サスティナブル経営のための変革を成功させる秘訣を学ぶシリーズは最終回です!ここまで、「断絶の変化」とは何かを知り、断絶の変化を前に、組織がすべきことは何かを考えてきました。
1.断絶の変化とは何か
2.持続可能な経営のための優先順位づけとは
3.変革の成功率向上に外せない3つのこと!
4.ABCDで持続可能な未来への旅を始めよう!←今回はこちら
皆が変革に対処できるよう身に着けるべきスキルセットの一つとして前回ご紹介した「ABCDプロセス」について、詳しく学んでいきましょう!
ABCDプロセスとは、
持続可能性原則を枠組みとしたビジョンを描き、
ビジョンに到達するための戦略策定を行うためのプロセスを示したもの
です。5レベル・フレームワークを多くのステークホルダーに理解してもらい、実際に運用してもらうために機能するシンプルで、効果的な手法です。プロセスは4つに分かれます。
ステップA:持続可能な社会という視点を学び、その社会の中にビジネスモデルを描く
ビジネスは、人のつながりである社会と自然環境とが持続可能なときに初めて持続可能であるという前提に立ち、自然環境と社会システムの持続可能性原則を学びます。そこはいわば「カンペキな未来」の世界。何一つ持続可能性原則に反することはありません。二酸化炭素の排出量は、自然が吸収できる量の範囲内にあり、化石燃料に頼らないエネルギーシステムが整備され、日本の人口は今より減少しているけれど、企業経営は健全です。金属や化合物は全て循環経済にとどまるシステムができています。宗教、ジェンダー、性的指向による差別はなく、人は皆健康で、自分の向上心のまま学び、お互いに影響を試合、意味のある人生を生きています。そんな世界で、自分の組織はどんな価値を誰にどんな形で提供しているでしょうか。そのビジネスモデルを考えます。
「カンペキな未来」なんて言うと、うちはまだまだ…なんて声も聞こえてきそうですが、未来はそれぞれの企業に「準備できてますか?」なんて聞かずに訪れます。みなさんはインターネットがない環境でのビジネスを想像できますか。「うちの会社の従業員は携帯電話を持たない主義です」という会社と快適にビジネスできますか。私たちは自分の意思と関係なく、携帯電話やインターネットがあるというつながりの社会、つまりそういうシステムに生きています。私たちは、自分たちが今いるシステムにおける成功原則を理解して、やり取りをし、ソリューションを生み出さないと生き残れません。ビジネスの評価指標として、これまで株主価値の最大化、環境、社会、ビジネスに共通する価値の最大化などと言われてきました。これからは、地球環境の持続可能性を高めることをビジネスの成功とすること、すなわちシステム価値の最大化が求められます。(こちらの記事で詳しく)
ここでは、今の時点で組織が販売している製品やサービスそのものではなく、製品やサービスが「顧客の基本的ニーズを満たすためにどのように貢献しているのか」に注目します。オーラライトの場合は、電球という製品ではなく、「面倒な作業なしにいつでも環境に優しい明るさを提供すること」というソリューションで顧客の生活に貢献しようしましたよね。将来技術革新があり、もしかしたらLEDとは違った製品が開発されるかもしれません。でも、このソリューションは依然として社会で求められるものに違いありません。今販売している製品やサービスがなくなっても、その企業がなくなるわけでも、顧客からの信頼がなくなるわけでもないのです。
そんな持続可能性原則が満たされるのが何年後なのか、それはどのぐらい難しいことなのかはここでは関係ありません。持続可能な社会を構成する企業としてのビジョンを描くことに集中します。
ステップB: 持続可能な社会という視点から現状を理解する
今度は持続可能性原則内に描いたビジョンという目標を達成するにあたり、強みとなるものと弱みとなるものを、「現在の」ビジネスモデルや組織のあり方、企業を取り巻く経営環境それぞれについて分析します。みなさんがご存じの、SWOT分析をイメージしてください。
オーラライトが変革に乗り出したときの状況は次の通りでした。
・「機敏さ」という企業価値(強み)
・変化を望まない従業員や、脆弱な財務体質(弱み)
・ナチュラル・ステップの支援や「サステナビリティはもはや当たり前」と考えるスウェーデン文化(機会)
・LED市場の急速な成長(恐れ)
そのときに大切にしたいことが2つあります。
まず、個々の要素をじっくり詳細に分析する視点というよりは、要素と要素のつながりにも目を向けるシステム的な視点を持つことです。SWOT分析の段階で組織の弱みや、経営環境の脅威があったとします。それらに影響をしているものは何でしょうか。それらのつながりに働きかけをすることで、弱みを強みに、脅威を機会に変えることだってあるのです。2つ目は、ステップAと混同しないことです。カンペキな社会に生き残った組織から見ると、今の組織の足りない点がたくさん見て、嫌になってくるかもしれません。でも隠さないでください。この足りない!が次のステップのエネルギー源なのですから。
ステップC:描いたビジネスモデルと現状との差を埋めるクリエイティブなアクションをたくさん考える
ステップAとステップBのギャップを埋めるために、どんなアクションがあったらいいでしょうか。どんなアイディアでも構いません。実現可能かどうか、厳密に持続可能性原則に反していないかどうかをいったん脇においてブレーンストーミングを行い、できるだけたくさんのアイディアを出していきます。いわゆる拡散思考で行きましょう。
オーラライトをはじめ、ナチュラル・ステップを導入して成功しているIKEA、スカンデイックホテル(こちらやこちらの記事で取り組みをご紹介しています)といった企業はこのステップで、従業員が自主的に関わる気持ちを高めることに成功しています。そうすることで、アクションを実行することになった段階においても主体的な関わりが続く、つまりコミットメントが得られやすくなるのです。自分たちのアイディアによって自分の組織が良くなるんだという実感を組織に根付かせることは、本ステップの目的の1つでもあります。アイディアの質よりはみんなでやったことが見える「数」にフォーカスすることが大切です。
ステップD: 考えたアクションに優先順位をつけ、アクションプランとロードマップを策定する。
ステップCで出たたくさんのアイディアを取捨選択し、アクションプランを作ります。取捨選択するための判断基準を作るために、それぞれのアイディアを以下の基準で採点してみましょう。
- そのアイディアは持続可能性原則にどの程度合致していますか。
- そのアイディアは、組織が持続可能性原則を満たす方向へ動くことをどの程度後押ししてくれますか。
- そのアイディアに必要な投資額はいくらです。また、どのぐらいの投資利益(ROI)をどのぐらいの回収期間に見込めそうですか。
この3つの質問にまず形式的に5点満点ぐらいで採点してみましょう。例えば、マルモルス氏の行った、「ステークホルダーを定期的に訪れて打ち合わせをし、進捗状況をオープンにして協力を求める」は、
①の視点からは「今の公共交通機関のエネルギー源は化石燃料だから厳密にはアウトだけど、これはもう他に代替手段がないから…4」、
②の視点からは「金融機関の理解が得られないと企業活動できなくなるから…5」、
③の視点からは「投資は運転資金内でできるけど、この活動はコストセンターだから2」
といった具合です。集まったメンバーそれぞれが採点をして、合計点を比べましょう。高いものから順に実施する時期に振り分けて生きます。これは1年後、これは3年後、これは5年後…、といった具合です。
この質問の趣旨を考えながら、ここから微調整します。もしお金が無限にあったら、基本的に②の投資だけをどんどんやればいいのです。目的は持続可能性原則を満たすことなのですから。でも、今の社会経済システムでは、そういう投資に必ずしも高いROIが期待できるわけではありません。期待できたとしても、きっと20年後には…のような案件に投資するのは勇気はもちろん、現実問題としてまずお金がいるのです。ですので③の視点はとても大切です。持続可能な社会で生き残る組織になるための投資に資金を供給してくれる貴重な活動になるのですから。現時点で安定的に事業を続けながら、いかに将来に向けた投資に振り向けるのか、ということは普段のビジネスで考えていることですよね。その要領です。
1年後、3年後、5年後に書かれているアクションを見て、予算と付き合わせて実行するアクションを決めましょう。可能であれば、どの部署のどなたがリーダー、というところまで決めてしまいます。これでアクションプランとロードマップが完成です。
ABCDプロセスを繰り返しやろう
ABCDプロセスは、毎年か2年に1度か。定期的に行います。
Aのビジョンはきっと大きくずれることはないと思います。しかし持続可能性原則の枠に書いたビジョンに向けて動き出すと、これまでとは違うご縁や機会に出会ったり、これまで気がつかなかった組織の強みも発見したりということが起こります。社会も大きく動き、状況が変わっている可能性もあります。持続可能性原則を使うことにも慣れてきて、視野も広がっているに違いありません。ステップBでぜひもう一度SWOTをやってみましょう。その時点と「カンペキな社会」を比較して、ブレーンストーミングします。以前なら出てこなかったアイディアもきっと出てきます。優先順位をつけ、必要なら、ロードマップを修正します。
月に到達したアポロ号の軌道は、最初に描いた軌道と比べてたった5%しか重なっていないそうです。定期的に、現時点と目指す場所を確認してその時点で目的地に向かってベストを尽くすことの繰り返しが、偉業達成につながるのです。
おわりに
「断絶の変化を超える」をテーマに行われたセミナーについてお読みいただきました。
持続可能な経営を目指して一生懸命頑張っているけど、これでいいのだろうかという不安もある方に、マルモルス氏の経験と知恵と「一緒にやろう」のメッセージが届けばと思って書きました。今回のWINセミナーで一緒に学ばれたみなさん、それから、このブログを読んでくださったみなさん、いかがでしたか。
今後さまざまな形で現れることが予想される断絶の変化一つ一つに今のやり方で対処する手をちょっと止めて、その先の先にある持続可能な未来の力を借りてみませんか。マルモルス氏は、サステナブル・ビジョンを描くためには持続可能性原則を守ることだと何度も強調されていました。でもそれが何か特別難しいことなのではなく、トレーニングを受けることで誰でもできるようになるということもメッセージされていましたね。
今後も持続可能な学びの場をご一緒できますことを楽しみにして、今回のシリーズの結びにさせていただきたいと思います。ありがとうございました。
一般社団法人サステナビリティ・ダイアログ代表理事/Art of Hosting Japan 世話人
国際基督教大学を卒業後、大手監査法人に公認会計士として勤務。出産を機にサステナビリティに強い関心を持つようになり、家族とともにスウェーデンで4年に渡り生活。持続可能な社会のための戦略的なリーダーシップ等2つの修士課程で学ぶ。留学中に出会った北欧発の参加型リーダーシップトレーニングArt of Hosting、グラフィック・ファシリテーションを軸に、スウェーデンのサステナビリティ戦略フレームワークを伝えるための活動を展開。