カナデビアグループでは、中長期的な成長と社会課題解決を両立し、全社員でサステナビリティを実現する組織となることを目指して、その拠り所となるサステナブルビジョンの制定、ロードマップおよびKPIを設定しました。前回の記事では、サステナビリティ推進室がプロジェクト推進のために社外からサポートを受けるにあたって重視したこと、また適切な利害関係者を意思決定プロセスに巻きこめるような組織体制としたことをご紹介しました。

今回は、大規模な全社横断プロジェクトの進展のカギとなった、サステナビリティの理論・フレームワークと組織開発のノウハウについてご紹介します。この二つを組み合わせたことが、実行につながるビジョンとロードマップ策定の重要な成功要因となりました。

理論的に進めるためのフレームワークの活用

「全社的なサステナビリティ推進プロジェクトを進めるにあたって重視したことは何ですか?」という質問に対して、友岡さん(同社サステナビリティ推進室室長)が強調されたのが「理論的に進める」ということでした。これはすなわち、前回の記事でご紹介した持続可能性4原則やABCDプロセスなど、科学的な裏付けのあるフレームワークに基づきサステナビリティを理解し、サステナブルビジョンやロードマップの検討を進めるということです。

メリット①サステナビリティへの取り組みを組織の中長期的な成功に資するものと位置づけ

持続可能性4原則に基づくと、現在の企業は「漏斗」のような事業環境にあると言えます。

The Natural Step 漏斗のモデル

企業が事業活動を行える領域は、「環境悪化・資源資本の減少」と「法規制の強化、ステークホルダーからの高まる要請」という二つの制約条件でどんどん狭まっています。何も手を打たないと、企業活動は漏斗の壁にぶつかってしまいます。持続可能性4原則に基づき事業を再定義・変革することで、企業は戦略的に将来の持続可能性を高めることができます。

サステナブル経営とは法規制等に対応するということだけではなく、企業の中長期的な成功のために取り組むものという位置づけが明確になりました。

メリット②サステナビリティを世界標準で正しく理解する

第1回の記事でもご紹介したとおり、カナデビアでは環境やインフラ関係のビジネスを展開してきた経緯から、環境問題にはしっかり取り組んでいるという意識もありました。しかし、持続可能性4原則に基づき自社の事業を点検することで、サステナビリティは環境問題(ESGのE)の対応だけすればよいわけではないという理解が広がり、社会やガバナンス(ESGのSとG)の観点の課題意識が高まりました

メリット③プロジェクトメンバーを迷わせず、ステークホルダーに安心感をもたらす

ビジョン・成功の柱・ロードマップを検討する際には、ABCDプロセスを活用しました。ABCDプロセスでは、検討するべきテーマとその順番、その時々で活用する考え方などが明確です。そのためプロジェクトメンバーは、次に何をすればよいのか迷うことなく、一つ一つの段階で今考えるべきことに集中することができます

また、大きなプロジェクトでは検討の途中段階で、ステークホルダーから「あの件はどうなっている?」といった質問を受けたりします。その時にフレームワークが明確であれば「それは次のステップで検討することです、8月頃にご報告できます」とはっきり回答することができ、信頼につながります。

「実はプロジェクトを進めているときは、次に何を考えるのか明確に理解できていたわけではありません。そこはもうビジネスコンサルタントさんに『委ねる』と決めたので。悩まず、絶対大丈夫と言い聞かせて、検討を進めていました」「後から振り返って、フレームワークに従うことで、論理的に、ビジョン・ロードマップ・KPIの完成形に近づけていたのだと認識しています」(友岡さん)

とはいえ、フレームワークだけに沿っていれば、円滑にプロジェクトが進んだわけではありません。各分科会は、コンサルタントが同席するミーティングはオンラインで実施し、課題を持ち帰り検討して次のミーティングに備える、という進め方をしました。その際、サステナビリティ推進室には各分科会から日々さまざまな問い合わせがありました。推進室メンバーが一体となって数多くのメールに回答し、直接会いに行って対面で説明するなど、各分科会と密なコミュニケーションを取り続けることが、プロジェクトの進行を支えていました

組織開発のセオリーを踏まえた、「自分たちで決める」を重視したコンサルタントによる関わり

前回の記事で、「組織全体の横連携を促進するために組織開発の視点を取り入れたかった」という友岡さんのエピソードをご紹介しました。このプロジェクトを支援した㈱ビジネスコンサルタントのコンサルタントが、組織開発の観点から意識していたことは他にもあります。それは「プロジェクトメンバーが自分たちで考え、自分たちで決める」このスタンスを絶対に守る、ということです。

コンサルタントは目標に向けた歩みをサポートする存在

プロジェクトでは、判断に迷う場面がたくさんあります。そうした時でもコンサルタントはすぐには答えを示しません。持続可能性4原則やこれまでの実践事例に基づいてサステナビリティの実現に向かうための選択肢を示し、アドバイスを提供して、カナデビアのメンバーが決めることをサポートしました。

KANADEVIA
カナデビア株式会社サステナビリティ推進室 杉山様

「コンサルタントの方には、ぶれないでいていただくことを期待していましたし、そう関わってもらえるという確信もありました。達成したい目標ははっきりしているわけですから、違うときにはそうはっきり言ってもらわないといけないんです。最後は私たちが決めるのですけれど。こちらが迷っているときに、「お好きにしてください」ではなく、「選択肢はこれくらいあるけれども、ベストはこれだと思う」と。そのアドバイスがどこから来ているかというと、持続可能性4原則で、絶対ぶれない軸に基づいていたということです」(友岡さん)

自分たちの言葉で考え、話し合い、自分たちで決める

分科会によっては、なかなかメンバーが話し出さないという場面も少なからずありました。そういうとき、コンサルタントはじっと待ち続けます。その状況が続くと、メンバーがなんとか自分で考え、自分の言葉で語ろうとし始めます。借り物の言葉ではなく、自分たちなりの考えがまとまるまで、コンサルタントは質問を重ねる。そういうやりとりが度々ありました。これはとても労力のかかるプロセスではありますが、自分たちで考えた、決めた、という実感を伴ったビジョンやロードマップを完成するには必要なものでした。

サステナビリティ推進室だけの仕事だ、と思われないようにしようとは心がけていました。サステナビリティは経営全体で取り組むべきものだからです。だからといって経営陣だけの話でもありません。最終的な意思決定をするのは経営陣ですが、実際に取り組むのは私たち社員なのだから、私たちがおもしろくなければ。やりたいことがやれるようなロードマップじゃないとつまらないですよね。ですから、自分たちのプロジェクトなんだ、自分たちが考えなきゃいけないことなんだ、というふうに自然に思ってもらうこと。それは常に意識していました」(友岡さん)

プロジェクトの成果:事業の将来を見据え、これから取り組むべきことを2050年を起点に考えられるようになった

「プロジェクトを進める際に苦労されたことは?」という質問に対して、今回のインタビューにご協力いただいた皆さんから聞かれたのが「バックキャスティングで発想することの難しさ」でした。

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カナデビア株式会社サステナビリティ推進室 中村様

サステナブルビジョンの策定で活用したABCDプロセスのいちばんのポイントは、バックキャスティングで発想するという点です。通常サステナブルビジョンでは、30年ほど先を見据えます。その場合には、私たちビジネスパーソンがやり慣れている直近1~3年の目標設定・計画策定のやり方は通用しません。バックキャスティングでは、まず初めに未来のありたい姿を定め、そこから逆算して今から何に取り組む必要があるかを考えていきます。

「バックキャスティングは頭の体操みたいなところがありました。」

やはり、見ている先が2050年と遠いところになったというのは意義が大きいです。普段の経営活動ではせいぜい数年先で、当社の場合はいちばん遠くて長期ビジョンの2030年でした」「これまで目標を立てるときはフォアキャスティングで積み上げていました。それが今回のサステナブルビジョンでは、最初に2050年を決めた。水処理では五大陸に行くと決め、環境事業本部ではオープンダンピングサイト(※)をゼロにすると決めました。後ろを決めてしまったら、その前で何をどうするか、今のままでは間に合わないということが分かり、ロードマップではかなり苦労しておられたと思います。」(友岡さん)

「苦労はしました。ただその分やることは明確になったという実感はしていますね。これまでの目標はフォアキャストで、売り上げいくら、受注いくら、というものでした。私自身も、2050年までにこれだけやらなきゃいけないんだと理解が深まりましたし、多分、社員1人1人に伝わりやすくなったのではないかと思います。」(杉山さん)

※オープンダンピングサイト:集めたごみを分別や焼却等の処分をせずに、そのまま山積みにすること。ごみ処理施設の不十分な途上国に多く、環境汚染につながっている。


次の記事では、プロジェクトに経営の現場から参画した各部門・組織の方々のお話から、サステナビリティに取り組むことが、経営の現場にどのようなインパクトを持つのか、ご紹介します。


株式会社ビジネスコンサルタントでは、サステナブルビジョンや推進計画の策定、サステナビリティの全社浸透を組織開発アプローチでご支援しています。お気軽にお問合せください。

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