ノルウェーは北海油田を有する産油国です。ですから発電には化石燃料をたくさん使っているのではないか?と思われるかもしれません。しかしそんなことは全くなく、発電の96%が水力で、それ以外は天然ガスと風力となっています。発電によるCO2やその他の排出物の発生がほとんどなく、消費する電力の98%が再生可能エネルギーです2015年、IEAEnergy Policies of IEA Countries – Norway 2017 Review”より)。石油や天然ガスはイギリスをはじめとする諸外国に輸出して外貨を獲得し、化石燃料に依存する経済からの移行を目指し、国内ではサスティナブルな社会やビジネスを促進する政策を展開しています。

そんなノルウェーで急速に進む乗用車のEV化。新車販売に占めるEVのマーケットシェアは世界一で40%を超えています。前回の記事では、国・オスロ市が展開した、EV普及促進のための優遇政策の3本の柱をご紹介しました。でも、ただ制度を設ければ、人びとの購買行動をすぐに変えられる訳ではありません。また思わぬ副作用も発生します。優遇政策を効果的に機能させるためのきめ細かな取り組みがなされています。

人びとの反応を見ながら政策をスピーディーに変更

 ノルウェーで充実しているEV向けの優遇政策は、最初からすべてが整えられていたわけではありませんし、都度様々に見直しがされています。

例えば、人気を集めた「EVであればラッシュアワーにバス・タクシー専用レーンを走れる」という優遇政策。こちらは、EVが増えすぎて専用レーン自体が混雑し、バス等の運航に支障をきたすようになってしまったため、数年で見直されることとなりました。今では、1台あたり2人以上乗車していないと優先レーンを走ることはできません。
見直されてしまったから失敗というわけではありません。この2人以上乗車の制限を設けることで、今度は、車をシェアすることの大切さに市民が気づき、行動に移してもらえるように考えられているのです。

「そこで私たちは優遇政策を見直し、朝6:309:00のラッシュアワーには1台に二人以上乗っているEVでないと、タクシー・バス専用レーンで走れないようにしました。この見直しは効果がありました。そのために、EVによるゼロエミッションのカーシェアサービスも生まれたのです。これはとても良いことです。今後も、何がうまくいき何がうまくいっていないか、何を変える必要があるかを注視しながら、政策の変更を考えていきます。」(オスロ市都市開発部門EV担当 プロジェクトリーダー ストゥーレ・ポルトヴィック氏

充電スポット(チャージャー)の設置場所も変更されています。2008年には400台の充電スポットを設置しましたが、全て市街の路上に設置していきました。「こんなところにも、チャージャーがある!」と消費者が思うことで、買いやすくなることを意図してのことです。

「今は駅の近くのパーキングやショッピングモールに設置しています。市内に車で乗り入れるのではなく、郊外の駅にチャージャーを置いた駐車場を作り、電車で市内に通勤してもらうようにして、車の使用量を減らしています。」(オスロ市都市開発部門EV担当 プロジェクト開発担当 マリアン・モルメン氏

買いたくなる、乗りたくなるEVとは

 ここまでは行政としての政策を見てきましたが、実はもう1つEVが普及した大きな理由があります。それは、消費者が買いたいと思えるEV車種が増えたことです。

ノルウェーEV台数

ノルウェーのEV&PHEV累計販売台数(ノルウェーEV協会資料より)

このグラフをみるとわかるように、ノルウェーでは1990年代からEVに対する様々な優遇政策を実施したにも関わらず、結果的にEVに乗る人が急速に増えたのはこの5年ほどです。1990年代にはノルウェー産のEVがありましたが、販売台数がぐっと伸びているのは日産リーフなどの高性能なEVが買えるようになってからです。2008年以降、三菱iMievが参入、日産やプジョーも加わってどんどん車種が増え、バッテリーの容量が大きくなり、大きな収納スペースを備えた車が出てくるようになり、そこから本格的にEVが売れ出しました。1990年代のEV2人乗りで、荷物はバックしか積めないようなものでした。現在売れ筋の三菱アウトランダーやBMW i34人乗り、日産リーフは5人乗れて、後ろにスペースもあります。テスラモデルSなら7人乗れて、スキーに行く際にはスキー板を積むこともできます。

 「ノルウェーの半数の人は別荘をもっていて、山小屋のようなものです。冬、スキーに行ったり、夏にビーチに行ったりすることを楽しみにしています。そのようなノルウェー人にとっては、スキー板を積めるとか、ボートを積めるとか、そういったことが大事なのです。」(オスロ市役所 モルメン氏)

 ノルウェーでは様々な政策を実行し、世界に先駆けEV化に向けて動いていた結果、多くの自動車メーカーのトップらがノルウェーに視察に来ました。そういった機会に、直接メーカーへEVの仕様に関する市場の様々な要望を伝えるといった働きかけをし、それが魅力あるEVの市場導入へと功を奏した面もあるようです。

ノルウェーEV車種トップ5

直近1年間のノルウェーで売れている車種トップ5(”EUROPEAN ALTERNATIVE FUELS OBSERVATORYより作成)

(このグラフには出て来ませんが、2018年1月以降は日産リーフが”爆発的に”売れています。1月~4月で4,000台。新型モデル発売ですでに2017年の総販売台数を超えました。)

 EV普及の先に目指す街の姿:カーフリーシティ

多様なモビリティをゼロ・エミッションに

これまでは個人使用のEVに焦点が当てられていましたが、今ではフェリーや商業用の自動車やトラックもEV化に舵を切りました。そして公共交通機関は、2020年までに化石燃料を使うものを廃止する方向です。
すべてのモビリティがEVや水素、バイオガスに切り替わっていくだけではありません。オスロ市には、「2050年カーフリーシティ」という大きなビジョンがあります。

カーフリーシティという政策のコンセプトは、市の中心部から私用車を無くし、歩行者と自転車によってより良い環境をつくること、いわゆる文化的アレンジで街を活気づけるということです。そして、この政策は、次に重要な政策であるゼロエミッションとつながっています。」

EV専用駐車場(元は核シェルター)

EV専用駐車場(元は核シェルター)

「例えば、オスロ市では市中心部の700台分の駐車場を撤去する一方、EVタクシーやゼロエミッションである車を使う事業者向けには、新たに数百台分のEV専用駐車場を確保しています。EVタクシーは、内燃エンジンのタクシーよりも、顧客も、駐車スペースも、充電場所も、ずっと容易に見つけることができます。また、市民向けには、人々が私用車を路上に駐車しなくて済むよう地下のEV専用駐車場を拡大するなどして、道路を車ではなく、人のものにしよう取り組んでいます。」

「私はこの二つの政策はとても良いコンビネーションで、CO2排出を削減し、地域の大気汚染も改善しています。街がより良くより活気のあるものへなっていきます。オスロはこれからよりフレンドリーで健康的な環境のある都市になっていくと思います。」(ポルトヴィック氏)

 ノルウェーは、温室効果ガス排出量削減と大気汚染の問題への対策のためだけにモビリティのゼロ・エミッション化、EV普及の推進を図っているのではありません。その背景には、「どのような暮らしが未来の豊かな暮らしなのか」を考え、取り組む姿勢があります。結果として、EV普及だけでいうと、他の国の10年ほど先に行っています。それ以外にも環境や人びとのWell-Beingを中心に据えたこれからのノルウェーの取組みから目が離せません。 

(EVの画像:オスロ市役所作成資料より抜粋)


経済的インセンティブを効果的に機能させながら環境問題の解決を進めるノルウェーのアプローチからは、学ぶべき観点がたくさんありそうです!環境と経済の関係についてもう少し知りたいという方にはこちらのeBookがお勧めです。
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山田有佳

京都大学総合人間学部、同大学院人間・環境学研究科修士課程修了。専攻は文化人類学、クロアチアで戦災からの街の復興をテーマにフィールドワークを行う。
株式会社ビジネスコンサルタント入社後、企画営業、営業マネジャーを11年。現在はサスティナブル経営を目指す企業やそこで働く人たちに向けた情報発信や能力開発プログラムの開発を担当。サスティナブルな選択をするビジネスパーソンが一人でも増えることを目指している。