公益社団法人 旭硝子財団では、「ブループラネット賞」の顕彰事業と共に、世界がどれほどの環境危機に直面しているかを示す「環境危機時計®」を毎年発表、地球環境危機について広く伝えるための事業を行っています。

「環境危機時計®」とはどのようなものなのでしょうか。そして、これらの活動を通して浮かび上がる地球環境問題解決に向けての現状と課題について、公益社団法人 旭硝子財団の安田哲朗事務局長にお話をうかがいました。

2014年の「環境危機時計®」は9時24分

出典:旭硝子財団

「環境危機時計®」とは、その名の通り、地球環境がどれだけ危機的な状況に近づいているか、を表している時計です。「ブループラネット賞」と同じ1992年から、一般の人にもっと環境問題に目を向けてもらい、意識を高めてもらうことを目的に始まりました。世界中の環境問題に関わる研究者や専門家、NPO団体、ジャーナリストら(2343件)に「地球環境問題と人類の存続に関するアンケート」を行い、今、地球が直面している危機感を時間として表現してもらったものを統計処理して発表しています。12時に近づくほど、危機に近くなり、1992年の調査開始時は7時49分。2014年は昨年より4分進んだ9時24分でした。

この「環境危機時計®」は実際に地球環境が悪化したかどうかではなく、環境に関わる人々が持つ危機感を示しているというところがポイントで、そうした目で過去の推移を追っていくと興味深いことがわかります。たとえば、調査以来、最も危機感が強まったのは、2008年の9時33分。2007年のサブプライムローン破綻に端を発し、リーマン・ショックという世界的な金融危機が起きた年です。金融危機により、多くの国、企業がダメージを受けたことで「地球環境問題解決に向けての取り組みがストップするのではないか」といった懸念が見てとれます。こうしたことからも、環境と経済は深く関わっていることが読み取れます。

しかし、その後、時計は9時20分前後で推移しています。2011年の東日本大震災、原発事故の際は、むしろ9時01分と少し改善しています。2011年になぜ改善したのかは、詳しい分析ができていません。ただ、地球環境はあらゆる面で悪化の一途をたどっているというのが現実です。しかしながら、「環境危機時計®」は、人々の危機感を表しているだけなので、「想定通り悪化している」と、織り込み済みの悪化に対しては危機感を抱かなくなってしまうという傾向があるようなのです。

人口問題を気にする北米、環境汚染と水資源を気にする中国

また、「環境危機時計®」の調査報告書では、アンケート調査に回答する際、環境問題の中でも気候変動、環境汚染など、どの項目を念頭に置いて答えたかを記入してもらい、それを国別、または地域別にまとめたグラフを発表しています。

このグラフからもまた興味深いことが分かります。多くの国で「気候変動」の問題に危機感を感じていることは確かなのですが、よく見ると、同じ「環境問題」といっても、懸念されている内容は国、地域毎に大きく異なっているのです。

たとえば、日本では「気候変動」について危機感を抱いている人が圧倒的に多いですが、すぐ近くの中国では、むしろ「環境汚染」と「水資源」について強い危機感を抱いていることがうかがえます。また、南米では「土地利用」に危機感が強く、西欧では「気候変動」と共に、「生物多様性」に関心が高くなっています。

中東では、やはり多くが「水資源」に危機感を抱いているとともに、不安定な情勢を反映してか「環境と社会」「環境と経済」にも高い危機感を示している人がいます。

不思議なことに、米国、カナダ、そしてオーストラリアでは、「気候変動」と共に「人口」について高い危機感を示しています。ここで懸念している「人口問題」は、自国の人口問題ではなく、世界的な人口増の問題について危機感を持っている、ということの表れなのです。

このように見ていくと、一言で「地球環境問題」と言っても、その言葉から思い浮かべる問題は、国や地域、個人によって様々であり、世界中の国が協力しあって解決にあたるためには、このような違いについて互いに理解し合うことが不可欠だということが分かります。

―――>(4)100年後も生き残るために我々が今やるべきこと へ続く

安田 哲朗(旭硝子財団 事務局長、顕彰部長)

1951年 京都府生まれ。神戸大学理学部卒。MBS(マンチェスター大学MBA)卒、製造会社経営企画部長等を経て、2009年に公益財団法人旭硝子財団 事務局長に就任。世界的な環境賞であるブループラネット事業、地球環境問題のアウェアネス促進のための環境危機時計®などの事業を手がけ、国内外の環境機関、研究者、活動家と連携し同事業の認知度の向上を図っている。

 

【サスティナブル事例】ブループラネット賞顕彰を通して~旭硝子財団の活動

  1. 環境問題のノーベル賞!?「ブループラネット賞」を知っていますか?
  2. どれほど環境危機を伝えてもなにも変わらない理由とは
  3. 進みつつある「環境危機時計®」が教えてくれること
  4. 100年後も生き残るために我々が今やるべきこと

いかがでしたでしょうか?地球環境問題の解決がなぜ進まず、今後どうすれば良いのか、公益財団法人旭硝子財団の安田哲朗事務局長にお話を伺い、4章にまとめました。本記事では3章のみお伝えしましたが、以下より4章すべてをご覧いただけます。是非ダウンロードして、貴社の取り組みにお役立てください。

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