ひまわりなどの植物が太陽の動きに合わせて向きを変える性質をご存じの方は多いと思います。この性質が実は人間にもあった!ということがあきらかになってきています。この性質は「ひまわり効果(向日性効果)」といいます。これを踏まえてリーダーシップを発揮することで、とんでもなく好業績な組織作りも可能となるそうです。今回は、ミシガン大学のキム・キャメロン教授に教えていただいたひまわり効果イメージ

・人間の「ひまわり効果」とはどういうこと?
・なぜ「ひまわり効果」が良い結果をもたらすのか?

の2つをご紹介し、リーダーシップへのヒントを考えてみます。

※「働く喜び・生きる幸せ」を感じられる組織づくりをめざす株式会社ビジネスコンサルタントが、キム・キャメロン教授と、マキシオン・ホイール社の原田俊彦氏をお招きして開催したセミナー(『ポジティブリーダーシップの理論と実践』:2017年1月11・12日開催)の講演内容から、ポイントを数回にわたりご案内しています。

人間の「ひまわり効果」を示唆する実験

前回の記事では、「ポジティブな逸脱」に組織の皆が注目できるようなポジティブリーダーシップが、これからの組織づくりに有効であることをご紹介しました。キャメロン教授によると、皆をポジティブなエネルギーで照らすポジティブリーダーシップが理にかなっているのは、人間には生まれながらに「ひまわり効果」が備わっているからだというのです。

1.教師のポジティブな期待が、生徒の能力をより引き出す!

人のひまわり効果を示唆する実験の一つ目は、「ピグマリオン効果」として知られているものです。
3人の教師に対して初めに次のような説明をして、1年間それぞれ別のクラスを担当してもらいました。

教師A:「担当するのは、みな高いIQを備えた、とても優れた生徒たちです。」
教師B:「担当する生徒たちの能力は、バラバラです。このように多様性のある生徒たちを指導するのは大変です。」
教師C:「担当するのは、困難な環境に置かれてきた、難しい生徒たちです。有能な先生でなければこの生徒たちを指導することは難しいでしょう。」

実は各クラスの生徒たちの能力は同程度です。
1年の指導ののち、最も良い結果を出したのはどの生徒たちだと思いますか?

いちばんは、教師Aが担当した生徒たちでした。指導する側にポジティブな思い込み・期待があると、指導を受ける側の能力をより高める効果があることが知られ、以後さまざまな教育現場・機関で繰り返されましたが、同様の結果となっています。

2.目標への向き合い方で寿命が変わる!

2つ目は、修道女を対象とした研究です。ポジティブな態度で目標に向かうと寿命が延びるというのです!
75~104歳の修道女180人を対象としたリサーチです。修道院に入るときに書いた60年前の日記から「修道女になる」という目標に対して、2種類の傾向が読み取れました。

ポジティブで感謝の態度集団:これは私の夢の到達点だ、私は恵まれている
ネガティブで自己犠牲の態度集団:これは犠牲だ、大変な困難だ、何とかやり遂げよう

 60年後、ポジティブ集団では90人中70人が生存していた一方でネガティブ集団では90人中10人。10年ごとに生存数の差が広がり、平均してポジティブ集団の方が11年長く生きたことが分かりました。

3.日々感謝の気持ちを持つと、健康状態も判断力も創造性も高まる!

 キャメロン教授は、授業に参加する生徒たちに、1セメスター(3カ月)の間、毎日日記をつけることを義務付けています。

グループA:3つの感謝の出来事を記す日記をつける
グループB:3つの事件や問題について日記をつける

そして3か月後、様々なテストを受けてもらいます。すると、感謝の日記をつけたグループA

・インフルエンザの予防注射を受けると、抗体がより多く作られる
・判断力・記憶力や創造性のテストで好成績をおさめる

日々、感謝の態度で過ごすことで、身体的にも知的能力においても、良い結果がもたらされています。

「ひまわり効果」の理論的根拠

 ここまで、ポジティブな態度・見方が、長寿や健康、能力の向上といった良い効果をもたらすことをご紹介しました。でも「なぜそうなるの?」と思いませんか。キャメロン教授は、人の体のしくみから、ひも解いてくださいました。

 人間の脳/心拍/筋肉の収縮には、それぞれのリズムがあり、それらが調和するときが身体的にベストな状態「内的コヒーレンス」になると言われ、感謝の気持ちのようなポジティブな状態のときに生じやすいのだそうです。

 ハート・マス研究所の調査によると、強いストレスにさらされると、下図の左のグラフのように人間の心拍のリズムは乱れます。一方で、徳の高い状態、寛容な気持ち、そして感謝の気持ちの時には、右のグラフのように心拍のリズムが一定に整います。心拍のリズム 体の内部のリズムには、迷走神経の働きが影響しています。迷走神経は心臓のリズムや内臓の機能を支配し、体内の炎症を抑える機能も持っていて、ポジティブな状態のときに活発に働くことが分かっています。

このように神経系統が活発化し、体のさまざまな部分のリズムが整い、血液の循環もよくなり、健康や能力の向上がもたらされるということなのですね。

「ひまわり効果」はDNAに組み込まれたもの

人間の「ひまわり効果」について、さらに興味深いことも分かっています。キャメロン教授は、赤ちゃんたちに実験に協力してもらい、「ひまわり効果」は人間のDNAに組み込まれたものだと明らかにしたのです。

・ことばを話さない赤ちゃんも「徳のある」行動が好き

この実験は、言語を獲得する前の生後3カ月~8か月の赤ちゃんに対して行われました。

赤ちゃんが人形劇を見る

①赤ちゃんに30秒ほどのぬいぐるみ劇を見せます。劇に登場するのは次の3役。
主役のぬいぐるみ:丘を登って、箱を開けようとする
ぬいぐるみA:主役を手伝う
ぬいぐるみB:主役に乗っかったり、箱を蹴飛ばしたり、主役にいじわるをする

②劇を見た後、手伝ったぬいぐるみ、邪魔したぬいぐるみを見せながら赤ちゃんに聞きます。「どちらのぬいぐるみと遊びたい?

結果:90%の赤ちゃんが主役を手伝ったぬいぐるみを選びました。ここから、言語を獲得する前、すなわち文化的・社会的規範を内面化していない赤ちゃんでも、ポジティブな行動、徳のある行動を好むのだと言えるそうです。

「ひまわり効果」を知って、リーダーがすべきこととは?

「組織というのはとても複雑だし、ただ単に幸せ・前向きな個人を集めたからと言って効果的な組織が作れるということではないのでは?」と疑問を持たれた方はいらっしゃいませんか?キャメロン教授も組織の複雑性は認めています。それでも、さまざまなリサーチから、組織の中にポジティブな実践、ポジティブな関係性が増えて「徳の高い状態」になると、その組織の広い意味での業績(財務や品質、定着率など)が向上することは、統計的に正しいといえるのだそうです。

リーダーとして組織運営に「ひまわり効果」を反映するというのは、具体的にはどうすることなのでしょうか?ひまわり効果を発揮するリーダーひとことで表すと、「自分自身が大きな太陽になって、メンバーをポジティブなエネルギーで照らすこと」です。次回の記事では、グローバル企業でポジティブリーダーシップを実践して来られた原田さんに教えていただいた、リーダーとしてのマインドセットとやるべきことをご紹介します。

(グラフィック担当 株式会社ビジネスコンサルタント 遠藤麻衣子)


【ポジティブリーダシップシリーズ】
1.リーダーシップを科学する_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを①
2.リーダーに朗報!人の「ひまわり効果」とは_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを②
3.4つのマインドセットでリーダーは大きな太陽に!_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを③
4.影響力とエネルギー、リーダーにとって重要なのは?_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを④
5.リーダーシップとスポーツの意外な共通点_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを⑤
6.信頼関係を築くためには何を共有するのが効果的?_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを⑥
7.1 on 1でエナジャイザーを育成する_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを⑦
8.ゴールを成し遂げる!ためのツール_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを⑧


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