今日も忙しくてバタバタ、職場のメンバーの話をゆっくり聞く時間がいつも取れない。「話をする時間すら無い」、マネジャーの悩み事としてトップ3に必ずランクインすると言えるものです。しかし、こんな状況では人が育つような環境作りは到底できそうにありません。
新しい年が始まって、今年こそもっと良い職場にしたい、と思われれている方も多いことでしょう。この機会に、改めて自分自身と周りの人々へのケアを行き届かせ、お互いの成長を支援しあえる関係づくりに役立つエクササイズを試してみませんか?
今回は前回に引き続き、マインドフルネスをベースとした対人関係の質を上げるための「脳の筋トレ」エクササイズをご紹介します。マインドフルネスとは、「“いまここ”での経験に、判断や評価を加えることなく集中すること」。瞑想をベースとしたメンタルトレーニングで、トップアスリートやビジネスパーソンが取り入れ、Googleでも大人気の社内トレーニングとして実施されています。

最注目される感情のマネジメント

仕事の中でパフォーマンスを上げるために必要となる能力として、Emotional Intelligence(EI)が、今再び注目されています。IQに代表される認識の知能だけでなく、感情面や社会的な側面における知能として知られるEIがビジネスの成功の1つの要因だということは、ダニエル・ゴールマン著『EQ 心の知能指数』講談社(1996)で取り上げられてから広く知られるようになりました。

しかし、科学的に根拠がないことや、必要なのはわかるけれど、どうやって高めたらよいのか、その方法がはっきりしないといった批判がありました。

それが近年急速に発展している脳科学の研究によって、EIの構成要素と脳の機能が結びつき、さらにはそれを高める方法まで科学的な根拠をもって確立されてきました。そのためにリーダーが身につけておくべき能力として、改めて注目されているようです。

ちなみに現在、ダニエル・ゴールマン氏のEIの構成要素は以下の4つと言われています。

1.自己認識(Self awareness)
   自分や他者の感情に気づく能力
2.自己管理(Self management)
   感情に気づき、そこから起こる気持ちや衝動をマネジメントし、活動を
   成し遂げるために活用できる能力
3.社会性(Social awareness)
   他者の様々な感情を理解する能力
4.関係の管理(Relationship Management)
   目標達成のために感情をマネジメントする能力

前回は「1.自己認識」と「2.自己管理」の能力を高めるために「呼吸法」や「ジャーナリング」をご紹介しました。
今回は「3.社会性」や「4.関係の管理」などといった対人関係における力を高める方法をご紹介します。

自分も他者も慈しむ力とは

EIの社会性や関係性の管理のレベルを表現する“Compassion”(思いやり、慈悲)という言葉があります。
ここ数年、リーダーシップのキーワードとしてよく耳にするのですが、実際、LinkedIn社のCEO、ジェフ・ウェイナー氏が実践して、企業業績の向上や従業員からの支持率100%という結果※を導いていることでも注目されています。

※企業評価サイト「Glassdoor」が米国内の従業員1000人以上の企業を対象としてCEOの支持率を毎年調査しているもの。2014年の調査でウェイナー氏は従業員からの支持率100%を獲得し、ランキングで首位に輝いた。

思いやりとか慈悲といった日本語に訳されることが多いのですが、実際にはどういう意味なのでしょうか?言葉の意味を分かりやすくするために、似たような言葉と比較してみましょう。

Compassion:思いやり、慈悲
 他者の苦しみの本質を理解すると同時に、それに溺れず解決や成長の手助けをすること

Sympathy:共感、同情
 他者の苦しみや痛みを哀れむ感情

Empathy:感情移入
 他者が経験している苦しみや痛みを自分の経験として受け取る

Empathy や Sympathyは人を疲れさせ、燃え尽きてしまう危険があるのと比較して、Compassionは具体的に解決に向けた行動まで含むのです。また「ただ感情を理解し、手を差し伸べる」だけではありません。見返りとして「いい人」と思われるための行動ではないのです。相手が成長するためには、時に厳しいことを言って嫌われるかもしれないという覚悟も必要なのです。
そして、自分を二の次にした犠牲的な活動では、Compassionが持続しませんので自分のケアを怠らないこともCompassionの必須要素です。

LinkdIn社では、次のようなサイクルが回っているようです。
リーダー自身が心身ともに健康な状態を保ち、他者への気遣い、そして成長するためのサポートができるようになる。そして、そんなリーダーの下では、働く人々が幸せになり、成長します。そこから生まれた商品・サービスは社会の人々を惹きつけ、組織のパフォーマンスが上がる。

Compassionのためのエクササイズ

それでは、このCompassionを高めるためのエクササイズを1つご紹介します。

【Just Like Me/Loving Kindness】
思いやりの心をはぐくむプラクティス(慈愛の瞑想)

【実施法】
リラックスして座り、深く呼吸をします。知人(部下や一緒に仕事をしている人など)の誰かを思い浮かべながら、7分間呼吸に合わせて次の言葉を心の中で繰り返していきます。

・この人は身体と心を持っています。私と同じ。
・この人は感情、考えを持っています。私と同じ。
・この人は時に悲しんだり、落ち込んだり、怒ったり、傷ついたり、困惑したりすることがあります。私と同じ。
・この人は人生で身体的、心理的な痛みや苦しみを経験しています。私と同じ。
・この人は痛みや苦しみから解放されたいと願っています。私と同じ。
・この人は安全でありたい、健康でありたい、愛されたいと願っています。私と同じ。
・この人は幸せでありたいと願っています。私と同じ。

私は願います。
・この人がたくましさ、生きる力、人からの支援を得ますように。
・そして人生の困難をうまく進みますように。
・この人が痛みや苦しみから自由でありますように。
・この人が幸せでありますように。この人は仲間ですから。
・私が知っているみんなが幸せでありますように。

いかがでしょうか?
私は、最初体験した時、家族を思い浮かべて実施しました。とても心があたたくなって、感謝の気持ちと一緒に、これからもお互いを励ましあって大事に時間を過ごしていこうと心から思えました。

私の同僚は、コミュニケーションをとるのが苦手だと感じていた他部署の人を思い浮かべて実施したそうです。これが効果を発揮したようで、以前は一緒に仕事をすることを避けていたにも関わらず、自分から話しかけたり、仕事で協働しようとするようになりました。

これは1度実施したらずっと効果が続くというものではありません。毎日朝一番に、今日もっとも協働したい人を思い浮かべて実施すると少しずつ、仕事上での関係性に変化をもたらすことができるそうです。

少し長くてなかなか覚えられないので、私はこれを教えてくれたトレーナーの声の録音を再生しながら実践しています。自分の声だと気になってしまうので、どなたか落ち着いた声の方に録音してもらい、その音声を活用すると実施しやすくなると思います。


マインドフルネスシリーズ

1.「脳の筋トレ」でやりたいことをやれる集中力を高める_マインドフルネス実践①
2.「脳の筋トレ」で高められるリーダーシップとは_マインドフルネス実践②


ポジティブなエネルギーをもたらすリーダーはきっと今ここに集中できるマインドフルネスの実践家です。自分も周囲も活き活きできる職場作りに役立つ情報をもう一つご紹介させて頂きます。ぜひダウンロードしてご覧ください。

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廣瀬 沙織
東京工業大学大学院 社会理工学研究科 修士課程修了/ 一般社団法人日本ポジティブ心理学協会 理事。 株式会社ビジネスコンサルタントにて営業マネジャー職を担当。その後、同社における顧客組織の組織開発と人材開発への投資効果と投資効率を最大限に高めるための会員制サービスの商品戦略を担当。現在は同社の研究開発マネジャーとして、サステナブル社会の実現のため、ポジティブ心理学やイノベーション理論、自然科学ベースの戦略策定フレームワークに基づく商品開発およびその実践を担当。