カナデビアグループでは、中長期的な成長と社会課題解決を両立し、全社員でサステナビリティを実現する組織となることを目指して、その拠り所となるサステナブルビジョンを策定し、ロードマップおよびKPIを設定しました。前回の記事では全社横断のプロジェクトの原動力や策定したビジョンについてご紹介しました。今回は、取り組みを成功に導くため、主幹部署としてのサステナビリティ推進室がどのようなことを重視していたのか、ご紹介します。(組織名・お役職は取材時のものです)

経営全体のサステナビリティを考えるにはどうしたらよいかを模索

kanadevia
カナデビア株式会社サステナビリティ推進室室長 友岡さん

2021年10月、サステナビリティ推進室は設置されました。その室長を任された友岡さんですが、それまでは法務や輸出管理等のキャリアを重ねてきており、経営全体のサステナビリティとなると全くの新しい領域でした。就任直後は、サステナビリティ関連の情報に数多く触れるよう努めたそうです。しかし、メディアでサステナビリティの取り組みとして紹介されている情報は、個別の環境問題・社会問題の解決事例がほとんどでした。そのため、「経営全体のサステナビリティ推進に役立つ考えやフレームワークには、どんなものがあるのだろうか?」という疑問も感じられていたそうです。

経営全体のサステナビリティ実現を支える考え方・フレームワークとの出会い

そのような状況に変化を起こすきっかけとなったのが、室長として着任直後に参加した研修で出会った、(株)ビジネスコンサルタントの営業やコンサルタントとの会話でした。「カーボンニュートラルと、サステナビリティと、どちらから取り組めばよいのか?」と質問したところ、「全部、同時に取り組みます」という回答が。はじめは「そんなことはムリだ」と思いましたが、そこで紹介されたのが持続可能性4原則とABCDプロセスでした。この二つが、サステナビリティ推進の重要な考え方・フレームワークとなったのです。

持続可能性4原則とABCDプロセス

持続可能性4原則とは、スウェーデンの医学博士カール=ヘンリック・ロベール氏を中心とする科学者らが議論を重ねて導き出した、地球を持続可能な状態とするための原則です。次の4つの観点で構成され、サステナブルな状態とは何か?を定義しています。

  • 原則1.自然環境の中で、地殻から取り出した物質の濃度が増え続ける活動に加担しない(例:化石燃料の使用を無くす)
  • 原則2.自然環境の中で、人間社会が作り出した物質の濃度が増え続ける活動に加担しない(例:化学物質による環境汚染を無くす)
  • 原則3.自然を物理的な方法で劣化させる活動に加担しない(例:過度な森林伐採をしない、天然資源を枯渇させない)
  • 原則4. 人々が基本的ニーズを満たそうとする行動を妨げる、システム化された活動に加担しない(例:健康を守る、影響力の発揮や能力開発を妨げられない、公平に扱われ、意味・意義を尊重される)

組織としてサステナビリティに取り組むとき、この原則をサステナビリティについての共通認識として持つことは重要です。
そして、組織が持続可能性4原則を満たして、サステナブルな状態を目指すためのビジョンを策定し、そのビジョン実現へのステップをバックキャストに考えるためのフレームワークが、「ABCDプロセス」です。

こうした考え方・フレームワークは「経営全体をサステナビリティという大屋根から俯瞰して見る」(友岡さん)ことを助けてくれるものであり、プロジェクトの進展に大きく貢献しました。さらに最終的なアウトプットは、現在、世界的な水準で企業が求められているサステナビリティの課題領域に対して、包括的な検討を行っていると、専門家からも認められるものとなりました。

プロジェクトを、横連携の文化を醸成する機会に

もう一つ、友岡さんがこのプロジェクトを進めるにあたり重視されたことがあります。それは、サポートを受ける社外のコンサルタントが、サステナビリティの専門家であるだけではなく、組織開発の視点を持っている、ということです。「経営幹部や推進室だけが取り組むのでもなければ、各事業・機能部門が個別に取り組むのでもなく、サステナビリティという一つのテーマで、全社が横連携しながら取り組むフォーマットを確立し、新たな組織文化を醸成したい」という期待がありました。

カナデビアでは、ビジネスの特性からサステナビリティに取り組もうという意識が高い事業部門もあれば、そうではない事業部門もあるのが実態でした。会社全体でサステナビリティを実現するには、そうしたバラバラの意識ではうまく進めることができません。

「プロジェクトを進めながらわかったことですが、例えば工場は、各事業部の依頼のもとでモノづくりをするので、努力はしているものの、廃棄物の埋立率を減らす取り組みが進みづらいのです。「埋立率は3%にする」と全社で決めた方針があれば、工場も自主的にそのための行動をとりやすくなります。」(友岡さん)

ステークホルダーが参画し、意見を交わして横連携するためのプロジェクト体制

横連携のためのフォーマット確立ということも念頭に置きながら、サステナビリティ推進のための全社体制がつくられました。コンプライアンス委員会といった社内の前例を参考に、委員会の設置や人選を進めました。こうした適切なガバナンスのための仕組みは、法務を専門としてきた友岡さんには非常になじみのあるものでした。こちらが、サステナビリティ委員会の体制です。

  • 社長をトップとするサステナビリティ推進委員会
  • グループ全体の検討を担う全社分科会
  • 各事業・機能部門・関係会社それぞれによる14の分科会

体制づくりで念頭に置いたのは、「利害関係を有する人には必ずその決定プロセスに参加してもらい、自分の意見を言ってもらう。それが、手続きとして保障されている」ということ。各事業部の代表が来て、事業部の利害に関わることを発言できる機会を作るとともに、「その利害関係が偏りなく出てくるように、どなたがどんな意見を述べても、同じ重みで扱う、ということが大前提にありました。同じ会社の問題について話し合うので、売り上げの大きなところの意見が通るのではなくて、小さいところの意見で大事なものは吸い上げる」、これが議論の原則とされました。

「今回、サステナビリティ推進委員会・戦略委員会という仕組みを作って、各事業部や部門から戦略委員も出ていただき、組織横断的に、全社共通課題を検討する経験をしました。この経験で培われた人間関係も重要です。加えて、このフォーマットを定着し、応用して、異なるテーマにも取り組めたら、もっと面白い組織になれるのではないかと思っています」(友岡さん)


次の記事では、サステナビリティ推進のためにフレームワークの活用や、組織開発を意識したプロジェクト進行がもたらした成果についてご紹介します。


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