持続可能な世界をつくるため、国連が定めた開発目標SDGs。日本でもさまざまな分野の企業が取り組みはじめ、すでにSDGsについて知る段階から、実行する段階に移ってきています。
とはいえ、SDGsやサステナビリティを行動に移すと、〝自由にビジネスができなくなる″〝生活でも我慢が必要″というイメージはありませんか? 私自身、そのように考えていたこともあります。
でも実は、SDGsやサステナビリティの本質は、〝環境や社会の問題を解決する″ことにとどまりません。いま現在、そしてこれから訪れる社会の中で〝私たち一人一人がいかに幸福に生きていくか″ということを考え、行動に移すための指針でもあるのです。それを企業単位で多くの人が取り組めば、CSRや慈善事業の一環で終わることなく、新規事業や変革のチャンスにもなります。そうした事例が、すでに世界中でいくつも報告されています。
サステナビリティを身近に感じるためのイベント
これからどのような会社をつくり、事業を展開し、ひとりひとりがどんな働き方をしたいのか?そのようなことを、SDGsやサステナビリティを通じてじっくり考えるイベント(『SDGsが導く社会と経営のリデザインを考える~SustainOnline日本発売記念イベント~』2019年4月23日開催)が、2014年からサスティナブル経営への変革支援に取り組んできた株式会社ビジネスコンサルタントによって開催されました。
このイベントでは、サステナビリティを経営において実践、または研究する国内外の4名の専門家が招かれ、トークセッションが行われました。途中のランチタイムには、MSC認証やASC認証などのサステナブルシーフードを使った、ビュッフェを食べながら、登壇者と観客が同じテーブルで直接対話する機会も設けられました。いずれのテーブルでも多くの質問が飛び出し、登壇者が熱心な様子でそのひとつひとつに答えていたのが印象的でした。
これから4回にわたり、トークセッションや対話の内容をご紹介します。一人目の登壇者は、本サイトでも何度か登場しているSustainOnline CEOのマーティン・マルムロス氏です。
マルムロス氏は今、世界中の組織がサステナビリティを経営に取り入れ、イノベーションを加速させることをサポートするべく、新たなサービスを展開しています。前職では2007年からスウェーデンのAura Light社でCEOをつとめ、サステナビリティを軸に事業内容や組織を改革し大きく成長させた経験があります (こちらの記事で詳しく) 。そんな「成功したビジネスパーソン」ともいえる彼が、リスクを取って新たな事業に取り組む理由は何なのでしょうか?
今回、マルムロス氏が語ったのは、大きく分けると以下の2点です。
1.なぜいま、サスティナブルな経営が必要なのか
2.それを実現するために、私たちにできること(サステイン・オンラインの導入)
1.なぜいま、サスティナブル経営が必要なのか
サスティナブル経営が必要な理由については、「私たちを取り巻く環境が危機的な状況にあるからだ」とマルムロス氏は語ります。例を並べると、
頻繁に発生する異常気象
地球温暖化の影響で、豪雨や台風などかつてない規模の自然災害が発生
CO2の排出により加速する地球温暖化
CO2の濃度はすでに大気中に蓄えられる限界を越えており、現在の産業活動のすべてをやめたとしても、気温は100年ほど上昇し続ける予測
脅威にさらされている生物多様性
毎年、最多で58000種もの生物が絶滅
土壌の劣化
自然のプロセスで補充される土壌の、10から40倍の速さで地球全体の土壌が侵食されている
海洋の酸性化
大気中のCO2を吸収した海洋が酸性化し、多くの海洋生物が深刻な影響を被る
改善する兆しを見せない海洋プラスチック汚染
これまでにリサイクルされたプラスチックは、全体の9%にすぎない。海に行きついた大量のプラスチックごみが海洋生物を傷つけている。
未来まで持ちこたえられない食料システム
世界の栄養の75%は、わずか5種の動物と12種の植物に支えられている。ひとつの種が存続するためには、多くの種類の動植物が必要。ところが、生物多様性がこのまま急速に失われると、食料システムを維持することはできなくなる
このような現状を、世界のビジネスパーソンはどう捉えているのでしょうか? 次にマルムロス氏が示したデータから、理解することができました。
世界経済フォーラム「グローバルリスク」のトップ3は環境的要因
続いてマルムロス氏が示したのは、『グローバルリスク報告書』です。これは毎年、世界経済フォーラムが発表し、複数の国や産業に悪影響を及ぼす可能性がある「グローバルリスク」※が記載されています。グローバルリスクとは、 発生した場合、今後10年間に複数の国または産業に悪影響を及ぼす可能性のある不確実な事象または状況のことを指します。経済、環境、地政学、社会、テクノロジーの5項目に分類され、この図にはリスクの度合いが高いものから上位5位が記載されています。
注目してほしいのは、右端の2019年のグローバルリスクです。上段の将来的に発生する「可能性の高いグローバルリスク」と、下段のいま現在の「影響の大きいグローバルリスク」双方において、上位5項目のうち、3項目が環境的要因(緑色)であることがわかります。
10年ほど前を見ると、上位に来るのは経済的要因がほとんどです。つまりわずか10年のあいだに、環境が危機的な状況に陥ったということです。だからこそ、「私たちはいま、動きだすことが必要です」とマルムロス氏は力を込めました。
環境に関わる問題が経営の最大のリスクであるということが、国際的なビジネスパーソンの共通認識になっています。そしてサステナビリティに取り組むことが、すでに経営の中心的な課題になっているのです。それはリスクを回避するためだけではありません。サステナビリティを経営戦略に取り入れると、イノベーションを起こし、大きな利益をもたらす可能性があるからです。
アディダスが発表したサスティナブルなスニーカー
サステイナビリティに取り組んだ企業の最近の事例として、マルムロス氏が紹介したのが、スポーツ用品メーカーのアディダスです。アディダスは2019年4月に新しいコンセプトのスニーカー「FUTURECRAFT.LOOP」を発表しました。(リンク:https://shop.adidas.jp/futurecraft/)
このスニーカーの特徴は、100%リサイクル可能なことです。使われている材料は、プラスチックの一種である熱可塑性ポリウレタン(TPU)のみ。通常、スニーカーは数多くのパーツを接着剤で張り合わせて作られます。その接着剤すらアディダスの新しいスニーカーには使われていません。単一のリサイクル可能な部品のみを使うことで、リサイクルを容易にしているのです。
履けなくなったスニーカーをアディダスに回収してもらえば、洗浄したあと分解され、新しいスニーカーに生まれ変わります。2021年春夏に一般販売されれば、このスニーカーを通して、生産と消費のあいだでゴミが発生しないサスティナブルな循環ができあがります。マルムロス氏によると「他の靴メーカーが同じような商品をつくり、競争するのは非常に難しい」そうです。
「アディダスは、成功の定義をしっかり決めたのです。まず最初に〝100%リサイクルできる靴をつくる″という目標設定をしたうえで、そこに向けてどのように進めばいいのか考えました。そして現在の状況からできないことは何かを分析して、目標とのギャップを埋めるための技術を開発していったのです」
アディダスも実践するシステム・シンキング
このアディダスの例でも使われているサステイナビリティを実現する手法は、システム・シンキングと呼ばれています。システム・シンキングは、複雑な要因がからみあう問題をさまざまな角度から分析し、原因を探って解決するための考え方です。問題を単独で見るのではなく、関連するいくつもの要因を合わせてひとつのシステムと見なし、根本的な原因を解決します。
問題のパターンや構造を見つけることで、アディダスのように「一見すると無駄な廃棄物が、資源であるというふうに考えられるようになります。リスクと考えられていたものが機会と捉えられるようになります」(マルムロス氏)。
2.サスティナブルな経営を実現するために、私たちにできること
サステナビリティを経営に取り入れることで、イノベーションにつながります。そのような企業になるためには、社員一人一人が変わっていく必要があります。まずは一人一人がサステナビリティの意味や価値を理解し、社内の共通言語にしなければなりません。そのうえで自社の状況を分析し、目標と戦略を定めて行動を起こしていくのです。
そこでマルムロス氏がすすめるのが、SustainOnline(サステインオンライン)です。SustainOnlineは、サスティナブル経営に必要なことが全てサポートされたオンライン・プラットフォームです。SDGsとは何か、に始まり、システム思考や企業の先行事例、世界の状況など、サステナビリティを科学的なアプローチから簡単に学ぶことができます。また、自社の取り組み状況を分析し、アクション・プランを検討したり、レポートを作成するといった機能がローコストで素早く導入できます。
ベースになっているのは、マルムロス氏をはじめサスティナブル経営を実践してきた専門家たちの30年にわたる実績です。
このようなプラットフォームをローコストで提供するのは、サステインオンラインは大企業だけではなく、中小企業で特に使って欲しいからだとマルムロス氏は強調しました。サステナビリティは、原料の調達から小売りまで、すべての段階にかかわるサプライチェーン全体での取り組みが大きな効果をもたらすからです。
中小企業の人にこそ利用して欲しいと語ったマルムロス氏からは、サステイナビリティやSDGsを一時的な流行で終わらせるのではなく、多くの人の意識にしっかりと根付かせたいという強い意志を感じました。
環境の悪化に歯止めをかけ、企業の変革のチャンスにもなるサステイナビリティ。私もぜひ、多くの人に行動してもらいたいと思います。
次回は、これから企業が発展・成長するために必要な戦略などについて、一般社団法人NELIS代表理事のピーター D.ピーダーセン氏のお話をご紹介します。
第2回 トレード・オン:経済・環境・社会の価値を同時に高める、これからのビジネス戦略
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大学院修了後、沖縄電力株式会社に勤め火力発電所で技術職として働く。その後、京都造形芸術大学文芸表現学科を卒業しライターとなる。人がより良く生きるための環境や教育、働き方などに関心があり、経済誌『Forbes JAPAN』では、SDGsに関する記事を執筆。自身のウェブサイト「おばあめし」で、高齢の祖母と料理のエピソードを綴るhttps://obaameshi.com/ 京都造形芸術大学文芸表現学科非常勤講師