売企業はとても厳格なサステナブル水産調達方針を持っています。そうするとサプライチェーン全体が変わります。日本でも小売企業がそうすると、まずい、あそこはこういう認証を取らないと入れてもらえなくなってしまう、というふうな反応が起こります。」

とはいえ、企業が取り組むにはさまざまなハードルがあります。多くの日本の食品関連の企業では、
「環境はCSRの担当、フードセーフティは品質管理、というように部門が違います。現在のMSCの基準にはフードセーフティの観点は入っていません。日本の消費者は、エコよりも、フードセーフティを気にします。だから別に取り組まないといけない、ここをどうやって一本にまとめるかが課題です。海外には、フードセーフティも含んだ認証もあります。」
日本ではやっとMSC/ASC認証が普及してきたという段階です。すると、自社にとってよりよい他の認証があることを知っていたとしても、使いづらい、そんな風潮も少なくないようです。
「ソーシャル・レスポンシビリティもMSC認証にはまだ含まれません。欧米ではサステナビリティの次の段階として、ソーシャル・レスポンシビリティ、トレーサビリティ、アニマルウェルフェア問題の解決に力をいれています。それが今日本にいっしょくたに課題としてやってきていて、どう対応したらよいのか?という感じになっています。
ソーシャル・レスポンシビリティとは、例えばその魚の漁獲方法や養殖の方法が、携わる人たち・関係するコミュニティの人権に配慮しているか、といったことです。魚を買う時に、それが自分に届くまでの人権問題にまで意識を持つ、そういう視点は、私自身も松井さんのお話を聞くまで想像もしませんでした。

サステナブル・シーフード普及に拍車、日本社会の動き

松井さんによると、2018年はサステナブル・シーフードをめぐり活発な動きが国内で起きています。

例えば企業の取り組みとしては、パナソニック株式会社は、まず本社から、そして2020年までには全事業所で、社員食堂で認証食材を使ったメニューを出していくそうです。

そして国レベルでは、20186月、水産庁が江戸時代ぶり(コメント:松井さん)とも言われる水産資源管理の方針の転換を含む、水産資源の改革案(※2)を発表しました。
※2:水産庁が「農林水産業・地域の活力創造プラン」を改訂し、「水産政策の改革について」という発表を行いました。
この改革方針には、例えばIT技術導入による魚のトレーサビリティ向上、といったことも含まれます。現在国際的に批判されている「IUU漁業(違法・無規制・無報告)」は、サステナビリティの観点からも重大です。国際市場が規制をして「“IUUではないことを明示できないなら買わない」という状況になってしまう前に、適切に対処することが期待されます。

サステナブル・シーフードとSDGs

松井さんはどのような未来の姿を、目指しているのでしょうか?
2年前に日本では肉と魚の消費量が逆転しました。一方で和食は無形文化遺産に登録されています。和食の基本はだしで、魚がベース、基盤が水産物です。その基盤が無くなってしまったら元も子もない話です。ウェディングケーキ型に並べられたSDGs(※3)を見ると、水産物(「14.海の豊かさを守ろう」)はベースです。つまり、社会の根本のところを支えられるようにしたいと考えています。

SDGsウェディングケーキ

引用:ストックホルム・レジリエンスセンターHP

※3:ストックホルム・レジリエンス・センター所長Johan Rockström博士と経済学者Pavan Sukhdev博士が発表した、SDGsウェディングケーキモデル。17目標の関係性を理解し、どのように課題解決をしていくか、ステークホルダーが相互に連携していくか、を理解しやすくするためのもの。

日本人の水産物消費を変えるという観点では、求める人がサステナブル・シーフードを選べる時代にしたいです。海外ではサステナブル・シーフードの取り合いみたいなことが起こっています。日本ではまだないですけど。サステナブル・シーフードの流通量は、ヨーロッパ1位、アメリカ2位、日本3位。しかし最近日本は中国やアメリカに買い負けしています。将来も、水産会社、小売り、消費者、皆がサステナブル・シーフードを選べる社会にしていきたいと考えています。」

ありたい未来の姿を実現するのに必要なもの:バックキャスティング思考

 松井さんが、現状に満足せず、次へ次へと進める理由。それは、持続可能な未来を具体的にイメージしているからだと思いました。

一方で、松井さんらは未来を見るだけでもありません。

小さく始め、素早く学習しながら次のチャレンジにつなげる。机上のマーケティング論ではなく、目の前にいるお客さんとの対話から学んで、次に工夫する。動きを大きくするために、仲間を見つけて、一緒に取り組む。

これらは、バックキャスティング思考で経営をするのに、大事だと言われている要素そのものです。

  • 未来のありたい姿を決めて、

  • 未来から振り返って現状を深く見て、

  • 創造的に、ステークホルダーを巻き込んでアクションに取り組む。

読者の皆さまのビジネスでは、どんな社会課題の解決に取り組めそうですか?取り組むことで、どんな新しいこと、イノベーションが起こりそうですか?

サステナビリティとイノベーションについて、より詳しく学びたい方はこちらのeBookをどうぞ。
サステナビリティとイノベーション 〜次世代への責任〜