株式会社ビジネスコンサルタントが主催するWell-being共創ラボでは、2026年2月20日、ラボのパートナーの皆さまと共に学び、対話する場であるWell-being共創会を開催しました。掲げたテーマは「みんなで未来をつくるリーダーシップ」です。講演には豊岡市元市長の中貝宗治氏をお招きしました。兵庫県北部に位置する豊岡市は、そのユニークな地方創生の取り組みで全国から注目されており、中貝さんはそのためのさまざまな変革をリードされました。
今回のレポートでは、中貝さんが長年尽力されてきた豊岡を「小さな世界都市」にするための取り組みをご紹介し、中貝さんのメッセージから私たちが受け取った、未来をつくるリーダーシップ実践のヒントをお届けします。
中貝宗治氏

兵庫県豊岡市元市長
一般社団法人豊岡アートアクション理事⾧
兵庫県豊岡市出身。2001年から20年間市長を務め、人口減少という複雑な課題に独自の視点で取り組む。コウノトリの野生復帰、城崎温泉等を活かしたインバウンド強化、演劇を起点とするまちづくりなど地域資源を磨く施策で知られる。また、企業と共に進めたジェンダー平等の推進は他地域からも注目されるモデルになっている。現在はアートを軸にしたまちづくりに取り組むとともに、変化の時代に必要なリーダーシップについて発信している。
Well-being共創ラボとは
Well-being共創ラボは、株式会社ビジネスコンサルタントがさまざまな組織の方々と共に学び、実践を重ねてウェルビーイング経営の実現を目指しているコミュニティです。
第6回Well-being共創会は、組織の未来をつくるためにリーダーシップはどうあるべきか、講演や対話を通じて、学びを深めるとともに自分自身のリーダーシップを見つめ直す機会として開催しました。
なぜいま、未来をつくるリーダーシップなのか
私たちが直面している、不確実で変化の早い状況。このような時だからこそ、リーダーシップには、自分たちが向き合うべき課題の本質を見定め、誰もが目指したいと思える姿をビジョンとして描くこと。そして、ビジョンを語って仲間をつくり、皆が活躍できるスペースをつくって持続可能な取り組みにつなげることが求められます。
今回登壇くださった中貝宗治さんが20年間市長を務めた兵庫県豊岡市は、独自のアプローチによる地方創生で知られています。後ほど詳しくご案内しますが、地方創生こそ、中長期の戦略的な視点が求められる取り組みです。
豊岡市では、世界初の試みであるコウノトリの自然復帰を実現し、さまざまな立場の人が協力して、地域の豊かな自然環境を取り戻す活動が定着しています。最近では、人口減少とジェンダーギャップのつながりに着目した「豊岡メソッド」が注目されています。市と地域企業が連携してワークイノベーション推進とジェンダーギャップの解消を目指す試みに学ぼうと、多くの人が視察に訪れています。
なぜ豊岡市は、地域の資源を生かしながら外ともつながり、独自性にあふれ、多くの人が関わらなければ成功しない取り組みに挑戦し続けられるのでしょうか。そこには、中貝さんの”未来をつくる”リーダーシップが大きく影響していました。中貝さんが多様な立場の人と共に進めた豊岡市の実践からは、企業の組織運営にも役立つ学びが数多くあります。
リーダーとして、変われない・変えられないという閉塞感をはねのけ、どのような未来を語るか。大きな変化のために異なる立場の人々をどう巻き込むか。本質的な課題解決のための視点をどうしたら持てるのか。こういった観点で、中貝さんのお話をご紹介します。

地方創生の本当の課題は何か
現在、日本のあらゆる地方自治体が取り組んでいるのが地方創生です。中貝さんによると、地方創生とは、つまるところ人口減少対策です。地方においては首都圏や近隣の大都市へ若者が流出することにより人口減少が進み、地域社会の衰退がはじまっています。この流れを止めることはできないものの、何とか目標を定めてスピードを緩める努力をする。これが地方創生の現実です。
地方創生という名の下で、地方が闘っている相手は、大都市です。端的に言えば東京です。東京には挑戦的でより条件の良い仕事があり、経済的にも文化的にも魅力を備えています。大都市と地方とで若者を奪い合い、そして地方が選ばれてこなかった結果が人口減少です。ですから中貝さんは、豊岡市長として取り組むべきことは、「突き抜けた豊岡に暮らす価値」をつくることだと考えたのです。
「深さと広がり」、地方ならではの対抗軸
中貝さんが県会議員であった2000年代前半、地方政治のキーワードは「大都市との格差是正」でした。しかし中貝さんは「格差、格差是正とばかり言っていては、自分たちから劣っていると認めていることになり、誇りにつながらない」と感じていたそうです。
資本力のある大都市には、インフラや利便性といった「大きさ・高さ・速さ」が備わっています。資本力で、地方が大都市と競うことはできません。そこで豊岡市が見つけた対抗軸が「深さと広がり」でした。深さというのは蓄積のことです。その地域の自然や歴史や伝統や文化にどれだけ根ざしているか、それが深さです。そして、広がりというのは、端的に世界とつながるということです。SNSやAIの進化で、だれもが自分で情報を発信し、世界の人に知ってもらう、そういうつながり方が現実のものになっています。
グローバル化で、世界では急速に均質化が進んでいます。その中で突き抜けた独自性を示せれば、おもしろい町だと認められるのではないか。そうして掲げられたのが「小さな世界都市」という豊岡市のビジョンでした。英語にすると、「Local& Global city」。「小さな」はSmallではなくLocalです。地域に根差した魅力を、世界に突き抜けるものへと育てることで、人口規模は小さくても世界の人々から尊敬され、尊重されるまちをつくる、という意図が込められています。
「小さな世界都市」を支える4つのエンジン
豊岡市は「小さな世界都市」の実現に向けて、「深さと広がり」というキーワードのもと、さまざまな施策を展開してきました。
環境都市「豊岡エコバレー」の創造
コウノトリの野生復帰を一つのシンボルとして、コウノトリ“も”暮らせる自然豊かな環境をつくる。自然資本の充実と経済が循環するまちづくりとしての「環境経済戦略」を打ち立て、環境行動自体を持続可能にすることを目指す。
受け継いできた大切なものを守り、育て、引き継ぐ
城崎温泉をはじめ、独自の日本らしさを備えた観光資源を生かし、インバウンドを推進。城崎温泉の外国人観光客数は、統計を取り始めた2006年の961人から、2025年には102,270人まで伸長。
深さをもった演劇のまちの創造
アート、特に演劇のもつ、個人の内面のみならずまち自体に与える影響力をまちづくりに生かす試み。近畿に現存する最古の芝居小屋の復活、日本初の本格的アーティスト・イン・レジデンスの開設、豊岡演劇祭、ダンス・演劇・観光の県立専門職大学の設立。
ジェンダーギャップの解消
企業との連携、学校教育、地域の自治会の意識改革など、重層的な取り組みを展開。一番の特徴は、地域企業が参画する「ワークイノベーション推進会議」というプラットフォームを作り、企業と共にジェンダーギャップの解消に取り組んでいること。ジェンダーギャップを人権問題ではなく経済問題とし、地域の経営者を巻き込んでいる。
3つ目までは、豊岡市が世界に突き抜ける魅力を備えるためのエンジンです。一方4つ目のジェンダーギャップの解消は、エンジンが逆噴射している状況を打開するためのものでした。コウノトリの野生復帰が広がりを見せ、城崎温泉を訪れる外国人観光客数が年を追って増加、演劇によるまちづくりでも新たな動きが出てきて成果を実感しながらも、若者、特に若い女性にはまだ選ばれる町になれていない。選ばれるためには、ジェンダーギャップの解消が欠かせないという気付きが生まれました。そして当時、他の自治体ではまだ取り入れられていなかった世界標準の発想で、ジェンダーギャップ解消戦略を展開することとなりました。
今回の記事では、豊岡市長であった中貝さんがなぜ「小さな世界都市」というビジョンを掲げたのか、そして「小さな世界都市」実現の4つのエンジンがどのようなものかをご紹介しました。
リーダーとして、自分たちが向き合うべき課題を深く理解し、欠けていることに注目するのではなく、自分たちなりの可能性に気づいたからこそ出てきたビジョンでした。
次回の記事では、4つのエンジンから豊岡エコバレーの創造・コウノトリの野生復帰、演劇によるまちづくりを取り上げながら、魅力的なビジョンの条件とは何か、ビジョンを実現するために多くの人と前に進むための条件とは何かを考えます。
第2回はこちら 「小さな世界都市」実現のエンジン:コウノトリと演劇に学ぶ、ビジョンの育て方
第3回はこちら 若者に選ばれるまちをつくる:豊岡のジェンダーギャップ解消に学ぶ、構造を変えるリーダーシップ
京都大学総合人間学部、同大学院人間・環境学研究科修士課程修了。専攻は文化人類学、クロアチアで戦災からの街の復興をテーマにフィールドワークを行う。
株式会社ビジネスコンサルタント入社後、企画営業・営業マネジャーを担当。現在は同社の研究開発部門で、環境と社会の両面でサステナブルな組織づくりにつなげるための情報収集やプログラム開発等に取り組んでいる。Good Business Good Peopleの中の人。




