今年はコロナウイルスの感染拡大の影響から、さまざまな国際的なカンファレンスがリアルな開催を中止し、「バーチャルカンファレンス」の形で実施されています。
例年、5月にはATD-ICE(Association for Tarent Development-International Conference and Exposition)という人材育成をテーマに世界中の専門家が集まるカンファレンスがあり、私たちの会社からも必ず複数の社員が出席してきました。2020年はコロラド州デンバーで開催の予定でしたが、コロナウイルスの感染拡大防止のため、急遽6月第一週に「バーチャルカンファレンス」の形で実施されました。
ATD-ICEで発信される情報だけでなく、1万人以上が集まる熱気あふれる会場の雰囲気を味わうことも魅力の1つだったので残念な気持ちになりました。
ですが、バーチャルになったことで録画を何度も見返すことができ、じっくりと1つのセッションに向き合うことが出来たのは、バーチャルの良さでした。
そして今回のATDバーチャルカンファレンスでは、オンラインでのトレーニングやワークショップの進め方についてのセッションが多く、これまで以上に充実した内容でした。
日本からは200名以上が参加しており、北米からの参加者に次ぐ2番目の参加者数だったそうです。
日本では今まさに、学習のオンライン化に取り組んでいる最中です。今後ここで学習されたナレッジが実践に活かされ、オンラインでより快適で価値のある学びの場が提供されていくことと思います。
参加レポートの初回は、デジタル環境におけるコミュニケーションをテーマにお届けします。
テレワークでのコミュニケーションに、不満・不安はありませんか?
コロナ以降、私たちの会社ではテレワークが定着し、様々な工夫をしながら出来る限り社内のコラボレーションが阻まれないよう取り組みをしているところです。皆様の組織では如何でしょうか?
変化が速い今の時代においては、これまで以上に迅速かつ頻繁にデジタルでコラボレーションを行う必要があります。
私たちはデジタル上で繋がっているように感じているかもしれませんが、その繋がりは、真に実りのある、コラボレーションにつながるものになっているのでしょうか?
対面でのコミュニケーションから、eメール、電話、オンライン会議システムなど、様々な媒体でのデジタルコミュニケーションにかわったことで、混乱やフラストレーションが起こったりしていませんか?
本当の意味で人とつながり、コラボレーションをしていくためには、自分のコミュニケーションスタイルと、それがどのようなシグナルを発信しているのかを理解しておく必要がありそうです。
オンライン脱抑制効果とは
今回ご紹介するキーノート(基調講演)では、キーワードの1つに「オンライン脱抑制効果」という言葉が出てきました。
対面の場面では存在している社会的抑止・抑制が、インターネットで他者と対話する場合に緩んでしまうそうです。普通であれば、しないこと、言わないことをネットでは言ったり、して良いと思ってしまう現象が起こるのです。
オンラインのコミュニケーションでは語調が伝わりにくく、自由に意見が言える反面で無礼に聞こえたりすることがあります。より議論的に攻撃的になりやすく、対話になりにくいともいわれます。
ミーティングが終わるとすぐに次に向かってしまって人と人とのコネクションが生まれにくい側面もあります。
対面との違いがコラボレーション力を低下させる原因となるので気を付けなくてはいけません。
デジタル・ボディーランゲージ(DBL)とは
ATDバーチャルカンファレンスの2日目、Erica Dhawanさんによる“デジタル・ボディランゲージ(以下DBL)”というテーマのキーノートでは、オンライン脱抑制効果を乗り越えるための示唆に富んだ内容が語られました。
DBLとはデジタル上のコミュニケーションにおける言葉の裏にある「意図」や「感情」など、字面では分からない非言語のコミュニケーションのことです。例えば、eメールで伝えるのか、チャットで伝えるのかによっても受け手は受け取るメッセージが違います。メールやチャットでも絵文字を使ったり、スタンプを使ったりするのか、しないのかでも印象が変わります。
これを戦略的に行うことで、オンラインで相手に受け取ってもらいやすいコミュニケーションを実現することが可能になります。
Ericaさんの調査によるとデジタル・コミュニケーションにおいては…
- イノベーション行動は90%減る
- 相互信頼は80%低下
- それぞれの役割やゴールの明確さは75%落ちる
- 組織へのコミットメントや満足度は半分になる
という結果だったそうです。これはなんとか改善したいと思いますね。
DBLの5つの基本原則
オンラインのコミュニケーションで、より良い信頼関係を構築したり協働を行う
にはどのような点に気をつけるべきか、Ericaさんは5つの原則にまとめています。
1.「簡潔にする」のは混乱のもと
「簡潔」であることと「明確」であることは違います。
例えば、件名で具体的なことが分からないメールなどが挙げられます。
「打ち合わせ」「会議」とかしか書かれていないメールが届いたらどんな気持ちになりますか?ちょっとドキッとしませんか?「何だろう?」と悩み、これがストレスのもととなります。
件名で何のための会議なのかが分かるように、明確にしておくことで、混乱を避けることができます。
2.「考えていること」をそのまま伝える
同じ言葉でも、書き方によって受け取る印象は異なり、誤解を与える可能性もあります。
例えば、”OKAY!!”と伝えると、怒鳴っているようにも、興奮しているように取れます。シンプルな”ok.”も、肯定的に受け取れもしますが、簡単すぎるがゆえに「怒らせたかも・・」と思う人もいます。
絵文字やスタンプを含めた言葉の使い方について、チームのルールのようなものを作っておくと、受け取り方の行き違いを減らせます。
3.急がず様子を見る(迅速過ぎるとボロがでる)
こちらからメールやメッセージを送ると早く返事が来ないかな・・・と気になり
ます。ですが、焦って相手を急かしたりはしない事です。相手は自分のペースで返信をしてきます。
返事が欲しいからと、eメールの後に、チャットでリマインド、さらに電話でも呼びかけ・・・などすると、相手は驚きますし、気がめいります。そうすると次からその人とのコミュニケーションが少し怖くなってしまうかもしれません。
4.ポジティブな意図である事を仮定し、確認する
相手からのコミュニケーションに不必要に否定的な解釈をしてしまうことはありませんか?
自分が責められているように、または、相手が関心を持っていないように感じられても、実は相手にも余裕がなくて、丁寧に書かれていないだけかもしれません。
何か相手との間にミスコミュニケーションが起きているかもしれない、こちらの意図が通じていないと感じたら、コミュニケーションのチャネルを、eメールから電話へなどと変えてみた方が良いかもしれません。
5.自分・メンバーの好むデジタルコミュニケ―ションツールを明確にする
自分にとって、それぞれのメンバーにとって心地よい通信手段が何であるのかを知っておきましょう。eメールなのか電話なのか、もしくは顔が見えるオンライン会議システムなのかを理解し、それをチームの皆と共有しておくことです。
一度それが分かれば、オンライン会議で発言しにくい人にはチャットでアイディアを書いてもらうことができます。
あるいは、先にメールで全員から意見を送ってもらい、オンライン会議の場では書かれていることについて対話をするなど工夫することができます。
それでも、この人は言いたいことが発言できてなさそうだと感じたら、オフラインでのフォローアップをすることもできるでしょう。
オンライン会議の場でも、メンバーの様子を注意深く観察して、そこで感じたことも大切にし臨機応変にコミュニケーション手段を変えていけるとよさそうです。
コラボレーションを醸成するための4つの鍵
オンラインで信頼関係やコラボレーションを醸成するための4つの鍵も紹介されました。
1.思いや気持ちを明確に示す
個人の意見や思いを表現できる組織文化にしてゆくことが大切です。
オンラインでは思いや考え方が伝わりにくいので、対面の時よりもはっきりと伝えること、そして相手の思いを聞く時間をしっかりとること。そうすることで、お互いの人間性を尊重する文化ができます。
相手を認知する行動、例えば頷きや、相槌などもややオーバーリアクション気味なくらいでちょうど良いとのことです。
2.明確なコミュニケーションを心掛ける
急いで返信するのではなく、メールを打つ前に少し時間をとりましょう。自分の意図が正しく伝わるためにはどういった内容がよいのかをしっかり考えます。
いつまでに返事が欲しいのかは明確になっていますか?
メールの長さは適切ですか?
短い内容であればeメールではなくチャットでいいかもしれません。
複雑であればメールよりも電話を選んだ方がいいかもしれません。
添付ファイルの方がいいのか、本文に書いたほうがいいのか、もしくは動画の方が伝わりやすいか?
相手との関係性を考えると、それは正しいチャネルでのコミュニケーションですか?
何度かお会いしたことがある人であれば簡潔なメールでもよいけれど、会った事のない人でしたら、最初はオンライン会議システムで顔合わせた方がいいでしょう。
できれば、どのようなチャネルはどんな時に使うのかのルールを決めておくと混乱を避けられます。
C.C.にはどう言う意味があるのか、どんな時に返信を期待されているのか。
全員へ返信は本当に必要なのか、必要だとしたらそこにどんな意図があるからなのか。
相手が余計な不安を抱かないように、正しい相手に正しいタイミングで正しいメッセージを伝える事も大切です。
3.頻繁な対話を心がける
変化が激しくなっている今は、週一回の1時間のミーティングよりも、毎日10分のチェックインをした方が業務の優先順位の組み替えがスムーズに行きます。また、お互いの状況をリアルタイムで把握することができるので、お互いに助け合うことができるようになります。
仕事の納期は、意味のある設定をしましょう。明確な納期を伝えることで皆が自分で自分の仕事の優先順位を判断できるようになります。
皆が信頼しあって協働することが可能となるやり方でコミュニケーションしましょう。
4.信頼のマインドセット
以上の3つの鍵を実践しながら、さらにメンバーを全面的に信頼しましょう。
防衛的になってしまう人が出ないよう、自分自身の脆さを見せることも、相手に安心感を与えます。
あるいは、ちょっと息抜きできるような雑談の時間や雰囲気を作ることで心理的な安全を皆が感じることができます。
皆さんも出来るところから実践してみては如何でしょうか?
東京工業大学大学院 社会理工学研究科 修士課程修了/ 一般社団法人日本ポジティブ心理学協会 理事。
株式会社ビジネスコンサルタントにて営業マネジャー職を担当。その後、同社における顧客組織の組織開発と人材開発への投資効果と投資効率を最大限に高めるための会員制サービスの商品戦略を担当。現在は同社の研究開発マネジャーとして、サステナブル社会の実現のため、ポジティブ心理学やイノベーション理論、自然科学ベースの戦略策定フレームワークに基づく商品開発およびその実践を担当。