この記事では、当サイトを運営する株式会社ビジネスコンサルタントがご支援した、エア・ウォーター株式会社様におけるサステナブルビジョン策定/SDGs推進の取り組みについてご紹介します。
前回の記事では、エア・ウォーターグループ(以後AW社)が社員参画型でサステナブルビジョンとロードマップの検討を進め、またSDGsへの理解を素早く広めるために、どのようなプロジェクトの体制を組み、展開を図ったかについてご紹介しました。
こうしたサステナビリティ/SDGsに取り組もうという全社の方針を受けて、現場ではどのような変化が生じているのでしょうか。AW社農業・食品カンパニーより、事業推進担当としてビジョン・ロードマップ・KPI策定に携わられた頭金様、鷹野様、そして農業・食品カンパニーに所属する事業会社の方々にお聞きしました。
農業・食品カンパニーは、農業・食に関する事業を展開しており、SDGs貢献のポテンシャルは高いと期待されています。関連企業を多数抱えていますが、中小規模の事業体も多く含まれます。そのため、ある程度の社員数があり、兼任でもよいので取り組み主体となるプロジェクトチームを立ち上げるだけの組織力のある5社が選ばれ、SDGs推進に取り組むことしました。
今回はそのうちの4社、大山春雪さぶーる株式会社、AWアグリフーズテクノ株式会社、ゴールドパック株式会社、株式会社プレシア より、SDGsの取り組みを推進される方々にお集まりいただきました。
ゼロベースの学びからスタートして「絶対やらないといけないという気持ち」
まずお話を伺ったのは、大山春雪さぶーる株式会社 取締役早来工場長 斎木 朋弘さんです。同社は、ハム・ソーセージの製造販売、冷凍野菜の輸入販売、外食向けソース類の製造販売などを行っています。
お話の冒頭で、今では「絶対やらないといけないという気持ち」と語った斎木さん。
会社の取り組みがスタートするまではSDGsは全くの初心者であったとのこと。本を買い学ぶ、研修に参加する、といったところから少しずつ理解を深めてきたそうです。会社としての取り組みのスタートは、社長発信で全社員に取り組みのアイデア募集を呼びかけたこと。社長からの直接の呼びかけというのが、社員の方々にとっては非常にインパクトのあるもので、多くのアイデアが集まりました。
「学べば学ぶほど、SDGsの各ゴールは相互に関連していて、自分たちには関係ないと言るものではないと感じるようになりました」「工場なので、紙やエネルギーの節約などコストダウンには当然取り組んできましたが、それが実はSDGsにつながっているという意識が芽生え、社員の姿勢が変わってきたと思います」
こうした社員の意識の変化は、各社で語られたことです。
若手社員が部門を超えてコミュニケーションを活発化、現場発のアイデアを実践
AWアグリフーズテクノ株式会社からは管理部 主任 奥原匠さんにお話を伺いました。
同社は、畑から野菜を収穫するところから、冷凍加工し販売までを手掛けています。農産物を取り扱う会社として、創業時より環境への意識は高く、土壌を豊かにするため、野菜の残差はたい肥にして畑に戻す、といった取り組みを行ってきました。
「SDGsは、取り上げられているテーマが広いですが、学習することで、これまでは自分たちには関係ないと思っていたことにも気づきき、アクションするきっかけとなっています」。
同社では、社長の発案で、柔軟な発想での取り組みを期待し、20・30代社員でSDGs推進のプロジェクトチームを結成。メンバーの日ごろの業務は、農家さん相手の営業、製造事務、製造現場などさまざまで、まさに部門横断のチームです。プロジェクトは、事例研究し、SDGsについて学び、何をしていこうか、自分たちなりに考えるところからスタートしました。また、社長からはこれからの時代に必要で重要な取り組みであると強い動機付けもありました。
すると、これまで業務上では接点のなかった社員たちが、部門を超えて関わり、現場発の改善アイデアを実践するようになってきたと言います。
これまでは人手も限られるので、効率性を重視した業務運営をしてきました。たとえばアスパラガスは、加工の際に根元を大きく切り落とします。その切り落とした部分は、「その方が効率的だから」という理由で、捨ててきました。そこに「もったいない、何か商品開発できないだろうか」と着目。若手社員が、消費者目線の意見を求めて加工現場の女性パート社員にもヒアリングするなどして、商品化アイデアを検討しました。以前なら社員間にこういう関りはなく、若手社員の活発な姿勢・動き方にさらに期待が高まります。
SDGsを機に環境対策をさらにアップデート、選ばれる会社であり続けるために
ゴールドパック株式会社は、オリジナルブランド及びOEMで飲料の製造・販売を行っています。専務取締役 品質保証本部長 桜井克治さんにお話を伺いました。同社では、2000年代の初めにISO14001を取得しており、基本的な環境対策(省エネや水使用量の管理)は長年取り組んできました。しかし長年取り組んできたがゆえのマンネリ感もあり、「今回のSDGsの取り組みは良い刺激となる」と桜井さんは言います。
顧客から選ばれるためにはサステナビリティの取り組みは必須
事業のかなりの割合をしめるのが、OEM(受託生産)です。2015年のSDGs採択、2018年に海のプラスチックごみ問題に焦点が当たったころから、取引先からの要望の変化に直面しています。サステナビリティに関する問い合わせや商品の仕様変更が増えており、たとえば、リサイクルの観点から、アルミ箔のついた紙パックはリサイクルしにくいため、アルミ箔のない紙容器への転換などを進めてきました。
これまでは「それをやらないと顧客から選ばれなくなってしまう、仕事が無くなってしまうという危機感」がより強かったそうです。より選ばれる受託製造者になるために、サステナビリティの対策は必須となっており、全グループを挙げたSDGs推進を好機と捉えられています。
負荷をなくすからプラスの影響づくりへ
さらに今後は、飲料メーカーとして一番大きな環境負荷の要因となっている水管理の取り組みをさらに前進させようとお考えです。「工場では毎日大量の地下水を使用しています。その水源を守る、育む、というのが大きな課題です」。社外のパートナーとともに科学的なアプローチで、工場で使用している地下水の水源域を把握し、その地域の森林保護をするなどして地下水を育む活動に取り組むことを目指しています。
「もったいない」が職場のキーワードに。フードロス削減、アップサイクル、コストダウンを実現
株式会社プレシアからは、生産本部・本社工場 第1製造部 副部長 梅津貞治さんにお話を伺いました。
株式会社プレシアは、パン、菓子類の製造及び卸業、デザート、洋菓子類の製造販売を行っています。梅津さんは長年製造部門を担当されており、この1年ほど前から(インタビュー時点)社内でSDGsの取り組みに製造の代表として関わってきました。
現在の工場は立ち上げから3年が経過しています。当初より効率化・自動化をコンセプトに取り組んできたのですが、最初の1・2年は「いかにして良品を作り、不良品を減らすか」に注力する状況でした。良品作りに注目してきたがゆえに、不良品とされる割れたりかけたりしたタルト、またロールケーキ製造時にできてしまう耳等は捨てざるを得ないと廃棄してきたそうです。今その状況に変化が起きています。
ここ1年ほどで良品を安定的に作れるようになってきたところに、会社の方針としてSDGsに取り組むということで、良品作りに加えて「廃棄するものをもっと減らす」「廃棄してきたものを活用する」にも意識が回るようになってきたのです。「今、社内では「もったいない」がちょっとしたキーワードになっています」(梅津さん)。
スキルアップでフードロスを減らす
プレシアの看板商品の一つはロールケーキです。両端を美しく切りそろえられたロールケーキが、パック詰めされ、スーパーマーケット等で販売されています。
ロールケーキは、薄く焼いたスポンジ生地でクリームを巻き、切りそろえて商品に仕上げます。両端は「耳」と呼ばれますが、従来は廃棄してきました。が、これがフードロスになっており「もったいない」として、改善策がとられることとなりました。
従来は1回あたり4本分、43センチでロールを巻いていました。ロールケーキはクリームがたくさん入り柔らかいので、長くなればなるほど、きれいに巻くのは難しいものです。しかし、今では社員がスキルアップすることで、5本分53センチでロールを巻けるようになりました。その分、切り落とす耳の割合が減っています。
そもそもフードロスをなくすという観点では、耳が付いたままのロールケーキが販売できれば良いのですが、現状のマーケット状況では難しいのだそうです。消費者側の意識改革も求められると感じました。
アップサイクルで捨てるを減らす
さらに、切り落としたロールケーキの耳の活用も具体的に進んでいます。廃棄することにもったいないと気づいた社員らの発案で新商品を開発、工場直営の店舗で販売を開始しており、メディアにも取り上げられました。
ネーミングも自分たちで考えた「もったいないスイーツ マドレーヌ」。プレーン味とココア味があり、原料の2割にロールケーキの耳を使用しています。今後は同じく工場で出てしまう割れたタルトをトッピングに活用して、さらにアップサイクル※を進めます。
「従来は捨てていたものを活用できるところまで、SDGsが成長させてくれたと思います」(梅津さん)
※アップサイクル:製造過程で捨てていた原材料を活用し、新たな製品を作ること
ちょっとした問いかけがかなえた、大きなコスト改善
プレシア社ではもう一つ、象徴的な取り組みが実現されています。それがごみの分別によるコスト改善です。これもまた、SDGs推進活動を受けて何かできないだろうかと考えた社員が、取引先と会話したことから始まった取り組みです。
工場では、原料の入ったビニール袋や容器などで、月に25トンほどの廃棄物が出ます。今までその多くを占めるプラスチックごみは、特に疑問を感じることなくひとまとめにして廃棄してきました。
「私たちの側にも「やっても変わらない」という思い込みがあったし、「プレシアさんの工場は24時間稼働しているからごみの分別なんかできないでしょう」と思われていたのだと思います」(梅津さん)。
分別したら何かいいことがあるのか、処理費用が安くなったりするだろうか、と気づいた社員が質問してみて初めて、ごみの分別を提案されたそうです。今では、汚れの少ないプラスチックごみは分別することで、固形燃料の原料となります。そしてごみ処理の費用も大幅にコストダウンできました。
期待される、新たな事業創出に向けて
最後に、AW社農業・食品カンパニーで、ビジョン策定に携わられた事業推進担当の頭金さん、鷹野さんに、プロジェクトにおける検討過程を振り返ってお話を伺いました。
「コンサルの先生方に、質問し、コメントをもらって、ディスカッションする中では、抽象的な表現やあいまいな表現ではなく意見がもらえたこと、またジャッジが早いことに助けられました。スピード感ある進め方ができたのが良かった。」(頭金さん)
「SDGsの取り組みは、非常にタイミングが良かった。SDGsについてメディアが取り上げる機会も増え、またコロナ禍もあり、社員が問題意識を高めやすかったと思います」(鷹野さん)
ビジョン策定からスタートし、現場でのSDGsに資する取り組みの拡大というここまでの成果は評価しながらも、
「トップから期待されているのは新たな事業に取り組むことです。全グループとして、ビジョンを示し、ロードマップを検討したということでレールはひかれたという状況です。新たな事業創出は簡単な道のりではありませんが、思いを持って取り組んでいきたいと考えています」(頭金さん)
今回お話を伺った4社とも、サステナビリティ推進担当は兼任であり、限られたリソースでの活動です。それでも、まずは社員の方々の熱量を原動力に、環境負荷を減らす取り組みが進展し、実際にコスト削減の効果が出ています。また、社員間に新たなコミュニケーションや協働関係が生まれています。これらもまた、企業がサステナビリティに取り組むことで得られる、価値のある変化と言えます。
本シリーズでは、3回にわたりエア・ウォーターグループにおけるサステナブルビジョンの策定と、SDGsの職場実践についてご紹介してまいりました。自社のサステナブルな未来を考えることは、事業の価値を再認識し、未来に向けてアップデートすること。また、サステナビリティに取り組むことは、コストダウンとか、社内外へのアピールというだけではなくて、多くの人を惹きつけ、新たなアイデアや実践をもたらすものでもあります。
サステナブル経営への一歩を踏み出してみたい、より詳しい話を聞いてみたいという方は、ぜひこちらのメールアドレスもしくはお問合せフォームよりお気軽にお問い合わせください。 gbgp@bcon.co.jp
Vol1. サステナブル経営の第一歩はビジョン策定。2050年を見据えたビジョンの考え方
Vol2. ビジョン実現につなげるために。社員参画をかなえるプロジェクトの設計&運営のポイント
Vol3. SDGs推進で職場が変わる!社員同士のつながり、やりがい、アイデア実践の成果とは
京都大学総合人間学部、同大学院人間・環境学研究科修士課程修了。専攻は文化人類学、クロアチアで戦災からの街の復興をテーマにフィールドワークを行う。
株式会社ビジネスコンサルタント入社後、企画営業・営業マネジャーを担当。現在は同社の研究開発部門で、環境と社会の両面でサステナブルな組織づくりにつなげるための情報収集やプログラム開発等に取り組んでいる。Good Business Good Peopleの中の人。