「職場の心理的安全性(Psychological Safety)を高めよう」と聞いてどのような状況を思い浮かべますか?
「パワハラのない職場」や「人間関係のストレスがない仲のよい職場」でしょうか?
それでは少し、不十分です。リーダーとして、どのようなかかわりが職場に心理的安全をもたらすのか、“本当の”心理的安全とはどのような状態なのか、なぜ今心理的安全が必要と考えられるのか、ご紹介します。

エドモンドソン博士による、心理的安全性の定義

いま、「心理的安全性」について話がされる際には、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン博士の定義が引用されることがほとんどです。

「心理的安全性とは、チームメンバーがお互いに『このチームでは対人リスクをとっても安全だ』と信じている状態」

そしてエドモンドソン博士は次のようにも説明しています。

“心理的安全性とは、「Speak Up(声を上げる)できる環境をつくること」です。仲良く、心地良い雰囲気ではなく、より率直にものが言える状態をつくることが重要です。つまりチームで働く人々が、何か違和感を感じたり、今までとは違うことにチャレンジしたほうが良いと思った時に発言し、それを聞いてもらえる安心感がある状態だと言えます。”

そして、次が重要な点ですが、

“心理的安全性は、「あったら組織が良くなる」というものではなく、「不確実な時代において企業が致命的なエラーを避け、イノベーションを起こし、持続的に成長するうえで欠かせないもの」です。”

2019年5月に米国で開催されたATD ICE※ではエドモンドソン博士自身が登壇され、注目を集めました。
(※年に一度、米国で開催される、人材開発では世界最大規模のカンファレンス)

“Speak up”は世界共通の課題

日本では忖度という言葉に象徴されるように、目上の人の前では本当に考えていることを言わない、といった心理的安全性が低いことに起因する振る舞いは、だれしも経験したことがあることでしょう。でも、海外のカンファレンスでもこのワードを頻繁に耳にするということから、職場文化の違いはあれど、心理的安全性が低い(十分ではない)というのは、共通して解決すべき優先度の高い組織課題なのだろうと思います。

なお、心理的安全性に注目が集まるきっかけとなったのは、Googleが発表しているリサーチ「プロジェクト・アリストテレス」です。このリサーチでは、効果的なチームを作るいちばん重要な要素が「心理的安全性」と結論付けられています。詳しくはこちらのGoogleによるWEBサイトで紹介されています。

職場に心理的安全性をもたらすリーダーの5つの特徴

ATD ICEでエドモンドソン博士は、「職場に心理的安全性をもたらすリーダーの特徴」を紹介されました。

職場に心理的安全性をもたらすリーダーの5つの特徴

Empathy(共感)
Curiosity(好奇心)
Mutual Respect(相互信頼)
Vulnerability(脆弱性)
「 don’t know mindset」(私には知らないことがあるというマインドセット)

全て大切な要素ではありますが、この中で私自身が大事だなと感じたのは「I don’t know mindset」とCuriosity「好奇心」です。

「I don’t know mindset」とは、どんな状況にも謙虚に向き合えることを指しています。VUCAの時代ですから、すべての情報を1人のリーダーが知ることは不可能です。「自分の周りの状況をすべて理解することはできないものだ」という前提で、様々な変化に柔軟に対応する必要があるので「不確実性に対して謙虚に向き合う」ということが求められます

そして「好奇心」は、「自分の見方」に捉われないこととつながります。人はどうしても無意識のうちに自分の物事の捉え方が世界のすべてのように感じてしまいます。分かったつもりにならずに、学び続けるためにも「好奇心」を持ち続ける努力が必要です。

エドモンドソン博士のお話を聞いて、私は「Management by walking around」という言葉を思い出しました。リーダーは出来るだけ多くの働く人やお客様などと直接コミュニケーションを取って、謙虚にその声に耳を傾けることで心理的安全性は成立するのだなと感じます。

心理的安全性は、組織活動の目的ではなく、パフォーマンスの鍵

そして、決して間違ってはいけないと思うのは、心理的安全性を醸成することは、組織活動の目的ではない、ということです。

エドモンドソン博士は、チーム全体の学習行動やパフォーマンスに影響を与える要素として心理的安全性を見つけました。チーム全体の学習行動やパフォーマンスにつながることを理解し、リーダー自らが学び続けることから始めることが肝要なのではないかと思います。

心理的安全性のある関りは、どの場限りでは機能しない

近年、1on1などを導入し、コミュニケーションの頻度を上げ、課題解決のスピードを上げよう、職場の人間関係をより密にしよう、といった取り組みが広がっています。そこで聞くようになったのが、「1対1の場を設けても、部下が何も話さない」「心理的安全性の高いかかわりを意識しているのに、意見が出てこない」といった声です。

ここで重要なことは、リーダーは、「その場限りの心理的安全性を意識したかかわりでは、相手の行動は急には変わらない」ということを脳の仕組みも踏まえて理解し、相手の反応が変わるまで関わり続ける、ということです。

心理的安全性と脳の働きの関係

私たちの脳は、危険な状態だと認識すると、副腎皮質からコルチゾールが過剰に放出され、偏桃体が過活性することにより前頭葉が機能しなくなってしまいます。つまり、人は思考停止状態に陥り、不適切な行動を抑制する脳の機能が働かなくなり、いわゆる「やってはいけないこと」をしてしまうようになります。

心理的安全性の高い状態とは、脳の働きで見てみると、偏桃体が過活性しておらず、トップダウン型の思考や創造的な思考を担う前頭葉が正常に機能している状態を指します。

リーダーがすべきは、安心を育み、speak upできる環境作り

ただし、脳がこのような安全な状態になっていれば、人々が必ずspeak upするとは限りません。というのも、人は未来予測に基づいて、行動を選択するからです。そしてその予測は、過去の記憶に影響されます

人は過去の経験・体験とその時の感情を、エピソード記憶として記憶しています。過去に、「率直に自分の意見を言ったら上司から否定された」「自分なりの意見を出しても、職場で受け入れられた試しがない」というエピソード記憶があると、ちょっとやそっと、心理的安全なかかわりをされたとしても、自分の意見を出そうとはなりません。

心理的安全性の高いかかわりを重ね、「自分の考えを出しても、この職場では受け入れてもらえるのだ」という経験・感情が脳に書き込まれることによって、安心が確立され、行動に変化が生じます

心理的に安全で安心な状態を醸成することは、即時的な成果はもたらしません。しかしながら、イノベーションや長期的な組織の成長には欠かせません。リーダー自身がその前提に立ち、まずは自分自身の習慣を変え、根気強く時間をかけて、人それぞれの意見や強みを認めるかかわりによって、それを表出するサポートをする必要があります。


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