あなたはこれまで、どんなスポーツを練習したことがありますか? 私は幼稚園の頃から、習い事でスイミングスクールに通いました。最初は水に慣れるために遊ぶことから始まり、水に顔をつける、浮輪を腕に着けて浮かぶ、ビート板を持ってバタ足を練習する・・・少しずつ「泳ぐ」につながる動作を練習します。最初に覚えたのはクロールですが、これも、腕のかき方、息継ぎ、飛び込み、ターンといった動作を繰り返し練習して、最後は意識せずに全身を使ってクロールの型で泳ぐようになれたと記憶しています。
これはどんなスポーツでも同じで、例えば柔道や空手の「型」は、繰り返し練習をするものです。自分にしっくりくると思える型を、試合で自然と繰り出すことができるようになるまで練習します。ゴルフでも、最初からいきなりコースに出る人はあまりいません。クラブの握り方、立ち位置、スイング等々をあらかじめ繰り返し練習します。
では、マネジメントやリーダーシップのスキルの場合はどうでしょうか? 半日のセミナーを聞いて、数日間の研修に参加して、即、翌日から「私は今日からポジティブリーダーです!」とは言えなくて当たり前だと思います。だからといって、そうした研修には意味がないのでしょうか?
「スポーツの型を繰り返し練習して試合で使えるようになることと、リーダーシップやマネジメントのスキルを日々の職場で繰り返し実践して成果につなげるのは、同じこと!」と言い切るのは、キャメロン教授の元でポジティブリーダーシップを学び、ビジネスの世界で活用されてきた原田俊彦さんです。原田さんに教えていただいた、ポジティブリーダーのための3つの型をご紹介します。(ポジティブリーダーシップについてはこちらの記事をどうぞ)
※「働く喜び・生きる幸せ」を感じられる組織づくりをめざす株式会社ビジネスコンサルタントが、ミシガン大学のキム・キャメロン教授と、マキシオン・ホイールズ社の原田俊彦氏をお招きして開催したセミナー(『ポジティブリーダーシップの理論と実践』:2017年1月11・12日開催)の講演内容から、ポイントを数回にわたりご案内しています。
リーダーシップの型は、自分にしっくりくることを最低3カ月続けてみる
原田さんは、マキシオン・ホイールズ社(本社:米国ミシガン州)にてアジア地域の副社長を2016年まで務められたビジネスパーソンです(原田さんの前回の記事はこちら)。原田さんはポジティブリーダーシップが「とてもしっくりきて」、ご自身のマネジメントにおいても繰り返し活用し、さらに最近ではプロのコーチングの技術を身につけて、会社の枠を飛び出しご友人の経営者のコーチングにまで取り組まれています。そんな原田さんは次のように強調されています。「これからご案内することの全部をやろうと思わなくてよいです。二つか三つ、自分にしっくりきそうだというものを選んで、まずは根気よく3カ月やってみてください。1万時間とは言いません。繰り返し繰り返し職場でやってみて、それで少し成果ができたら、このコンセプトを信用していただいて、ほかのことも試してみてください。」
リーダーシップのある人、マネジメントがうまい人というのは、特別な才能を備えていて、すごい努力をできるからで、普通の私にはできない・・・という苦手意識をお持ちの方はいらっしゃいませんか? オリンピック選手を目指さなくてもスポーツは楽しめます。リーダーシップのスキルも、まずは試してやってみることが大事、そうしているうちにだれでも身につけられるものだということを、原田さんは気付かせてくださいました。
さて、ここからは原田さんが教えてくれた、ポジティブリーダーとして組織の中のポジティブなエネルギーを高めるためにやるべきこと、リーダーシップの「型」を、3つのステップに沿ってご紹介します。
ステップ①ポジティブなコミュニケーションの場をつくる
ステップ②ポジティブエナジャイザーとの信頼関係を築く
ステップ③ポジティブエナジャイザーの成功を促進する
ステップ① ポジティブなコミュニケーションの場をつくる
【あいさつ・名前・家族・誕生日・健康】
原田さんが最初に見せてくださったのがこれらの単語です。子供の頃、母親から「ハンカチは持った? みんなにあいさつをしなさい。お友達の名前は覚えた? 仲良くできている?」と当たり前のように言われていたのに、大人になったらやれていない・・・そういう項目です。
原田さんは2016年、数カ月だけ臨時でタイの工場長を務められました。その間にしたことは、次の二つでした。
①朝とお昼、シフト交代の時に笑顔で工場内を歩き回る。
②その時、従業員ひとりひとりに、「サワディカップ」と大きな声であいさつをする。
それで、何が起きたと思いますか? 2カ月くらいすると、タイの従業員の方からにこにこしながら「クントシ、サワディカップ」と声をかけられるようになり、3カ月を過ぎると生産性・歩留まりが飛躍的に向上したそうです。これはまさに以前の記事でご紹介した「ひまわり効果」です。
あなたの組織では、トップが毎朝元気に笑顔で皆にあいさつをする、メンバーの誕生日をお祝いする、家族のことを気づかう、そんなことはされていますか?
【感謝の日記】
これは以前の記事でも少しご紹介しました。何をするかというと、
・就寝前にその日感謝を伝えたい人の名前を3人思い浮かべて、その人がしてくれた感謝したい行動を具体的に記述する。
原田さんのご友人の経営者も実践されているそうです。100人ほどの組織であれば、4カ月も継続すれば、延べ人数ではだれもが1回は社長から感謝を伝えられたことになります。そこで生じるインパクトは、「これがわが社において感謝されること、良いことなんだ」と皆が明確に意識できるようになること。そして組織のトップがやっていれば、役員・部長クラスも同じような行動を取るようになり、ひまわり効果がさらに増えます。
【チームのコミュニケーションのありように気を配る】
これは上の二つのことと比べると、少しスキルが必要です。以前の記事では、パフォーマンスの高い組織と低い組織で、話し合いの時に使われる言葉の種類・傾向が圧倒的に異なることをご紹介しました。
パフォーマンスの高い組織 ポジティブ:ネガティブ=5:1、問いかけ:主張=1:1
パフォーマンスの低い組織 ポジティブ:ネガティブ=0.36:1、問いかけ:主張=0.05:1
どうしたらポジ:ネガ=5:1の比率でチームのコミュニケーションを実現できるでしょうか? 原田さんが教えてくださったのは、「最初の1カ月、リーダーはポジティブな質問しかしない」ということ。「なぜ問題があるのか」「どうやって解決するのか」とは聞きません。そして「こうやりなさい」も言いません。将来と強みに焦点を当てた、「どうして、今この課題が私たちの将来にとってとても重要だと思いますか?」「これまでうまく機能していることはどんなことがあるか、出してみよう。」「更なる課題解決には、あなたの強み、私たちの強みのどの部分が役に立つでしょうか?」のような質問をします。するとメンバーはだんだん変化に気づき、意見を聞いてもらえていると実感し始めます。そしてチームミーティングがいつも前向きな結論が出て終わるようになります。
ここまでできたら、次のステップ、「ポジティブエネジャイザーとの信頼関係づくり」です。原田さんからさらに興味深いリーダーシップの型を教えて頂いています。どうぞお楽しみに!
(グラフィック担当:株式会社ビジネスコンサルタント 遠藤麻衣子)
【ポジティブリーダシップシリーズ】
1.リーダーシップを科学する_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを①
2.リーダーに朗報!人の「ひまわり効果」とは_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを②
3.4つのマインドセットでリーダーは大きな太陽に!_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを③
4.影響力とエネルギー、リーダーにとって重要なのは?_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを④
5.リーダーシップとスポーツの意外な共通点_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを⑤
6.信頼関係を築くためには何を共有するのが効果的?_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを⑥
7.1 on 1でエナジャイザーを育てる_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを⑦
8.ゴールを成し遂げる!ためのツール_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを⑧
組織のなかで、もっとポジティブリーダーシップを育みたいという方はこちらから!
京都大学総合人間学部、同大学院人間・環境学研究科修士課程修了。専攻は文化人類学、クロアチアで戦災からの街の復興をテーマにフィールドワークを行う。
株式会社ビジネスコンサルタント入社後、企画営業・営業マネジャーを担当。現在は同社の研究開発部門で、環境と社会の両面でサステナブルな組織づくりにつなげるための情報収集やプログラム開発等に取り組んでいる。Good Business Good Peopleの中の人。