「民間事業であれば利益が出ないなら事業をやめるとなりますが、路線バス事業はそうはいきません。現状では、路線バス事業というのはほとんど利益の出せない事業であり、そういう仕組みになっています。事業をやっているのだからもうかっているんだろうと見られますが、もうかりません。それでも、公共という名前がつく以上、路線バス事業はサスティナブルでなければならないと考えています。」(十勝バス株式会社 代表取締役社長 野村文吾氏)

 十勝バスの三方ならぬ「四方よし」経営に学ぶシリーズ第3回目。売り手よし、買い手よし、世間よし、競合相手よし、という4つの観点で、地域にも自社にも持続可能な未来をもたらす経営活動について考えます。十勝バスでは路線バスという、地域に住まう人々にとって身近で欠かせない交通手段を提供していること自体が「世間よし」を実践しているとも言えます。しかし、その顧客の捉え方や新規事業展開について伺うと、同社の「世間よし」にはさらなる広がりがありました。

第1回:十勝バスに変革へのエネルギーをもたらした「売り手よし」はこちら
第2回:十勝バスに業績向上の道筋を開いた「顧客よし」はこちら

顧客のライフサイクルに基づいて、自社のサービスとの接点を見直す

 市民がバスを利用するのは、主には通勤・通学・買い物・通院、が主な機会です。それをライフサイクルで考えると、次のようになります。

 路線バス事業では、子供たちの休日の外出に始まり、高校生の通学、20代から高齢者まで、通勤・通学、日常の通院や買い物のための移動手段を提供しています。それ以外にも、子育て中の世代が車は使えないけれど子供と遊びに行きたい、子育てを卒業した世代が平日に友人たちと小旅行をしたい、といったニーズにも応えています。そして
「高齢の方々では、自分で運転をするのには不安があるけれどもまだまだ元気に出歩きたい、そういったときにバスを使っていただいています。でも、さらに体力がなくなり、自宅から出られなくなったら?その時点でその人たちはもはや顧客ではないことにしてよいのか。長年バスを利用してきてくださった方々を、高齢で出歩けなくなったからと言って顧客から外してしまってよいのだろうか?それは企業としてサスティナブルではないのではないか?と考えました」
野村社長らは、こんな発想に至ったそうです。戸別訪問で分かった地域や市民のお困りごとを解決でき、十勝バスの知名度が生きる新たな事業は何か?そして取り組み始めたのが、高齢者向けの介護事業や学童保育教育事業、そして2017年から挑戦している便利事業です。

新たな挑戦:困りごと解決の便利事業

十勝バスBenry十勝バスは、20179月、帯広駅前に「ベンリーかちばす帯広大通り店」をオープンしました。これは愛知県に本社を置く株式会社ベンリーコーポレーションとのフランチャイズ契約による生活支援サービス事業です。野村社長らは、このビジネスモデルが、

①地域の人たちの暮らしのお困りごとを解決するビジネスであることと
②人財育成に徹底的にこだわっていること

などから、新たに取り組もうと決めたそうです。

この事業は、20代から高齢者までと幅広い年齢層が顧客になります。サービス内容も『困りごとの解決』がテーマなため、不用品の片付け、リフォームまではいかないちょっとした住宅の修理、雪かき、庭掃除、さらにはクリスマス会のサンタクロース役と非常にさまざまです。例えば、「帯広を離れ首都圏に住むお子さんから、ご高齢の両親宅の除雪や不用品処理を依頼されることがありました。遠くて自分では手伝えないことを、ご家族に代わり私たちが、ご両親が希望するタイミングでお手伝いでき、かつ安否確認にもなるということで喜んでいただきました」(十勝バス株式会社 総務課課長代理 葛目義隆氏)

自社の「原理原則」が生きる事業に挑戦

この事業は、2回目でご紹介した十勝バスの「戸別訪問」とも非常に親和性の高いものです。

十勝バス株式会社葛目様

十勝バス株式会社 葛目義隆さん

「あるご依頼でご自宅に伺います。それをお手伝いさせていただいたのち、お宅の中を拝見しながらお話をします。すると、古い家具など本当は片付けたいけれども動かせない、どうしたら良いか分からない、といった風に、できなくて我慢されていることがおありで、次のお手伝いにつながります。先日は、亡くなった御主人がお作りになった家具が壊れてしまったのをそのままに置いてあり、直してほしいと。新しい材料を使うのではなく、あくまで元の板で直してほしいというご依頼でした。1対1でお話をして、課題を顕在化しています。」(葛目さん)

これからの「世間よし」は、ありたい未来の社会をイメージして、自社のビジネスを変革すること

 最初にご案内したように、十勝バスでは顧客のライフサイクル全体を見渡して、自社との接点を考えています。その前提には、野村社長らが考えるあるべき社会の姿があるのではと感じました。

地域の人たちや訪れる人たちが、行きたいときに行きたい場所へ移動するための交通手段がある
地域の将来を担う子供たちに、安心・安全で楽しい居場所がある。それだけではなく、子供のころから誇りを持ち、地域愛を育んでいる。
お年寄りが生き生きと暮らせている
家族のつながり、近所のつながりがあり、助け合いができる

バスで解決できることはさらに利便性を高め、バスでは解決できないことは新規事業でという十勝バスの挑戦は、「世間よし」を体現していると言えるのではないでしょうか。

「僕は地方都市がどうしたら活性化するかと言うと、街づくりの非常に重要なインフラである交通を活性化すれば、間違いなくその地域が活性化すると考えています。十勝バスが皆さんに認められて輝き始めた時に、それと歩みを同じにして十勝の人たちも輝きだして、北海道の中でも一番元気のある地域だよねと認められるようになってきた。僕はそれを見て、手前みそな言い方ですが、十勝バスが良くなったのを見て、十勝市民の皆さまが『あの十勝バスができるなら』と、勇気・やる気を持たれたのではないかと思うのです。最近は地域にこういうことやりましょう、と盛んに持って行っています。社員たちには迷惑をかけているんだけれども。週に10時間会社にいることを目指しています(笑)。」(野村社長)

次回はいよいよ十勝バスの「競合よし」について。持続可能な未来の作り方を、引き続き学んでいきましょう!どうぞお楽しみに。


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山田有佳

京都大学総合人間学部、同大学院人間・環境学研究科修士課程修了。専攻は文化人類学、クロアチアで戦災からの街の復興をテーマにフィールドワークを行う。
株式会社ビジネスコンサルタント入社後、企画営業、営業マネジャーを11年。現在はサスティナブル経営を目指す企業やそこで働く人たちに向けた情報発信や能力開発プログラムの開発を担当。サスティナブルな選択をするビジネスパーソンが一人でも増えることを目指している。