株式会社ビジネスコンサルタントでは、2022年4月、Well-being共創ラボを設立しました。2022年12月時点で100組織を超える賛同パートナーの方々がいらっしゃいます。

このシリーズでは、2022年9月に開催をした、Well-being共創ラボの初めてのイベント、Well-being共創会についてご紹介します。今回の記事では、基調講演『なぜウェルビーイングが求められるのか~よく生きるために~』に登壇いただいた妙心寺退蔵院副住職松山大耕さんのお話(前編)をご紹介します

GBGPではこれまで、リーダーシップやイノベーションについて、禅の視点から松山さんにお話を伺ってきました。こちらの記事も、あわせてどうぞ。

松山大耕さん

妙心寺退蔵院(京都市左京区)副住職。お寺を継ぐことを期待される長男として生まれる。中高はカトリック系の学校に通い、大学では農学を専攻。「自分の運命を自分の努力とは関係なく決められている」ことへの反発から、僧侶ではない道を目指そうとしていた。しかし、研究の一環で訪れた長野県で、素晴らしい僧侶との出会いがあり、禅の道を志すことに。3年半の修行を経て、京都に戻る。世界の宗教家との交流、ビジネスパーソンや学識者との協働等、さまざまな取り組みを通じて、禅や日本文化について発信している。


「お寺で研修をしよう」と聞かれると、どんなイメージを持たれますか?かつては京都の地元企業が新入社員研修などで訪れることが多かったそうですが、現在では、日本を代表するグローバル企業が、お寺で、場合によっては国内だけでなく海外の社員を呼び集めて研修や会議を開くのだそうです。

松山さんによると、お寺での学びには3つの価値があります。

1.場を変える

場を変えることで発想が変わる。禅の価値観に触れ、自分を見つめ直す。

2.長く続ける秘訣を学ぶ

禅は、今から2200年ほど前にインドで誕生し、中国を経て800年ほど前に日本に伝わりました。妙心寺が創建されてから650年。なぜひとつの組織がこれだけ長く続くのか、その秘訣を知りたいとシリコンバレーはじめ世界の起業家、ビジネスパーソンからも注目されています。

3.感性を磨く

お寺での修行体験というのは、座禅や写経をするだけではありません。そのことだけに集中する掃除や食事なども含まれます。こうした実践を重ねることで五感が鋭くなり、その先に感性が磨かれます。変化の激しい時代こそ、自分なりの判断に自信を持つために、感性が重要になります。

今の時代だからこそ、自分を見つめ直すことの重要さを感じ、禅から学びたいと考えるビジネスパーソンが多くいるのですね。さあ、ここからは、松山さんの基調講演『なぜウェルビーイングが求められるのか~よりよく生きるために~』をご紹介します。

なぜウェルビーイングが求められるのか

今、ウェルビーイングへの注目が高まっています。なぜでしょうか。

良い大学を出て良い企業に入り、会社で留学をさせてもらって海外でMBAを取得し、マネジメントする立場にあるような40代の方ですら、自分が何をやりたいかわからないというような人が増えていると聞きます。本当のやりがい、やりたいことがどれだけキャリアを磨いても見つからないという人は、相当いるのではないでしょうか。ほかにも、最近見かけた記事では、日本企業では2010年ぐらいから働きやすさのスコアが向上されているのに、2013年あたりから働きがいのスコアが落ち始めているそうです。働きやすくなっているのに働きがいを感じなくなっている、これも非常に示唆的だと思います。多くの人が働きながら、いまいち働きがいがない、何か充実してないなと感じている。ウェルビーイングを感じていないからこそ、多くの方がウェルビーイングと言い始めているのではなないでしょうか。現代社会でウェルビーイングがどういう関係にあるのかということを、私が今まで感じたことからご紹介させていただきます。

ブータンでの歴史的寺院の修繕修復プロジェクト

私は、7年ほど前からヒマラヤの小国ブータンとご縁を頂いています。ブータンは北が中国、南がインド、大国に挟まれた約70万人の国です。面積は九州ぐらいの大きさで、敬虔なチベット仏教の国です。

どういうご縁かといいますと、ブータンで最も古いお寺のひとつ、ドゥンツェ・ラカンの修復のお手伝いです。この寺院は、ブータンでは大変由緒正しき、そして宗教的にも重要なお寺です。

しかし、築600年となり、雨季になるとたくさん降る雨などの影響で、躯体が傾き、内部にある貴重な宗教画がダメージを受けるなどしており、修繕修復が必要な状態でした。

ブータン寺院ドゥンツェ・ラカン 修復前
ドゥンツェ・ラカン

しかし、ブータンには、昔からブルーカラーのワーカーがいなくて、大体インドとかバングラディシュから人がやって修繕修復をします。チベット仏教では、新しい物には功徳があるという信仰がありまして、ブータンのお寺の修繕修復は、1回壊してゼロから建てるという、もはや新築なのです。しかし、今の国王のおばあさまに当たる皇太后妃が、「せっかくこの素晴らしい壁画があり、皆さんからの信仰もあついお寺を全部壊してしまうのは忍びがない」と。「今あるこのお寺をちゃんと修理修繕しながら、次世代のお人たちに伝えていきたい」。こうお考えでした。

この仏教関係の建築、修繕修復は日本が世界一の技術を持っています。日本から匠にブータンに来てもらって、修繕修復をしながら、できればその技術を現地の人たちに伝えてほしいという、そういうご希望を、私は皇太后妃より承りました。

そこで、愛知県にお住まいで、熊本城の修復などにも携わられた匠がいらっしゃるのですが、私はその方にお願いをしまして、ブータンに直々に行っていただきました。結局2年弱かけて、このブータンの古びたお寺は、綺麗に修繕修復されました。

モンゴルで出会った、ブータンのGNH開発者

さて私は、コロナの直前の秋、日本政府の依頼で、モンゴルで開催された国際会議にも行ってきました。モンゴルも、実はチベット仏教の国です。チベット語圏は、ロシアの南からモンゴル、チベットからブータン、ネパールこの辺りまで広がっています。チベット仏教の最高指導者をダライ・ラマといいますが、この言葉自体がモンゴル語です。今までのダライ・ラマも、3人がモンゴルから選ばれているそうです。

そのモンゴルで私、ある方にお目にかかりました。ダショー・テンジンという、ブータンの方です。医者であると同時にさまざまな国の要職を務められて、大変有名な方です。若かりし頃アメリカのヴァージニアに留学をされていて、ある気づきを得られるわけです。「確かにアメリカ合衆国というのは物質的に大変恵まれていて豊かな国である。しかし、周りを見渡してみると、あまりみんな幸せそうではない。しかし、自分の生まれ育ったブータンという国はアメリカほど物質的には恵まれていないけれども、みんなとっても幸せそうであった」と。「国の豊かさは、今はGDP、国内総生産で表現されることが多いけれども、そうではないのではないか。国民がどれだけ幸せであるかということで、国の豊かさは評価されるべきなのではないか」と思い至り、ブータンに帰られてから、国民総幸福量、GNHという指標をつくられたのです。このような方にたまたま国際会議でお目にかかったので、お写真を撮らせていただき、ちょうどその2カ月後に再びブータンを訪れました。

ブータンのGNHはブータン国民のためのもの

それが、先ほどお話したお寺の修繕修復が完成した記念式典だったのです。美しく修繕修復されまして、皆さんとっても喜ばれ、ブータンの国中からお坊さんたちが祝福に来て、式典がございました。

ブータン寺院ドンツェ・ラカン修復

ブータンの皇太后妃は、とても聡明な女性でいらっしゃって、この記念式典の折に、私は皇太后妃にモンゴルでダショー・テンジンにお会いしたお話をしたのです。すると、皇太后妃が、すごく面白い話を教えてくださいました。

数年前、ブータンがGDPではなくGNH、国民総幸福量を最大化するために国を一生懸命豊かにしようという活動をやっていると聞きつけて、国連の特使がやってきたそうです。GNHは素晴らしい発想だから、ぜひ世界に広めたいということで国王に面会されたそうです。しかしながら、国王はそれに反対されたそうなのです。私は「なぜ国王は反対されたのですか」と皇太后妃にご質問しました。国王はこうおっしゃったそうです。「この国民総幸福量という指標は、ブータン国民のためにつくった指標である。それを世界共通にして数値化し、点数を競い合うようなことになると必ずおかしなことになる」と。

私は素晴らしいお考えだと思いました。例えば、毎年国連が発表する世界幸福度調査のランキングでは、デンマーク、フィンランドといった北欧諸国のスコアが高くて、大体85点とかです。対して日本は、66点とか65点ぐらいで、OECD諸国の中では下から1番目か2番目です。日本は、段々国力も落ちてきているし、みんな幸せではなくなってきているし、日本は全然駄目だといったような論調があるわけです。

しかし、私は、これはフェアじゃないなと思っています。何がフェアじゃないかというと、せめてこの統計をとるんだったら、もう一つ質問しないといけません。何かというと、「あなたの理想は何点ですか」と聞かなければいけないと思うんですね。

欧米では、もちろん100点が理想ですから、大体皆さん100点とおっしゃるでしょう。しかし日本では、例えば「初詣に行ったときにおみくじを引いて、大吉より中吉の方が良かった」みたいな人は結構いますよね。大吉だったら伸びしろがないからそれは嫌だ、少し伸びしろがある方がいい。腹八分目というのは日本の文化だと私は思います。理想は80点という人は結構多いと思うんですよ。そう考えると、理想100点のうちの80点と、理想80点のうちの64点、あまり変わらないじゃないか、と思うのです。ですからブータン国王がおっしゃったように幸せの定義は国によって違う。しかも、最終的にはやっぱり個人によって違う。それをちゃんとご指摘されたブータン国王は素晴らしい方だと思っています。

ですから、この幸せ、ウェルビーイングというのは、世界中でも非常に注目されていますが、数値化して世界で比べるといった話になってしまうとむしろ幸せから遠ざかっていくという。そういう矛盾をはらんだ概念だと思います(後編に続きます)。


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