皆さんはどんな時に人との距離が縮まったと感じますか?

先日ある大学の先生の研究室を初めて訪れた時、たくさんの難しそうな書籍が並んでいる本棚に1冊の絵本を見つけました。『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)という書籍でとってもかわいい絵本です(中身もとっても面白い!)。研究者は論文や専門書ばかりを読んでいるものだと思っていたので、ちょっとびっくりして「この絵本はどうしたんですか?」と聞いてしまいました。先生は笑って「うちの子供が好きな絵本で、自分も読んでみたら面白かったから置いているんです。」とおっしゃいました。その時のチャーミングさにすっかり緊張が解け、気持ちが和みました。

その方の人間的な部分を感じることができたことで、その後は自由に意見交換やお話をすることができました。ほんのささいなことのように思いますが、人の人間的側面に触れる経験というのはぐっと人と人の距離を縮めます。

リーダーの一番大事な要素はいかに「信頼・信用」を醸成できるかだと言われていますが、なかなか一朝一夕には信頼関係を築くのは難しいのが現実です。もちろん一緒に仕事をする中で言っていること、行動していることを一致させることで信頼を築き上げることはできますが、長い期間をかけて一緒に仕事をしたり、深いコミュニケーションをとったり、夜な夜な『飲みニケーション』をしたりしなくても信頼関係の入り口を開くことができると原田俊彦さんは教えてくださいました。

今回は、原田さんに教えていただいた、ポジティブリーダーになるための3つのステップのうちの2つ目、「ポジティブエナジャイザーとの信頼関係をつくる」をご紹介します(ポジティブリーダーシップについてはこちらの記事を、原田さんのステップ①の記事はこちらをどうぞ)。

※「働く喜び・生きる幸せ」を感じられる組織づくりをめざす株式会社ビジネスコンサルタントが、ミシガン大学のキム・キャメロン教授と、マキシオン・ホイールズ社の原田俊彦氏をお招きして開催したセミナー(『ポジティブリーダーシップの理論と実践』:201711112日開催)の講演内容から、ポイントを数回にわたりご案内しています。

ステップ② ポジティブエネジャイザーと信頼関係を築く

どんな組織にもポジティブエネジャイザーはいます。隠れていて目立たない場合もあるかもしれませんが、リーダーはそういう人材を見つけて、彼らとの信頼関係を早期につくらなくてはなりません(ポジティブエナジャイザーの見つけ方はこちらこちらの記事です)。

原田さんは新しいポジションで新しい上司・部下と仕事をするようになると、次のことを必ずしてきたそうです。

深い感情を込めたパーソナルヒストリーの共有

お互いのことをよく知りあうためにパーソナルヒストリーを人生のライフラインをベースに語り合います。(ライフラインというのは、こちらの図のようなものです。)ライフライン
そのために、原田さんの方から「あなたのことをよく知りたいし、私のこともよく知ってほしいから、1時間くらい時間をくれませんか」とお誘いをします。そして、15分ほどかけて自分の歩んできた人生を紹介します。子供時代の経験や、学校生活や部活動や受験のこと、学生時代の興味関心や就職や結婚をしてからの自分のことや家族のことなどを語ります。
ここでのポイントは、淡々と人生年表を説明するのではなく、ライフラインの起伏にあらわされるその時の感情(達成感、喜びや悲しみ、落ち込みなど)を含めて話すことだそうです。そして、次は相手にパーソナルヒストリーを語ってもらいます。「良かったらあなたのことも教えてください。職歴だけではなくて、小さいころの話、家族の話もしてくれますか。」と問いかけると、自分が語ったようにさまざまな出来事を話してくれます。原田さんの経験では、ほとんど断られることはないそうです。
30分~50分もあれば終わることですが、仕事上でもオープンに会話する関係性ができて、とても仕事を進めやすくなるそうです。
実際、セミナー中にキャメロン博士も原田さんもご自分の個人的な例を挙げたり、家族のことを話したりして、一方的な講演形式だったにもかかわらず、オープンで親しみやすい雰囲気を創り出していました。

協働できる範囲はAの領域:「ジョハリの窓」

このお話を聞いた時、私は「ジョハリの窓」を思い出しました。これは、1955年にサンフランシスコ州立大学の心理学者ジョセフ・ルフト とハリー・インガムが提唱した対人関係における気づきのモデルです。

ジョハリの窓

自己には4つの窓があると言われています。

A:【開かれた窓】自分は知っていて、他者も知っている自分
B:【無自覚の窓】自分は気づいていないけど、他者は気づいている自分
C:【隠された窓】自分は知っているけど、他者は知らない自分
D:【閉じた窓】自分も他者も気づいていない自分

お互いに協働関係を築く時のコミュニケーションのあり方を示したモデルで、生産性の高い関係をつくるにはAの領域を広げることが信頼関係を生み、A領域の範囲でのみ協働がうまくいくと言われています。
A領域を広げるには、まずは自分からC領域まで踏み込んで自分をオープンに語ることです。そして、相手から「○○さんがそこまでオープンになってくれるなら、私も私のことを話しますし、お互いに高めあいましょう」ということを言ってもらえるようになり、Bの窓が開き始め、どんどんA領域が広がっていきます。

原田さんのされているパーソナルヒストリーの共有というのは、まさに信頼を生み、協働関係を効果的につくるにあたってのとても大事なプロセスだと言えそうです。まずは自分から、「勇気をもって自分を出してみる」をはじめてみませんか?

次回は、最後のステップ3「1 on 1」について私の体験談をベースにご紹介します。
(グラフィック担当:株式会社ビジネスコンサルタント 遠藤麻衣子)


【ポジティブリーダシップシリーズ】
1.リーダーシップを科学する_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを①
2.リーダーに朗報!人の「ひまわり効果」とは_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを②
3.4つのマインドセットでリーダーは大きな太陽に!_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを③
4.影響力とエネルギー、リーダーにとって重要なのは?_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを④
5.リーダーシップとスポーツの意外な共通点_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを⑤
6.信頼関係を築くためには何を共有するのが効果的?_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを⑥
7.1 on 1でエナジャイザーを育てる_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを⑦
8.ゴールを成し遂げる!ためのツール_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを⑧


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